一つの分史世界の破壊を終えGHSが鳴り響く、画面を見るが表記された人物名に出るのを躊躇った。
隣に居たエルは「なんで出ないの」なんてありふれた疑問をそのままぶつけて来た。
俺は何でも無いと言葉を濁し、電話を切ってポケットの中へGHSを戻した。
--着信画面にはリドウと表記されていた。


『闇よ、全てを飲み込んで』


リドウからの用件はわかりきった事だった、俺が正史世界へと戻ると毎回必ず掛かって来る。
場所も時間も用件も全てわかっているので電話に出る必要なんてなかった。
俺はエルを寝かしつけるとマンションフレールを抜け出しドヴォールへ向かった。

「早かったな、ルドガー」
「……」
「それにしても電話ぐらい出たらどうなんだ、仮にも俺はお前の上司なんだぜ」
「俺はお前を上司だと思ってない、それに……」
「それになんだ? あぁそうか、現実を知らない子供の前であんな話はできないってヤツか」

わかりきったようにニヤニヤと言うリドウに苛立ち以外の感情は産まれなかった。
それでもこんな奴の為に夜更けにドヴォールに来るのは借金を返すため以外に理由はなかった。
ノヴァと契約を結んだ後、リドウは俺の耳元でこう囁いた。
なんなら俺にその身体を売れば一晩高値で買い取ってやるよ、小さな声でリドウはそう言った。

「あのガキに身体を売って借金を返してるなんて言ったらどんな顔するんだろうな」
「やめろ」
「あぁ、怖い怖い。そんな睨まなくてもいいだろ。それにお前のホストは俺だぜ? 俺の機嫌損ねてどうするんだ」
「やるならさっさとしてくれ」
「ったく最近のガキは性急だな、楽しみ甲斐ってもんがない」
「……本来ならお前には会いたくもない、ただ借金があると行動も制限される。だからこうまでしてやってるんだ……」

そう言うとリドウは悪ふざけのように声高々に笑った。
その全てが不愉快で不可解でたまらなかった。

「大変なんだな、あといくらで次の場所に行けるんだ?」
「……あと80万ガルドだ」
「じゃあ、今日俺の望みに叶う事が出来たら明日お前の口座に80万ガルド振り込んでやるよ。まぁ道具も薬品も好きなだけ使わせて貰うけどな」
「……」
「無言は肯定で捉えるぜ? ルドガー」

リドウは手持ちのアタッシュケースから不気味な道具と小瓶を淡々と鞄から取り出して行く。
そう、これは仕事だ。いつもの仕事と何も変わらない。
ただ、こころが痛いか痛くないかそれだけの違いだけ。
覚悟を決めてベッドに座ればリドウは「物わかり早くて助かるぜ」なんて事を言っていた。

「そこまでして先に進むのはあのガキの為か?」
「言う必要はないだろう」
「まったく、反吐が出る」
「あぁ、俺も同じ事を思っていたよ」

ドヴォールの陰気臭さに包まれて、俺は抱かれる。
反吐が出る俺に80万円の価値を与え、玩具と薬品に自我を蝕ませるこの男が何を目的としているのかはわからない。
俺が目覚める頃には口座に大金を振り込んで姿を消すこの男の事なんてわからない。
わかるのは次もまたこうして電話が掛かって来て、この男に抱かれる為に俺はこの街に来る事。
きっとその理由も俺のこの疑問もドヴォールの陰気臭さが消してくれる。

「あぁ、反吐が出る」

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