僕がこの狭い部屋に監禁されてから何日が経過したのだろうか。
太陽の光も、人間の声も、時間からも遮断されたこの部屋は僕の精神を蝕み続けた。
僕を此処に閉じ込めた彼に『おかしくなる』と告げたら『おかしくなっていいんだ』と笑って彼は答えた。

そもそも僕は此処が何処であるのかさえ知らない。
ア・ジュールなのかラ・シュガルなのか、はたまた僕の知らない世界か。
目が冷めたら僕はもう此処に居て有無を言う暇も与えられないうちに彼との行為を強要された。
食事に薬を盛られたのか脱力した身体を揺さぶられて、苦いものを舐めさせられ、排泄器官に指や性器を入れられて、僕が抵抗すればヘラヘラと笑って力で押さえ込まれた。
此処はア・ジュールでもラ・シュガルでもなければ、彼のアルヴィンの支配する世界なんだと悟った。

「……」

長い時間の空白の間にこの部屋にアルヴィンは帰って来る。
それが1日置きなのか半日置きなのか2日置きなのかはもうわからないけれど、自分の中の時間の概念が崩壊してしまっているのだと痛い程自覚する。
それと合わさるように物音も光もない環境により、恐怖心が増して行く。
崩壊しそうでしないギリギリのラインで保たれてる精神はもう限界に近かった。

「ジュード、ただいま」
「……」
「おい無視か? ジュード」
「……おかしくなる」
「……おかしくなってもいいんだ」

おかしくなってもいい、そんな言葉は聞きたくなかった。
身勝手に此処に閉じ込めて犯した癖にそんな言葉を平然と言う彼を僕は許したくはなかった。

「……勝手な事言わないでよ……!! 僕はもう嫌だ、限界だ、もう此処から出して欲しいんだ!!独りは嫌だ、それを知ってるのにアルヴィンは僕を此処に閉じ込めて何処かに行く!!」
「えらい今日はご乱心だなぁ、ジュード」

僕の口を掌で覆い、壁に押し付けて僕の顔を見つめるアルヴィンに恨み以外の感情はなかった。
でもこの世界はアルヴィンと僕しか居ない、この対応が適切だとは思わない。
しかし折れてしまったらそれこそ僕は狂ってしまうと思った。
手酷い事をされても僕は認めるなんて出来なかった。

「おかしくなったらそんな感情湧かないだろ? だからおかしくなっていいんだ」

耳元でそう呟いて、耳に舌をねじ込まれ耳障りな水音が僕の脳内を犯す。
睨みつけてやろうと思い、彼を見れば余裕そうな表情でヘラヘラ笑っている姿が目に入り苛立ちが増した。

「そんなに怒るなよ、怒ったってお前の得になんか何にもならねぇし」
「……何でこんな事…………酷いよ…………アルヴィン」
「酷くて結構、だーってジュード君こうでもしないと俺だけのものになんかなってくれないし。俺だけに尽くしてくれたらそれでいいのに病的にお節介してさあ。だから俺が治してやるよ」
「……僕は……僕はそんな事望んでない!!」
「望めよ、俺だけしかいらないって。あの闘い方すら朧げだった可愛いジュードは何処に行ったんだよ。少しお前の意に反する行動を取ったくらいでジュード君は俺を使い捨てるのか? 俺そういうの大嫌いなんだけど、ジュード君は大好きだから殺さない。だけどジュード君はどんどん理解者を増やして俺を遠ざけるなら監禁だって出来る」

僕の反論すら許してくれないようで彼は僕を捲し立てる。
アルヴィンが言っている事は自己中心的でしかない屁理屈に過ぎない。
僕はアルヴィンに疑いを持った事は確かだし彼にも否があるからそういう風に言われる筋合いは無いし、仲間も増えて3人旅の時のように全てがアルヴィンと共になんてある訳がない。
それを彼は僕がアルヴィンを拒絶しているのかのように受け取る事が理解できない。
しかしそれを正す事は僕には出来ないのだろう、此処では彼が全てのルールなのだから。
でも僕はこの世界から、空間から、部屋から出たかった。
本当におかしくなる前に、狂ってしまう前に。

「アルヴィンって本当子供だよね、駄々を捏ねれば自分の思う通りになると思ってる」
「でもジュードは思い通りになってくれないからこうやって監禁されてる」
「全部アルヴィンの所為……でしょ」
「ぜーんぶ俺の所為、だからジュードがそうやって俺を否定しないように治してやるんだよ。そうしたら出会った時みたいな可愛いジュード君のまま」
「本当、アルヴィンは最低だよ……」

どうせ彼は子供だから僕を殴るのだろうな、と予測すれば僕の頬を彼は殴りつけ僕はベッドに沈む。
ほら、やっぱり子供だ。彼に殴られて痛む頬を押さえて彼を睨めば反対の頬も容赦なく殴られる。
アルヴィンは僕を殺す事が出来ないと知っているから抵抗する、狂わないを引き換えに僕は痛みの方を選んだ。

「お前もしかして抵抗をし続ければ暴力を望めば自分がおかしくならないとか思ってるよな。でもこうやって暴力を受け入れてるって事は俺を受け入れてんだよ」
「でも僕はアルヴィンを拒絶する事しかできない」
「そんな事してたらジュード君殴られる事が大好きな子になるんだよ、それこそ狂ってる」
「……僕は……狂ってない」
「じゃあそれともココ犯されるのが好きになる? まぁ暴力よりずーっと健常的で健康だけどな」
「っ……!」

