アルジュ、ユリルド前提でトゥルーエンド後のお話に加え前記のCPでジュード以外が亡くなってるので注意して下さい。
分史世界が消滅した、彼の彼を想う人の想われた人達の物語が終わった。
それは僕の物語の終わりには至らなかった、僕にはまだ果たさなければならない約束があったからだ。
約束を果たさない限りこの世界は死から逃れる事はできない。
僕は明日の学会でバラン所長と共に源霊匣を世界へ発信し一つの章が閉じるのだろう。


『証明』


明日の発表を境に源霊匣が世に出回り世界事情が安定すれば世界は息を返すだろう。
資源が安定すれば生活も良くなるし、仕事だって増える。
そう世界が循環できれば反政府勢力は居なくなるだろう、そうアルクノアのような。
僕は机の引き出しに閉まった銃を取り出してそっと撫でた。

「ジュード、まだ起きてるの?」
「あぁ、ごめんねエル。起こしちゃったかな」
「別にいいけど、明日、朝早いんでしょ」

先日、エルに学会で源霊匣の発表をすると伝えればエルは『源霊匣見たい!』そう言ってディールからやってきた。
そんなエルを家に招いて、ご飯を作ってこういう風な夜を過ごすのはあの旅以来だろう。
あの時はトマトを食べれなかったのに今では進んで料理に入れてと言う彼女の成長が嬉しい半分悲しくもあった。

「ジュード、その銃……」
「うん、……アルヴィンの銃だよ」

僕の手にある銃はアルヴィンが僕と出会った時から使用している銃だった。
これを片手で振るっていたアルヴィンはもうこの世界には居ない。
アルヴィンは亡くなってしまったんだ。

「……アルヴィンも、生きていたらきっと明日を楽しみにしてたと思うよ」
「だと、いいな」

きっと、エルの言うようにアルヴィンが生きていたなら明日を楽しみにしていたと思う。
亡くなる寸前までヘリオボーグの研究所に来ては進歩を嬉しそうにしてたから。
でも、そんな彼が居なくなってしまったのは僕の所為だった。
分史世界が無くなる、そんな事は一般人には知らなければ御伽話のような話だろう。
ルドガーやユリウスさんが命をかけて分史世界を消しても、止まらない悪循環があった。
アルクノア、彼等が僕の命を狙う事をやめる事はなかった。
アルヴィンは僕をアルクノアから庇って僕の代わりに命を落とした。

「ねえ、ジュード」
「何、エル」
「アルヴィンは銃を二つ持ってたのになんで、形見の銃の方を引き取らなかったの?」
「あれはスヴェント家の当主が持つ物だから返上したんだよ。……それに、僕はこっちの銃には沢山の思い出があるから」
「エルと出会う前の思い出?」
「うん、そうかな。たくさん……、思い出があったんだよ」

アルヴィンの銃を見つめながら、たくさんの思い出が頭に浮かぶ。
その思い出の延長線上に今があって、明日がある。
明日があるのは、アルヴィンが僕を守ってくれたから。
そう回想すると涙が出そうになるが、目の前にエルが居ると思うと泣く事はできなかった。

「エルもね、パパの事とかルドガーの事とか眼鏡のおじさんの事とかミラの事思い出すよ。だけど皆死ぬんじゃなくて消えてしまったからエルの頭の中からも消えちゃうんじゃないかって思うと怖いよ」
「大丈夫だよ、エルが皆を想う限り忘れる事なんてないよ」
「……消えない?」
「消えないよ」

エルへ視線を合わせようとしゃがみ込めば、エルの目は涙ぐんでいた。
僕がアルヴィンを想う姿を見て、エルも大切な人の事を思い出して悲しい気持ちにさせてしまったのだろうか。
エルの手にハンカチを手渡せばエルは『大丈夫』と言ってニッコリと笑った。

「ごめんね、僕がこうしてるのを見て思い出しちゃったんだね」
「ち、違うし、エルはジュードが元気ないから心配だっただけだし」
「ごめんね。明日は色々な節目で始まりだから……どうしても思い出しちゃうんだ」
「エルの思った通りだね」
「そうだね。マンションフレールじゃなくて僕の自宅に来るぐらいだからね」
「ううん、エルはマンションフレールには泊まりに行かないよ。あそこはねルドガーと眼鏡のおじさんの家だから!」

マンションフレールはルドガーやユリウスさんが消えた後もあのままだった。
あの家賃に煩い管理人さんが何も言わないのでエルが誰かに頼んでいるのだろうと思っていた。

「あそこはね、眼鏡のおじさんがずっと先まで家賃を払ってたんだって。それってルドガーの為でしょ? だからあそこは2人の居場所だと思うから、エルは住まないよ」
「そうなんだ」
「それにあのままの方がいいんだよ、さっきのジュードみたいに大切な事を思い出せるから」
「……そうだね、エルにとってはディールの街もあの部屋も大切な思い出なんだね」
「うん。あ、もうこんな時間だよ? 早くしないと寝坊しちゃうよ!」
「あっ、本当だ。エルももう寝ようね。明日は皆もトリグラフに来るみたいだから迷子にならないようにね」

エルに言われて机の上にある時計を見れば、深夜を刺していた。
客室までエルを連れて行くとエルは部屋に入る前に振り返ってこう言った。

「ジュードは明日証明できるんだね」
「証明?」
「アルヴィンに自分を守った価値があったって」
「………うん、これからもずっとそう言えるように生きようと思うよ」
「エルも守ってもらえた命には価値があったって証明できるように頑張るから、ジュードも明日は頑張ってね」
「ありがとう、エル。僕、頑張るね」

エルは『おやすみなさい』と言って客室へ戻って行った。
気を遣わせてしまったのだろうと思い申し訳なくもなったが、エルの言葉はそれ以上に僕の心を励ましてくれた。
アルヴィンが僕を守った事は決して無駄な事なんかじゃない。
僕は明日それを世界とアルヴィンに証明する。
そしてその先を生きて約束を果たす。

自室に戻り机の引き出しを開けて、アルヴィンの銃を再度手に取って呟く。

「アルヴィン、見ててね。僕の生き方を」

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