ジルニトラでミラを失ったジュード君が悲しみ苦しんでいる所にアルヴィンがやってくるお話です。ミラの存在が大きい故のお話です。
ミラ=マクスウェルという女がジルニトラで命を散らした。
誰もが絶望に暮れる中、俺はミュゼに命令を与えられかつての仲間の殺害の為に動いていた。
やるべき事がある満足感に心を支配され、ジュードを殺そうとハ・ミルの小屋の扉を開く。
そこで俺が見たのは絶望に暮れ、無気力なジュードの姿だった。
そして時折、名前を紡いでは涙を流すのであった。


『ANTIFICTION』


その姿を見て両手に構える武器は手から滑り落ちた。
戦意喪失にも似ているこの感情。
与えられた満足感から脱却した心は、ジュードをただ一途に想っていた。
何故ジュードを殺そうとしているんだと呆れるほどに、ジュードを守りたいと思った。

「ジュード……」
「……」

無気力なジュードは俺の言葉を返すこともしない。
それほどまでにミラ=マクスウェルの存在がジュードの中で大きかったのだろう。
もう帰ってこない人を想う悲しみを抱えるジュードを楽にしてあげたかった。
そうすれば、ジュードは再び笑ってくれるのだろう。--そう信じていた。

「ジュード……、あいつはもういないよ」
「……」

ベッドで蹲るジュードの身体を抱きしめる。
当然のように反応はないが、それでも抱きしめる事を止めずに居た。

「ジュード……あいつはもう、居ないんだ。……もう帰ってこないんだ……」
「……っ……」

抱きしめた手で頭を撫で、そう言うとジュードは大粒の涙を流した。
何時間が経ったのかわからない程、同じ言葉を紡いだがジュードの涙は止まることはなかった。
ミラとの思い出が、記憶がジュードの心を縛り、あの出来事を過去にすることができないのだろう。
超える事の出来ない悲しみにジュードが立ち止まるなら、悲しみをなかった事にすればいい。
俺はジュードを抱きしめているうちにそう考えた。

「ミラの事を忘れるんだ……」
「……できないよ……」
「出来るよ、俺が全部忘れさせてやる……。……そしたら俺も忘れるから」
「……」

俺はジュードの中からミラという存在を消すために、暗示をかけ続けた。
ジュードの中のミラの記憶、思い出を全て俺という存在に塗り替えるように暗示をかけた。

「ジュード、そのネックレスは誰に貰ったんだ?」
「……ミラだよ」

「ジュード、首にかけてる奴どうしたんだ?」
「……ミラ? から貰ったよ」

「どうしたんだ、そのネックレス」
「金色の……髪の……人から……」

「このガラス玉のネックレス、誰に貰ったんだ?自分で買ったのか?」
「えーっと……誰だっけ、忘れちゃった」

「ジュード、この前も聞いたけどさ。これ誰に貰ったんだ?」
「え? アルヴィンがくれたでしょ。忘れたの?」

俺は毎日、ジュードと出会ってから今までの嘘の記憶を刷り込み続けた。
そして最後にいつもこう聞いた。
「そのネックレスは誰に貰ったんだ」
そう聞き続けた、そして暗示をかけ続けてしばらくした頃にジュードはミラという存在と俺を分けて認識する事ができなくなった。
なら、約束通り俺もあいつの事を忘れよう。
ジュードを守るために。

「ジュード……」
「アルヴィン……」

ジュードがミラの存在を忘れ、しばらくした後に俺達は肉体関係を持つようになった。
お互いがお互いを必要としていたから、自然な成り行きだったんだと思う。
今思い返せば、無気力なジュードを守りたいと思ったのはジュード達を殺すより真っ当で痛みがない”やるべき事”だったからなのかもしれない。
例えそうでも、ジュードに必要とされ泣かしたくない、守りたいというこの心は本心だから動機なんてどうでもいいよかった。
だからこれは異常なんかじゃない。そう思いたかった。
そう思う為にも俺自身もあいつを忘れよう。

「アルヴィン、好きだよ……。……だから、傍に居てね」
「随分可愛らしい誘い文句だな、ジュード」
「僕は別に誘ってなんかっ……!」
「いいよ、ジュードが欲しくなくても俺は欲しいから……いいよな?」
「……うん……」

