私は彼女と彼女を想うべく、彼等を許しはしない。
想うからこそこの計画は綿密に計画し、彼女の心に刷り込み刻み込んだ。
全ては彼女と彼女との幸せな未来の為に。
そして、あの頃の君の存在を欲していた私の為に。


『jude』


あの時、私は全てを失った。
父も兄も友人も塵となり消え、私が憎む全てはウプサーラ湖を真っ赤に染め上げた。
それをきっかけに妻さえも失った。
私の手元に残ったのは何も知らずただ笑うエルという愛しい存在だけだった。
エルの存在と引き換えに世界を救うという彼等の意思に反して行動したのだから彼女だけ居ればそれでいいのかもしれない。
けれど、私は帰りたかった。取り戻したかった、あの3人で暮らしたあの幸せの時間を。
傍らで微笑んでくれる友人が居た優しい時間が帰って来る事を望んでいた。

そしてエルは月日と共に成長し、菫色の瞳のエルと同じぐらいの年齢になった。
計画の実行の始まりが近づいているのだ。
あとは何処かの世界のエージェントが私を、ヴィクトルを見つけてくれさえすればいい。
そうすれば"ルドガー"が彼女等を連れて来てくれるだろう。
--君とは何年振りの再開になるだろうか、君を最後に見たのは私が君を殺した時だっただろうか。
否、ウプサーラ湖で死体として浮かび上がった時だろうか。
葬儀に出た時が最後だっただろうか、どちらにしたって昔の事には変わりない。

そして約束の時は訪れた。
私の思惑通りにエルは幼いながらも果敢に行動し、"ルドガー"を此処に連れて来てくれた。
そこにはもちろん彼も居た。私が殺してしまった彼の事だ。
私が"何でも無いルドガー"として出会ったまま、まだ源霊匣にすら辿り着けない若い彼。

「ヴィクトルさん、僕に用があるって何ですか?」
「あぁ、ジュード待っていたよ」

私は食事を取った後にジュードを庭先まで呼び出した。
源霊匣を完成させる事に懸命な彼は私にとっては愛おしい友人。
源霊匣が完成し、エルが産まれた事により僕らの関係は破綻してしまったが、この頃の彼は私が想う彼のまま。
懐かしさに涙腺が緩み、仮面をそっと外した。

「貴方は……!!」
「君は本当に察しが良い、おそらく君の想像通りの人間だよ。ジュード」
「……!!」
「君とトリグラフで出会い、特級列車に乗り、借金を背負い、エルと共にカナンの地を目指した。君のルドガーと同じ道筋を辿った同じ存在だ。そして、君たちより遥かに未来を進み君が死んだ世界だ」
「ヴィクトルさん……何故僕は……いや、源霊匣は完成したんですよね?」
「あぁ、君が旅の末に源霊匣を完成させたよ。でも源霊匣について私から君に言う事は何もない。あれが完成してしまうと私と君の関係は破綻してしまう。そして私は君を殺さなければいけなくなる」
「!! 貴方が僕を……!?」
「そうだ、私が殺したんだ。君を、君の友人も全て私が。君は僕に何度も協議をしに此処を来ていた。そしてビズリーが私から全てを奪いに来た時に私はビズリー諸共君を殺した。でもルドガーが君を連れて来てくれた。あの出会ったままの私の友人の君を。殺してしまった愛しい人を」

呆然と立ち尽くすジュードの側に一歩一歩近づき距離を詰める。
そして私より低い背の彼の肩に手を添え、抱きしめると彼は我に返ったように私を突き放そうとした。

「私は君を殺してしまったけど愛していた。この頃の君は何も知らず本当に愛しい。だからもう離しはしないよ」
「ヴィ、ヴィクトルさん……離して下さい……」
「全てはカナンの地に辿り着いたら解決する。君との破綻した関係もなくなる。審判が終われば外殻も鍵も価値はない。私は全てをやり直す事ができる……」
「言ってる意味が、わからない……」
「私という存在とルドガーという存在を入れ替えるだけだ、私とルドガーは同じなのだから」
「僕は……同じとは言えない。僕にとってのルドガーは貴方じゃない。……僕の世界のルドガーだから」
「……そう言う君だから私は君の事を愛おしく想うよ。それでも私は諦める訳にはいかないんだ。ラルもエルも、そう君の事も……」
「……」

会話が途切れ、ウプサーラ湖の水音と木々の風の音が静かに鳴り響く。
愛しい彼の身体を抱く腕に力を入れて最後に言い放つ。

「ジュード、私は君を愛している。だから君は何も言わずただ見守ってくれさえすればいい」
「……」

私は仮面を付け直し、"ルドガー"を呼び出す為に家の中へと向かう。
"ルドガー"に刃を向け、私が生き残れさえすれば私の夢と理想は現実へと変わる。
その一心で武器を振るう。
そしてその抗争音に気付いてかつての仲間がルドガーと共に私に攻撃を始める。
仲間達の中には先刻会話した彼も、ジュードも含まれていた。

「あぁ、君は2回も私を裏切るんだな……」

流した涙が頬を伝わずに空気中に流れていく。
もうこの手を止める事はできない。

「あぁ、悲しいよ……」

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