アルヴィンは僕の後穴に面白がって指を差し込むと僕の顔色を相変わらずへらへら笑いながら伺う。
彼の顔から背くと、アルヴィンは僕の膝裏を持ち上げて後穴にピチャリと緩い感触が脳に伝わる。
空白の前まで一度も舐められた事はない、その上排泄器官を躊躇いも無く舐められ捨てたはずの羞恥心が沸き出した。
何より気持ち悪かった。

「今更そんなに顔赤くしてどうしたんだよ」
「……や……」
「散々犯されたくせにこんな事が気になるのか?」
「ひっ」

そのまま指先で性器を弄ばれ、身体の血が頭に降りてくるような滑稽な体位は迫り上がる熱を加速するに十分だった。
それに耐える僕の姿を見てアルヴィンは片手で性器を弄り続け、もう片手は舐められて緩んだ後穴を楽し気に犯した。

「やっぱジュードはもう狂ってんだよ、だってこんなにここパンパンに膨れさせてるし。犯されてるのにな」
「……不可……効力だ……っ……て……!!」
「でも一番始めにした時全然勃たなかったのに弄られたぐらいで勃つのはなんでだろうなあ」
「そ……っあぁっ」
「全部俺の所為って言いたいんだよな、あぁそうだよな。だから俺の所為にしていればいい」
「んっあ、っ……!!」

そのままアルヴィンの指先により快楽を遂げた僕の性器から出た液は僕の顔へと飛び散った。
アルヴィンは僕の頬に付いた精液を舐め僕の味がすると言って笑った。

「ジュードって顔射似合うよな、優等生だから?」
「……」
「だから今日は全部ジュードに打っ掛けて俺で真っ白にしてやる」
「……や……」
「どう転んだってジュードが回避する道はないし早くおかしくなった方が楽だし楽しいぜ」
「……か、って……ばかり……」

アルヴィンは僕の言葉を聞くと子供なんだろと言って再度僕の腰を持ち上げ性器をズブズブと進入させた。
痛みを感じる事は既に無く、相変わらずヘラヘラと笑う顔に嫌気が刺す。
何が楽しくて、一方通行な恋と行為を何故そんなに笑えるのかこの狂った彼から理解する事ができない。
そんな事を考えていればアルヴィンは僕の頬を叩いて僕の口の中に指を入れて喘げとでも言わんばかりに求めて来る。

「何考えてんだよ」
「っ、アルヴィンのっ……笑う顔が嫌だと思っただけ……っ」
「ジュードの全てを俺が支配できるのが楽しいんだよ」
「さ、いていだ……ね……っあっ」
「そうだよ、お前は最低な奴をここで受け入れてんだよ。んでここまた膨らまして。そういうジュードを見てると楽しくて仕方ないんだよ」
「あっう……んっ、ひ……っ」

性器を再び指先で弄られ、後穴を犯され時折前立腺を擦る行為は一度放った熱を取り戻すのには十分だった。
僕の頭の中から抵抗するという言葉は快楽の前では綺麗に抜け落ちてアルヴィンがする行為にただ喘ぐだけ。

「快楽に弱いよなぁ、いつも俺が帰ってくれば否定的な事しか言わない癖にここまで堕ちたらもうこうやって受け入れて喘ぐんだからな」
「はっ、んっあ……っ」
「だから狂ってしまって楽になれよ、ジュード!!」
「ん"っあああっ!!!」

アルヴィンの掛ける言葉と共に律動は激しくなり、アルヴィンの指先で先端を擦られ上下に摩られると呆気なく二度目の精液が再び僕の胸と顔に飛び散った。
アルヴィンは寸前まで僕の中で性器を膨張させれば頬に性器を押しつけ熱を押しつけ僕の視界を真っ白にした。

「は…………は…………っ……はは」
「何笑ってんだ」
「……も……やめてよ……こんな事……いつもしてたら……本当に狂うよ……」
「それは自分の快楽への弱さを憎んで言ってるのか」
「……だって……アルヴィンとセックスして殴られる為に生きてるみたいだから……」
「ジュードがそれを受け入れたら楽しいコトしかしないよ」
「……それって……狂ってるって言うんだよ……」

視界も真っ白ならば、頭もトリップしたかのように真っ白になった情事後。
アルヴィンの言う通り僕は快楽に弱かった。
それこそ元々と言えばアルヴィンが植え付けたものだと言えるけれど。
この生活が始まってからまだ片手で数えれるうちの性行為が何週も廻ってしまえば僕は狂ってしまうと思った。
時間もわからないこの場所で、何年ももしくは一日に何回もこれを繰り返せば僕は狂ってしまう。
--視界が晴れたと思えば、僕が涙を流しているだけだった。

「俺だけが頼りだったあの頃に戻ればいいんだよ。全て忘れて俺だけの為に生きれば良い」
「……」

アルヴィンが僕の目尻を舐めて僕の耳元で呟いた。

「ジュードが俺なしで生きれなくなって、俺以外の他人が人間だと理解できなくなって、俺と繋がらないと生きてるって実感できなくなったら外に出してやるよ」
「……はは……それって狂ってるどころか人非人だよ……」

僕はこの部屋に連れてこられた時点で終わっていたんだと気づけば良かったと後悔する時には僕はもう人ですらないのだろう。
僕が人でないのならば、この目の前でヘラヘラ笑っている男は何なんだろう。

『その男こそが---であると気付く事が永遠にない話』

その頃には僕もそうなっているのだから。


ーーー
ジュード君の事をかなり一方的に好きなアルヴィン。
イラート海停でリンクの練習をしたりする頃にジュード君が好きになる。
その後仲間も増えて、裏切ったりもしてジュード君と初期以上に触れ合えなくなった事を避けられてると思ったアルヴィンといつも通りお人好しのジュード君。
アルヴィンの方は人でなしの方の人非人。
ジュード君の方は人の形を保った人でない方の人非人。

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