まるで恋人同士のようだった。
でも、ジュードが思う俺という存在はミラと混ざり合っている存在。恋人同士だなんて思えなかった。
たとえジュードの中に性器を入れて、中に熱を放ち、汗ばんだ肢体を絡み合い愛を囁いても今のままじゃ恋人だなんて言えない。
俺の中からあいつを失えばこの感情も失い、俺達はただの恋人になれる。

「なあ、ジュード……」
「どうしたの……アルヴィン……」
「これから毎晩、俺と会ってから今までの話をして欲しいんだけど」
「どうして?」
「大切な思い出だから、忘れたくないんだよ」
「うん……わかった」

そして俺は毎晩、ジュードと出会ってから今までの話を聞かされた。
そう俺が繰り返しジュードに言い聞かせた話を同じ手順で言わせた。
毎晩、毎晩聞き続けた。
青少年がSランク犯罪人になり、この小屋でハッピーエンドを迎えるお話を毎晩聞き続けた。
俺とジュードの記憶はいつしか同一のものとなった。

「ジュード、なぁやろうぜ?」
「聞く前からもう手を入れてるのに、それって質問する意味あるの?」
「いいじゃねえか、な」
「んっ」

ベッドにジュードの肢体を倒し衣類を剥ぎ取り、性器を掴み上下に動かせばジュードは短い声で反応した。
それを繰り返すと短い声と共に性器は先端から透明な液を少量垂らし感じているのだと悟る。
そのまま上下に動かしつつ後孔を指で弄れば連日の行為で緩んだのか易々と指を銜え込んだ。

「ジュードの身体日に日にエロくなってんだな」
「そ、そんな事言わないでよっ……あぁっ……」
「感じてるのか? 顔真っ赤だぞ」
「だっ……、良いからっ……」
「それって気持ちイイって事か?」
「だからっ……早く、挿れてっ……」

その一言で性器を弄る指と後孔に突っ込んだ指の動作を止め、膝裏を持ち上げて俺の昂った性器を突っ込んだ。
一気に推し進めるとジュードは苦しそうに呻くが、連日いじり続けた前立腺を攻めれば苦しそうな声はたちまち悦んだ声へと変化した。

「ったく、ジュード締めすぎ……っ」
「だって……!っああぁっ、も、そこばっか……!」
「ココ、好きなんだろ?」
「ひあっ、んああっ!」

ジュードの前立腺を執行に弄るとジュードは更に悦んだ声をあげた。
その声に反応するように最奥に向けてガンガン突くと言葉にならないような悲鳴をあげグッタリとベッドに肢体を投げ出した。
悲鳴と共に性器を締め付けられ熱い欲をジュードの中へ注げば、ジュードの身体はビクビクと震えた。

「アルヴィン……ずっと……傍に居てね……」
「あぁ、ジュード」

存在を忘れた俺達はやがて本当の恋人同士となった。
俺はジュードとラフォート研究所で合い、連行されそうな所を助けた存在。
そして旅に出て、旅の途中でジルニトラに乗り、それが沈み、偶然この小屋で再び出会った。
こんな俺達が恋人でないはずなんてなかった。

「アルヴィン、僕たちって何のためにクルスニクの槍を探してたんだろうね」
「んなもん、危ないからに決まってるだろ? おたくの教授だってその動力にされて殺されたんだろ」
「そうだったね……」
「どうしたんだ?」
「たまに、何か大事な事を忘れてるような気がするんだ……とっても大事な事を……」
「俺より大事な事なんてあるのか?」
「ごめんごめん、アルヴィンが一番大事だよ……!」
「だよな。……でも、何を忘れたのか……忘れたことを忘れたのか、たまによくわからなくなる時ってあるよな」
「そうだね……、僕たちは何を忘れたんだろうね……」


忘却の檻に閉じ込めた彼女の事を俺達はもう思い出すことはできない。
しかし幸福に満たされた心は忘却の檻の行方を追求しようとはしなかった。
俺達は永遠に美しい二文字の名前を呼ぶ事も口に出す事もないのだろう。
そう、永遠に。

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