陰気臭いドヴォールの街のバーから一歩外に出て大きく体を伸ばす。
皆と言えば、バーで飲食したりポーカーをしたりと夢中になっていて、あの環境が然程好んではいない僕は列車でも見に行こうかと駅へ向かおうとしていた。
バーから一つ角を曲がり、歩き、を繰り返しもうすぐ表通りに出ると思った所で僕は背後に不審な気配を感じて振り返る。
そうすれば以前と同じように男が一人立っていて、その腕を捕まえ問いただそうとすれば背後から別の気配を感じた。
それを脚で蹴ってしまおうと男の腕を掴んだまま体を反転させれば、ガスマスクを被った人間がスプレーのような物を僕の顔へと噴射している。
あわててしゃがみ口を覆っても微かに吸い込んだ粒子の欠片が僕の意識を虚ろへと変化させる。


『救済は闇へと消える』


頭痛と眩暈がする重い頭を起こし、ゆっくりと目を開ければ僕は薄暗い倉庫のような場所に居た。
手足はロープで縛ってあり、これを断ち切らなければ脱出は難しそうだと考えた。
何か刃物はないかと倉庫の中を見渡すが見えるのは段ボールの箱ばかりで刃物のような物は一切見えない。
どうせなら引きちぎってしまった方が早いと両手足に力を入れるが一向に切れる気配はなくポケットに入れたままのGHSが床に転がっていった。

「そうだ……これで、電話すれば……!」
「おっと、そうする訳にはいかないんだよ」

手を伸ばそうとした瞬間に僕のGHSは男の足によって蹴られ僕から随分と離れた所にいってしまった。
僕がロープをなんとかしようと無我夢中の間にこの男はこの部屋に入ったらしく、両手足を縛られ何も出来ない僕を嘲笑うように見下した。
そしてGHSを蹴った男の足が僕の鳩尾を踏みつけ、嗚咽を漏らすと男は面白そうに何度も踏みつける。

「げほっ……うっ……」
「そう簡単に伸びてもらったら困るよ、兄さん」
「ぐっ……あ、貴方は……」
「お、覚えていたか? あん時はあんた達の所為でえらい目にあったよ」

薄暗い倉庫の中で僅かに見えた男はあの時のブラートの男だった。
僕をアルクノアに引き渡そうとしているのだろう。

「自治長にはアルクノアに媚を売る機会を逃しただのなんだの言われるし、最悪だ。だが、お前さえアルクノアに引き渡せば俺はブラートの中で確かな権限を手に入れられる。こんな街でノコノコ散歩してるお前が悪いんだよ」
「……僕をアルクノアに引き渡しても現状は何も変わらない!」
「変わるさ、俺の地位がな!」

男は汚い笑い声をあげ、僕への暴力を一層と激しくさせた。
戦闘慣れしているとはいえ、こんな状態での一方的な暴力が痛くない訳はなかった。

「引き渡す前に前回のお礼もたっぷりしてやらねえとな」
「……まだ……、気は治まらないんですか……貴方は……」
「あぁ、治まらねえな。暴力も飽きたし、あんた以外と女顔だしなぁ」
「……!? な、何するんですか?!」
「何だっていいだろ? それにアルクノアじゃもっと酷い事されるかもしれねえから前教育って奴だよ。俺以外と優しいかもな」
「やっ!やめてっ!」

僕の身体に馬乗りになった男が僕の衣類を乱暴に剥していき、僕の裸体がこんな男の前に晒される。
その行為が嫌でたまらなく拘束された手足で抵抗すれば男は僕の頬を平手打ちした。

「くっ……」
「おいおい、今の状況分かってるのか? 俺に逆らうとどうなるって事が」
「……」

そんな事を言われたとしてもこの状況を素直に受け入れる事なんて出来るわけがなかった。
反抗的に目の前の男を睨みつければ、男は僕の髪の毛を掴み再び嘲笑うように見下した。

