とあるところに世界でただ一人の魔法使いがいました。
しかし魔法使いはその力を人間達に悪用され封印されてしまいました。
人間はその魔法を使うだけ使い満足すると次第にその存在を忘れました。
魔法使いは封印されたまま永遠にひとりぼっちになりました。


『ひとりぼっちのまほうつかい』


ジルニトラがリーゼ・マクシアに落ちて、奇跡的にエレンピオスへの帰還が叶い15年が経った。
リーゼ・マクシアに居た5年間は父親が亡くなった事もあり記憶の中で消したい記憶だった。
異界炉計画もあったが、帰還者が口々にあの世界の人間は化け物だと言う世論から計画は人々から消え去った。
衰退を辿る世界は希望を失い、ただ衰えるだけの世界ーーエレンピオス。

「あら、アルフレド。そんな昔の絵本なんか出してどうかしたの?」
「なんでもないよ母さん。部屋の整頓をしてたら出て来たんだ」
「よくその絵本読んであげたわね。あっちの世界は魔法使いしか居なかったけれど、ね」
「あぁ、怖い世界だ。俺達にない力を当たり前の用に使う、今思い出しても怖いよ」

母さんの体調は良好で、あっちに居た時はどうなるかと思ったが安心している。
しかし父親、当主が亡くなった事により俺と母さんはスヴェント家の当主をジルニトラ帰還の功労者ジランドに明け渡された。
家柄に縛られる事のない俺と母さんとの15年は苦労もあったが幸せだったと思う。

「そう言えば、ジランドが貴方の事を探していたわよ」
「ったくGHSに連絡すればいいのに……」
「『俺の名前が液晶に出るとあいつは電話を取らない』なんて言ってたわよ」
「わかったよ、ちょっと行って来る」

俺はジランドの元へ向かう為に家を出る事にした。
ジランドはスヴェント家の当主でありながら新エネルギー産業に着手しており今じゃ大金を稼いでいる、そんな話ばかりを聞く。
異界炉計画もなくなったのにどうやってこの世界をどうにかするのやら、理解が出来なくて溜息すら吐く。

「アルフレド。ようやく来たか」
「なんだよ……叔父さん」
「用事があって出かけるんだが、荷物が来るから受け取ってくれ」
「他の奴はいねーのかよ」
「生憎この家にはお前ほどの暇人はいねーみたいなんだよなぁ」
「あぁそうかよ、わかったよ」

ジランドの嫌みは聞き飽きたと適当に相づちを打ってジランドを送り出す。
夜になればスヴェント家の人間で満たされるこの家も俺一人だけとなると静寂となる。
メイドの一人でも雇えばいいのにと思ったがジランドの用心深さを考えると仕方ないような気もした。
溜息一つ吐いて椅子に腰掛けようとした時だった、静まり返ったこの部屋に不審音が響いた。
ガタンと小さく何処かで鳴ったようだった、何か倒れたのだろうと周囲を見るが何も倒れた形跡はない。

まさか泥棒が入ったかと思ったが、この椅子から動く気は起きず刻々と時間は過ぎて行く。
そして荷物が届き、家に帰ろうと思ったその時だった。
この家の全ての電気機械の動作が停止してしまったのだ。
これはますます可笑しいと一部屋ずつ回ってみる事にした。
部屋捜索も終盤にかかる時だった、普段使われていない部屋の扉の下に広がる水たまり。
不自然だと思い鍵を開け中に入るとその部屋も水浸しだった。
その水が流れ込んでいる場所付近は壁だったがその壁を押せば回転扉だったようでこの家が隠していたい部屋が俺の前に現れた。

「なんだこの装置……。カプセルか?っつっ事はこれは培養液……? 人間の手?」

部屋に入ればカプセルのようなものがありそれが倒れ培養液が流れ出ていたのだ。
ジランドは何をやってるんだと半ば呆れ奥に進むとカプセルの下から人間の手が覗かせていた。
焦ってカプセルを退かし人間を見れば培養液に浸っていたのか全身がずぶ濡れの髪の長い人間だった。
いや、長いと言ったものではなかった。この人間の身長を超える長さだった。

「死んで……いや、脈はある。おい、起きろ!!」
「……」
「おい、……ジランドの奴何考えてるんだ……起きろよ!!」
「……た、す、け、て……」

長い髪の毛をかき分けて頬を叩けば、うっすらと瞳を開け俺に助けてと言った。
そして人間の腕は俺の胸を掴み涙を流しながら俺を見つめると『お願い』と小さく呟いた。
俺は非情に混乱する事となった。
おそらくこの人間はジランドがこの部屋に隠している。
この人間を助ければジランドの怒りを買う事となる、つまり俺は殺されてしまうかもしれない。

「何でこんな事をしてるんだ、ジランド……!!」

落ち着いて考えようとこいつを床に降ろそうと思ったが俺の服を掴むこの手は俺を離してはくれなかった。
俺の服を掴むその手を握れば体温は非情に低かった。
よく見れば肉付きも非情に悪いし、外を知らないかのように肌は白い。
ジランドが行っている事はあきらかに許される事ではなかった。
俺はこの人間を抱え静かに起ち上がった。
その時だった、銃弾が俺の真横に向かい放たれたのだ。

