僕の趣味は読書だった。
その趣味は間違っても賑やかで騒がしい場所で勤しむ趣味ではないと僕は思ってる。
だから今の状況はとても適切ではないし、読書が捗っている訳でもない。
何が言いたいかというと、困っていた。


『青少年Jの困惑』


「ねえ、アルヴィン……僕読書してるんだけど、腕重いよ……」
「悪い、全然気がつかなかった」
「気がつかない訳ないよね、僕のページを捲る速度が落ちたと思わない?」
「思わない。それよりせっかく休みなのにやる事が読書か」
「何かいけなかった?」
「もっと面白そうな事をやろうぜ」
「僕はこれが一番面白いから、不満なのはアルヴィンだけでしょ」

僕の身体に体重をかけて僕の読書をアルヴィンは眺めている。
何か得をする訳でも面白い事がある訳でもないのに、こういう事をするアルヴィンには理解に苦しむ。
そして時折構って欲しいとも言わんばかりに僕の身体触って来る所も何と言うか面倒だった。
体よく甘えられているのだろうと思うのだけれど僕は何より静かに読書がしたかった。


「なージュード」
「うん」
「ジュード、聞いてるのか?」
「うん」
「エリーゼが母の日の授業でジュード君の似顔絵書いてたぞ」
「うん」
「……」

僕に話しかけるアルヴィンの声を聞かないようにしていればアルヴィンは面白く無さそうにしていた。
僕としては読書中の僕の肩に全体重を掛けるのを許すのが最大の譲歩なのだから我慢して欲しいと思う。
溜息を吐きながら次のページへと手を伸ばした時だった。

「ジュード!! 新作のガイアスまんじゅうを作ってみたんだが味見をしてくれ」
「悪いが今ジュードは俺の相手をしてるんだ」
「俺はどう見てもジュードはお前を迷惑そうに思ってるとしか見えないが」
「そんな事ないよなあ? ジュード」
「今回のは凄い、なんとカニクリームコロッケパフェ味とサイダー飯味だ」

また僕の読書を妨げる人が来てしまったと落胆が隠せない。
僕のページを捲る腕は止まり、異色な料理の味を聞いた所為で飛んでしまった前ページを読み返す。

「だが既存の味をただまんじゅうにしてはインペクトが薄いと思うんだ、そこでお前の案を聞きたい」
「ガイアス、今俺の相手をしてるって言ったよな」
「ほう、俺にはそうは見えないが」
「ならジュードに聞いてみろよ、な。ジュード」
「どうなんだ、俺のまんじゅうの方が気になるだろう」
「……僕は今一人で読書してるんだけど」
「やっぱりお前の相手なんかしてないそうだ」
「あと、ガイアスの相手をするつもりもないから。僕はまんじゅうは普通が一番美味しいと思う」

僕がそう言い放つと2人は落ち込んだようで、アルヴィンは僕の身体に触れる事を止めた。
これで漸く静かに読書が出来ると喜んだのも束の間だった。

「ガイアスが来た所為でジュードの機嫌が悪くなっただろ」
「寧ろお前がジュードの機嫌を損ねるような事をしてる最中に俺が来てしまっただけだろう」
「なんでそんなに自意識過剰でいられるんだよ」
「その言葉はお前にそのまま返そう。何故なら俺はこの国の王だからだ」
「理由になってねーよ。だいたいそういうのはウィンガルにでも相談しろ」
「っ、アイツは今俺が試作を食わせ過ぎた所為でまんじゅうを見る事も叶わないのだ……」
「お前の所為じゃねーかよ。そもそもジュードは俺の事が好きなんだよ」
「俺はジュードと未来を約束し合った仲だ、それに俺と命を掛けて闘った間柄だ」
「何お前の良い様に捕らえてんだ、それを言うならジュードは俺の上に股がって俺をボコボコにした仲だ」

まったくこの2人は何を話しているのか僕にはまったく理解ができない。
でも僕に話が振られないだけまだマシだと文字を読む速度を早める。
しかし早められたのも数分と保たなかった。

「ならジュードが選べばいいだろう」
「ああそうだな」
「という事だ、俺とこいつとどちらが良いか選ぶんだ。選択の余地はないと思うがな」

2人がじわじわと僕に近づき間合いを詰め、僕から本を取り上げて両手を取られる。
栞を挟めなかった事に僕は悔やんだが、目の前の2人の所為だとすぐに怒りに変わる。

「少なくとも僕は読書の邪魔をしない人が好きだよ」
「……なっ」
「……ジュード……」
「だから本を返して、あ、GHS鳴ってるから僕は行くね」

僕の趣味は読書だった。
その趣味は間違っても賑やかで騒がしい場所で勤しむ趣味ではないと僕は思ってる。
だから今の状況はとても適切ではないし、読書が捗っている訳でもない。
何が言いたいかというと、困っていた。
だから僕は静寂を求めて部屋を飛び出した。

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