僕は局長の後を付いて行き、エントランスホールに出れば真っ暗だった。
沢山の人が右往左往していたはずのエントランスに人気はなく僕と局長の2人だけだった。

「……誰も居ない……?」
「そうだ、今は真夜中だからな」
「こんな時間に外へ……?」
「あぁ。今から俺がする事は会社にも世界にも背いた行動だ。そしてこれは俺の自己満足に過ぎない事なんだろう」
「どういう事なんですか……局長……」
「君を自由にしてあげようと思ったんだ、ジュードくん。否、ジュード・マティス」

成立していない会話をしながら、会社から出れば外も当然真っ暗だった。
そしてそのまま付いて行けば先日この世界のアルフレドと出会った公園の正面にあるマンションへ連れて行かれた。

「俺だ、開けてくれないか」
「こんな夜遅くに誰かと思えば君か。今日はアルフレドも居るよ」
「あぁ、知っている。この子をしばらくの間預かって欲しいと思ってるんだが」
「本当に君は唐突だね、まぁいいよ。どうせ君にあれこれ言ってもどうしようもない話なんだろう」
「はは、話が早くて助かるよ」
「それで君は」
「ジュード……です」
「そうか、ジュード君ね。ユリウス、君も珈琲くらい飲んで行くかい?」
「いや、遠慮しとくよ。弟が就職活動を頑張っているから労って旅行でも行こうと思うんだ」
「そうか」

マンションの一室の前で局長と別れ、僕は眼鏡の男に連れられて部屋の奥へと案内された。
その奥の部屋にはこの世界のアルヴィン、アルフレドがソファーに座りくつろいでいた。

「アルフレド、紹介するよ。この家でしばらく預かる事になったジュードくんだ」
「?! 預かるって……、それよりあいつはどうしたんだ」
「なんか忙しそうでね、この子を預けたら帰ってしまったよ」
「……」
「まぁ、そこに座りなよ。何が好きかい? 珈琲? 紅茶? あぁ、パレンジジュースもあるよ」

僕は眼鏡の男にパレンジジュースと告げて、アルフレドの座るソファーの横に腰掛ける。
僕らの最後の会話の尾を引いているのか空気は重かった。
この人に謝罪をしなければいけないと思ったけれど、口はなかなか開く事はできなかった。

「……」
「……」
「あのさ……」
「はいっ……?!」
「そんなに緊張するなよ」
「……ごめんなさい……」

重い空気に耐えかねて、先に口を開いたのはアルフレドの方だった。
僕は驚き、彼の方を見上げるとアルフレドは頭を掻いて目をわずかに反らした。

「この前はガキみたいにこれを奪い取っちまって悪かった……」
「……違うんです、それは確かに貴方のものでした……」
「たしかにこれは俺の物だ。でもお前が言ってる事は嘘じゃないってあいつから聞いた」
「……」
「これは、俺がリーゼ・マクシアっていう怖い世界に漂流した時に使っていた物だ。漂流していた5年間にいろんな物を失ったよ。なんとかこの世界に戻って来て俺が持っていたのはこれだけだ。……これがないと忘れちまいそうで怖いんだよ。……だからあんな言い方しかできなかった」
「……」
「んな、話聞かされても困るよな。悪ぃ」

僕があのリリアルオーブを思い浮かべて、あの世界のアルヴィンを想うように彼もリリアルオーブを通して過去を見ていた。
あれは僕だけじゃなくてアルフレドにとっても大切なものだったのだと僕は知った。
だから僕は引かなければいけないそう諦めようと心に誓ったはずなのに諦め切れずにまた涙が溢れ出る。

「……聞けて良かったです。……僕も貴方と同じようにそれに思い出があったから……だからしょうがなかったんだと思います……」
「はい、パレンジジュース……ってアルフレド、またジュードくん泣かしたの」
「俺は泣かせるつもりで言ったんじゃない……すまない」
「……泣いてばかり居てごめんなさい……、僕は貴方に謝る為に……思い出に水を差してごめんなさいって……貴方をアルヴィンと重ねてごめんなさいって言いに来たのに……」
「ジュードくん?」
「本当にごめんなさい……! 僕はもう……大丈夫ですから……!」

ここに居ても泣いてばかりで二人に迷惑をかけてしまうと思い、僕はこの部屋から飛び出しエレベーターに飛び乗り公園に出る。
そして僕はトリグラフの街の異様な光景を目の当たりにした。

『時歪の因子探すの面倒臭いなァ。やっぱこの方法が手っ取り早いな、ユリウス』
『相変わらず野蛮な方法をするな、元の世界に戻れないって事は時歪の因子は消えてない』
『じゃあどっちが先に仕留めるか勝負だ』
『あぁ、いいだろう』

夜のトリグラフの町並みは業火で焼かれていた。
そして街の中で一番高いビル、クランスピア社のビルの頂上に大きな武器を持つ二つの人影が見えた。
その影はこの世界の全てを消そうと画策していた。


『巡る器の還る場所 7』

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