プリミア暦4305年 Jコード20
社長にクルスニクの鍵の子を実戦に投入すると話を聞いてから数日が経過した。
付き添いのエージェントが分史世界進入過程でクロノスの攻撃を受け鍵の子と離別したとの報告を受けた。
結果その間に鍵の子はその世界の人間と親しくなり、結果その人間を殺し分史世界の破壊を確認した。
鍵の子は衰弱しているようで社長から面倒を見るように任された。

プリミア暦4305年 Jコード23
彼に面会する前に彼に関する情報を集めると驚くべき真実が書いてあった。
彼は20年前に断界殻が開かれた時にリーゼ・マクシアに迷い込んだエレンピオス人とリーゼ・マクシア人の間に産まれたハーフだった事。
現スヴェント家当主のジランド・ユル・スヴェントにより両親と離され16年前の断界殻が開かれた時にエレンピオスに連れてこられた事。
おそらくこれは通信をする段階でクルスニクの鍵としての能力を我が社の機械が探知し、ジランドに内通し何らかの取引が行われたのであろう。
そしてその取引の結果、彼はこのクランスピア社の地下にて養育されたとの記録があった。
彼の経歴について同情する所もあるが、過去にルドガーに対して同じ事をしたのではないかと考えてしまう。
いや、そんな事はないと考えたい。
その為にも俺はルドガーの秘密と能力を守らなければならない。

プリミア暦4305年○月×日
鍵の子、ジュードと今日面会した。
エージェントが殺害した人物、彼が言うアルヴィンについて聞かれた。
しかし彼に告げれる事が悲しい事でしかないと思うと真実を告げていいのか困惑した。
期待を持たせるのも良くはない、そう思い彼に告げたが正しかったのかどうか定かではない。
彼の元気がない事に食事に誘ってみたが回復には至らなかった。
その帰り道にジュードがアルヴィンと言って駆け寄る人物を見て驚いた。
アルフレド・ヴィント・スヴェント。俺の友人の従弟であり小さい頃は遊んだ人物だった。
アルヴィン、それはおそらく分史世界のアルフレドの短縮名だと俺は気付いた。
他愛のない会話をしているうちにジュードが小さい円盤状のものを彼に見せつけた。
俺はそれが何なのかよくわからないが、分史世界のアルヴィンから貰った物と言っていたはずだ。
これが鍵の力か、と驚く暇もなくこの世界の理が2つある円盤状のものを一つにした。
この状態は良くないと思いジュードに声をかけ帰社を促した。
彼は真実を打ち明けた時と同じぐらい悲しい顔をし泣いたが俺には彼をどうする事もできなかった。

プリミア暦4305年 Jコード48
分史世界の破壊数がこれで何個目になったのだろうか。
弟の力を借りた俺の力でもまだ世界を破壊する事ができる。
秘密と能力を守る為にも分史世界の破壊を行わなければならない。

プリミア暦4305年 Jコード49
分史世界の破壊を終えて会社に戻る途中にエージェントと出会い、仕事を任せようと話を振ったのだが何故だかそのエージェントは逃げて行った。
腑に落ちないが会社に戻ればそのエージェントは会社に居て先ほどの事を問いただすと何の事だかわからないという顔をしていた。
俺はとうとう幻覚を見る程に力を使ってしまったのだろうか。
いや、手の状態から見て時歪の因子化の進行は然程進んでは居ない。疲れているのだろう。

プリミア暦4305年 Jコード63
先日の一件から今日も同じような事が起こった。
俺は一つ思い浮かぶ事があった。
しかしあの時の円盤は確かに2つあったものが1つになった。あの時点では間違いなくここは正史世界だったはずだった。
だとしたらこの世界に俺ではない時歪の因子が産まれているのだろう。
それをあの違う世界のエージェントが破壊すればこの世界は消えるのだろうか。
いや、まだそうと決まった訳ではない。
だがそうだとしても、この世界の俺はルドガーの秘密と能力を守る事が出来る事は素直に喜ぶべき所なのだろうか。

プリミア暦4305年 Jコード65
ヴェルからジュードが衰弱しアルフレドに会いたがっていると聞いた。
世界を破壊している間に少し月日が流れている事に彼に申し訳ないと思った。
俺はバランに連絡し引き合わす前にアルフレドと話がしたいと言い了承を得た。

プリミア暦4305年 Jコード68
今からアルフレドと会社の近くにあるカフェで落ち合う約束だ。
彼に話す言葉を選ぶためにもカフェに居る間は録音を続けようと思う。

「やあ、アルフレド。忙しいのにすまない」
「そんなに忙しくもないよ、お前から会いに来るっていう事はこの前のあの話か?」
「……話が早くて助かるよ。そうだ、あの男の子の話だ」
「悪いが俺は本当に心当たりはないんだ」
「あぁ、それは知っているよ。ただ、あの子が言った事も本当なんだ」
「何の事だかさっぱりわかんねーな……、ユリウス、何か大切な事を言ってないんじゃないか?」
「……まぁ、たしかに本当だと言って納得できる話じゃないと思う。ただ、俺が今から話す事もアルフレドにとっては理解し難い話かもしれない。俺が嘘を吐いていると思うかもしれない。それでも聞くか?」
「始めから言うつもりで呼んだんだろ、俺の事」
「そうだったな……。簡単に言えばあの子、ジュードくんは別の世界の君と出会って君と一緒に居たらしい、そして君が持っていたあの円盤状の物を貰った。そしてその別の世界が消えて、この世界でアルフレド。君に出会ったんだ」
「……ちょ、ちょっと待ってくれよ。全然、これっぽっちも話わかんねーんだけど」
「はは、だろうな」
「ははってなぁ。俺にしてみれば初対面なんだ。……それにこれは渡す事はできない」
「わかっているよ。それでもあの子は君に会いたいそうだよ」
「でもそれは俺に会いたいんじゃない、俺の形をした誰かなら誰でもいいんだろ」
「あぁそうかもしれない。でも彼はお前の冷たい反応を見ても、それでもお前に会いたいと言った。たとえ中身が違ったとしてもお前にしか出来ない事だと俺は思う」
「俺にとってはそんなのーー」
「あぁ、わかるよ。お前にはあの子に対して何の感情も、想いもない。迷惑にしか思えないだろう。けれど俺はあの子を救って欲しいと思ってる」
「お前にしては随分情が入ってるんだな、ただの会社の奴に」
「……ただの、罪滅ぼしさ」
「ったく、ユリウスとバランの思考にはついていけねーよ」
「それはすまない。……あの子に会って貰う事はできるかな」
「……気は進まない」
「わかっている」
「けど、お前の話だと俺がこれを奪い取ったみたいで気分悪いから謝る事はする。ただそれだけだ」
「感謝するよ、アルフレド」
「じゃあな。日にちはGHSにでも連絡をくれ」

これは俺の自己満足なんだろう。
アルフレドに言ったようにこれは罪滅ぼしだ。

プリミア暦4305年 Jコード73
今日、アルフレドとジュードを引き合わそうと思う。
場所は会社を指定するのを止めた。
もうここが進む事を許されない世界なら、彼を繋ぎ止める事に意味はないのだろう。
俺の独断で彼を自由にさせたいと思う。
これで家に帰って、少しは弟の作る料理がいつもより美味しく感じたのなら俺は偽善者なのだろう。

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