「強気で十分な事だなっ、それが何時までもつか見ものだな」
「……離して……っ」
「おうおう離してやるよ、アルクノアが着たらな」

男は持ち上げた僕の頭を床に押し付け、足を括りつけていたロープを持ち上げ後孔を外気へと晒した。
これから起こる行為に嫌悪感が募り持ち上げられた足で男を蹴りつければ僕の頭を掴んでいた男の手は僕の頭を更に床に押し付ける。
その行為に激しい眩暈に襲われ抵抗を一瞬弱めれば男は僕の膝裏に手を当てて下半身を持ち上げた。

「そうやって大人しくしてればいいんだよ」
「っく……やめ……」
「あぁ俺慣らすのとかそういうの面倒だからやらなくてもいいよな」
「嫌だっ!お願いだからっ……!やめて……!!」

朦朧とする意識の中でやめてとひたすら叫ぶ声は男に届かず、男は性器をズボンから取り出し僕の中に入れようと後孔に押し当ててくる。
ただひたすらに抵抗する事しかできず、体を揺らして反攻すれば男は僕の身体を両手で固定し性器を僕の身体に無理やり捩じ込んだ。

「ぐあ”ああっ--、うっうううっ--」
「ほら入れてしまえば強気でいれねえだろ?ハハ。あぁ、血ィ出てんじゃねえか。まぁいいよな」
「っひっ……い、ううっ……」
「ほら年老いたオッサンが一回イくぐらい相手できるだろ? なんたって医学者なんだっけ? わざわざ犯されにこんな土地に来るとかご足労な事だなっ」

下半身が鉛のように重く、全身に感じる痛みに抵抗も弱まり痛みを逃がそうと嗚咽ばかりを漏らす自分に嫌気がさす。
この行為が終わりさえすればどこかで脱出すればいい、頭で必至に切り替えてこの行為に耐えるために目をぎゅっと閉じる。

「今度は随分大人しいんだなっ」
「っう……ぐっ……いっ」
「そういえばあんた電話したがってたよなあ? せっかくヌいて貰ってるんだし少しの間ならさせてやるよ」

男はそう言って僕のGHSを手に取り、誰かのGHSに電話を掛けたようだった。
そして僕の顔の横にGHSを置き、まるで僕に「しゃべれよ」とでも催促するように顎でGHSを刺した。

「だ……れっ……ひっ」
「ほら、喋らないとGHS切っちまうぞ」
「ブラー……にいっ……つ、つかまっ…助けっひゃ!!」
「あぁ? 何言ってんだ?」

僕が誰かに繋がってると信じて声を上げれば、男は僕の性器を態と掴み先端を弄った。
自分の痴態を電話先の人間に悟られたくなくて唇を噛み締めるが、その姿さえ男は笑い僕にGHSのディスプレイを見せた。
そこにはただの待ち受け画面が映し出されていた。

「あんたをアルクノアに引き渡すのに、電話させる訳ねーだろ?」
「……!?」
「なのに必死に助けてってな、ははっ。ほら悲しんでる暇があるならもうちっと楽しませろよ」
「っあ"ぁっ!」

そう言って男は僕の中で質量を増しながらゴツゴツと内壁を擦り荒い息を吹きかけて来る。
その気持ち悪さと痛みに早く終われ、早く終われと念じるように合わさった掌を握る。
僕の諦めにも似た仕草に男はニヤリと笑い、後穴の中にドロッとした精液を注ぎ込んだ。

「っ……」
「なかなかいいじゃねえか。……引き渡す時まで可愛がってやるよ。Dr.マティス」
「……」

男が出て行った室内は静かになった。
相変わらず自由のない手足とボロボロの身体で此処を脱出する事が叶うかすらも分からない。
僕はただ、絶望に暮れるしか無いのだろうか。

「……助けて」

悔し過ぎて口から溢れた救済を求める声は誰に届く事もなく闇に消えていった。

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