僕は再びクランスピア社の地下室に帰って来た。
帰る道中にひとしきり流した涙は枯れて、ただ呆然とベッドの上で踞る事しかできなかった。
そんな僕を見て局長は何も言わず部屋を施錠して僕の前から姿を消した。

僕があの世界の僕になりたいと思ったけれど、結局僕はあの世界の僕にはなれなかった。
だからこの世界のアルヴィンがあの世界のアルヴィンでない事くらい理解できたはずだったのに。
同じ顔だったから、同じ声だったから、僕は夢を見らずにはいれなかったのだろう。

「ジュード様、昼食でございます。……社長も心配しておいでてす。召し上がられて下さい」

何も進展しない考えを思い浮かべ、食事を取る事もなくベッドの上で踞る日々が数日続いた時だった。
いつもは一言言って去る女性が珍しく僕に呼びかけ僕に食事を促した。

「いらない……」
「倒れられても困ります」
「何で困るの? 僕は何でここに繋ぎ止められなくちゃならないの?」

素朴な疑問を女性にぶつけると、その女性は眼鏡のフレームを指先で押上げ淡々と話し出した。

「貴方は分史世界から物を持ち帰る能力を持っています。その力が我が社には必要な力なのです。……これ以上は私の口から話す事はありません」
「持ち帰る……? 持ち帰った物が消える事ってあるの……?」
「話す事はないと言いましたが……。……ございます。それはこの世界にまったく同じ物が存在した時です」
「……!?」
「ジュード様?」

僕はあのリリアルオーブの事を思い出した。
アルヴィンから貰ったリリアルオーブは間違いなくあの世界のものだった。
そしてそれはこの世界のアルフレドと出会い消えてしまった。

女性の話を聞くと、あのアルフレドの言っている事は嘘ではなく真実に思えた。
僕があのリリアルオーブを大切に思っているように、この世界のアルフレドが同じように思っていたのだとしたらそれを自分の物だと言ってしまった自分に嫌気が差す。

「……食べるから……。局長に言って欲しい事があるんです」
「はい、なんでしょうか」
「アルフレドに会いたい、そう伝えて下さい」
「……善処します」
「……ありがとう……」

ただ僕はこの世界のアルフレドに謝りたい、そう思った。
結果的にあれは僕も持っていた物はでなかった、だから嘘を吐いてごめんなさい、と。
そして、重ねてしまってごめんなさい。そう謝りたかった。

僕の持つリリアルオーブが消えたように、彼も消えてしまったのだと今頃になって理解する。
だから彼に謝って、僕はまた普段と同じ生活に戻る。
あの出来事こそが夢だったのだと思えばもう涙は流れないと思ったから。

「ジュードくん、元気かい」
「……局長……」
「君をこれからアルフレドの元に連れて行こうと思う」

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