死ネタが混ざっている為、注意して下さい。尚死ネタの影響で情事描写が温いです。
数多の分史世界が生まれ、その世界は枝先は違えど本質は同一なものだった。
時歪の因子と同じに近い数の僕が居て、君が居る。
しかしその枝の先の世界で僕達の生存率は著しく低いものだった。
その枝の先の世界に変わってしまった僕らはただ消えるか殺されるかの二択でしか僕らの存在意義は無かった。


『ただひとつの望みがこの手を極彩色に染めた』


道標を揃え、地面に星を描いた時の事だった。
カナンの地が出現しなかったのだ。
その時から間違いなく僕らの世界は分史世界になり、消える事だけが望まれる世界となった。
しかし僕らはただ消える事だけを望まなかった、僕らは生きたかったのだ。

初めはこの世界を消したくないそんな思いだった。
しかしある出来事をきっかけに世界ではなく自分と自分の想う人だけでも救われたいと思うようになった。
その思いをたしかにしたのが仮面を被りヴィクトルの名前を冠したルドガーに殺害されそうになった時だった。
ディールの別荘から逃げ出した僕、ジュード・マティスと僕の想う人、アルフレド・スヴィント・ヴェントは恐ろしい計画を考えた。

それは分史世界を破壊に来る僕らと入れ替わって正史世界に渡りそこで運命から逃げようというものだった。
他の人に気づかれないように僕は僕を消し、彼も彼を消しエルに導かれて共に正史世界へ行くのだ。

あれから数年経った僕らの世界に正史世界の僕らがやってきて、計画を実行に移す日がやってきたのだ。
僕らは自分たちの記憶を辿り彼らを見つけ出し、この手で消した。
そして何食わぬ顔でルドガーやエルの前に姿を表し、入れ替わりを果たした。

「エル、離れるといけないから手を繋ごうね」
「……うん」
「仕方ないから、こっちの手は俺が繋いでやるよ」

旅が終盤に差し掛かったエルは不安に苛まれていて、意図的に繋いだ二つの手を不審がる事はなかった。
そしてルドガーが時歪の因子を破壊すれば、僕たちは自分達の世界を捨てて正史世界へと移動を果たした。
自分自身を消した僕たちに罪の意識はなかった。
そう、ただ僕とアルヴィンが生きたまま生きる事が許される世界に辿り着いた事への喜びが大きかったからだろう。

「ジュード……これでいいんだよな……」
「うん……僕たちはこうしなければ消えたり死んでしまう、だからこれでいいよね……」

ルドガーやエルと解散して、この世界の僕が住んでいる部屋に着いてアルヴィンと顔を見合せて互いの罪を正当化し合う。
この世界で僕たちは殺されることも消える事もないはずだから、と不安をかき消すように二人で呟いた。
そして生きてる事を再確認するようにその夜は二人で抱きしめ合うようにベッドに身体を沈めた。

「ちゃんと僕たち生きてるね……アルヴィン、温かいから……皆、冷たくなって湖に沈められてしまったけど……」
「あぁ、確かに生きてる……この消えない世界で生きてる……」
「だから、もう安心だね……、アルヴィン
「そうだな、ジュード」

脚を絡め、抱きしめた背中に回す手に力を込めアルヴィンの胸に顔を埋めれば暖かくてそれが僕を更に安心とさせた。
それはアルヴィンも同じようで僕の頭を優しく撫でて僕の顔を胸に押し付ける。

「ジュード、ヤってもいいか」
「辿り着いたばかりなのに元気だね、アルヴィンは……。しかもアルヴィンと僕かなり年齢詐称してる事わかってる?」
「あぁ、仮にも未成年だったな? っていうかあの当時からなんだし変わらねーだろ」
「……そうだったね」

恐怖から抜け出し、ベッドの中で抱きしめ合ううちにアルヴィンは僕の服の中に手を忍ばせながらそう言った。
それが嫌ではなかった僕はアルヴィンの手を招き入れ行為へと至った。

「だけどよ、なんかこうお前の部屋でも別世界だと他人の家でヤってるみたいで変な感じだな」
「そうかも……」
「何? 興奮してるの、ジュードくん」
「馬鹿な事言わないでよ……! アルヴィン……」

寝たままの姿勢からアルヴィンに組み敷かれ、キスを交わし衣類を剥かれる。
そして彼の愛撫に悦楽を覚え、甘い声を吐くうちに二人の体温は上昇し身体と心を求めあった。
軋むシングルベッドの上で身体を縺れ合せ、二人で悦楽を共にした。

「アルヴィン……本当にこれで良かったよね……」
「そうだ……そうじゃなきゃ、ただ消えるだけの存在だなんて辛すぎる……」
「僕らはただ、アルヴィンと生きていたかっただけなのに……」
「だから、ここでずっと一緒に居るんだ……な、ジュード」
「うん……!」

僕はアルヴィンの腕の中で静かに眠りについた。
今だけは殺される恐怖、消える恐怖を忘れて。
いつか再び訪れる時歪の因子の誕生までは。

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