「アルフレド、お前には荷物を預かってくれと頼んだだけなんだが。何をしている」
「……叔父さん、これはどういう事なんだ」
「これはただの動力源だ。降ろせ。今すぐにだ」
「……それはできない、こいつは俺に助けてと言ったんだ」
「ほう? でお前がそれを救うとお前がどうなるかわかってもそう言うのか」
「それでも叔父さんの行為は許されない……」

俺に銃を向けるジランドに対抗して俺もジランドへ銃を向ける。
しかしジランドはこいつを傷付ける事を恐れているのか発砲はしてこない。

「そいつはな、あの最悪な世界の子供だ。そんな奴をお前は救えるか」
「……!!」
「お前の大嫌いな魔法使いで化け物だ。それでもその銃を俺に向けるのか」
「……」
「今ならまだ許してやる。そいつで異界炉計画のサンプルデータを取り現実のものとすれば俺は賞賛を得られる!! 新エネルギーはあの世界の人間以外ありえない!!」
「……そんなの、勝手すぎる……!」
「現にこの家の動力は全てこいつで動いている。そんな恐ろしい奴をお前は匿うのか?」

俺の手に抱えている人間があの世界の人間だったなんて思わなかった。
正直あの記憶は今でも消したいものだった。
この人間を抱える腕の力が弱まるが、相変わらず俺の服を掴んで離そうとはしない。
『……た、す、け、て……』
この人間が言うあの言葉が耳から離れず、俺は再びジランドに銃を向けた。

「それがお前の意思か。アルフレド、お前のその選択はこの世界を滅ぼすぞ!」
「構わねえよ……! こいつは俺に助けてと言ったんだ! 素性なんて関係ねえ」
「恋でもしたか、アルフレド? その化け物に。……ならその化け物を置いてお前は死ね!」
「あぁ、そうかもしれねーな。……ジランド、やっぱりお前は卑劣な奴だ」

ジランドはこの人間を撃たないように俺の足を狙って弾丸を放つ。
一発が足を掠めたがなんとか逃げ出せればいいとこの部屋の奥の窓に向かって走る。
掠めた弾丸で走る力は鈍るがなんとか力を入れて飛び上がりその窓から脱出した。
そしてジランドに見つからないようにあの屋敷から離れた。

「……ここまで来ればしばらくは大丈夫か。……おい、起きろ」
「……」
「俺は……見ず知らずのお前の為に命を掛けた、だから目を覚ませ!!」

青白い頬を再度叩くとこいつは苦し気に唸りゆっくりと目を開けた。
異世界人、化け物、魔法使い、検証サンプル様々な名前を付けられたこの人間は死んでは居なかった。

「きみが……助けてくれたんだね……ありがとう……」

こいつはそう言って弾丸が霞め血を流す足に手を翳した途端足の痛みが不思議と漢和された。
付けられた名前の通りの異能の力を惜しみも無くこいつは使い俺の傷を癒した。
あんなにも怖い魔法だったはずなのに自然と受け入れている自分の変化が恐ろしかった。
俺はこの世界にひとりぼっちの魔法使いに恋をしてしまったんだと思う。
でなければ、あれ程のトラウマを植え付けた世界の人間を俺が救うはずはなかった。

「どこらへんまで切るか?」
「思いっきり切って欲しい。あ、でも丸坊主は勘弁して欲しいな」
「どうせなら長い方が可愛く見えるけど」
「そうだよね、アルヴィン僕の性別間違えてたからね」
「嘘だ、なんだって可愛いよ」

俺がこの魔法使いを連れ去ってから魔法使いーージュードの回復には時間を要した。
その間に俺は母さんと必要なものをジランドに見つからない場所に移動させジュードの回復を待った。
しばらくすると人間ーー彼は回復し健康な姿に戻った。
そしてベッドから自力で立つ事が出来るようになった彼は俺に髪が切りたいと言った。

「どうせ暇だろ。絵本が1冊しかないけど、読みたければ読めよ」
「うん、ありがとう」
「……お前によく似た話だ」
「……ううん、そうでもないよ。君が僕を見つけてくれたんだから」


とあるところに世界でただ一人の魔法使いがいました。
しかし魔法使いはその力を人間達に悪用され封印されてしまいました。
とある人間がこの魔法使いを見つけ出し助けてくれました。
人間と魔法使いは永遠に幸せに暮らしました。


ーー
アルヴィン12歳、ジュード君0歳の時に断界殻が一時的に開放されて
断界殻が閉じる前にジルニトラで帰還しようとしたジランドが偶然居合わせた赤子ジュードを盗んでエレンピオスで帰還。
異界炉計画が頓挫している中でもリーゼ・マクシア人からマナを奪い取る研究をし続けて裏舞台で名声を浴びるジランド。
0歳から教育を受けてないジュード君が何故真人間なのかは精霊さんに教えて貰ったとかにしたらとても良いはず。
それか後々アルヴィンが教えていくのでも良いはず。

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