僕は今、悩んでいる事があった。
ベッドの中で僕にしがみついて寝るアルヴィンの事だった。
いつからかアルヴィンは一人で眠れないからと気づけば僕のベッドに入り込み僕を腕の中に入れて眠る。
それが日常になっていた。


『彼は確実に退化している』


少し前に酒臭いから嫌だと断った日があって、彼はポロポロと泣き始めたのだった。
彼はこんな風に弱さを曝け出すような人間だったのだろうか。
出会った時の彼はもっと強かったはずだった、だから僕は彼に好意を抱いた。
そんな彼をここまで弱くさせたのは、彼の人生の中で大切だった人を失った事が原因だろう。
エレンピオスに着いたのと同時に彼は子供のように弱くなってしまった。

何故彼の事を想い僕が悩んでいるのか。
僕が恋したのはたしかにこの男だった。
けれどこんなに弱くはなかった、つまり彼の本来の性質を僕が受け入れ切れないだけ。
受け入れないと言っても、求められれば与える事はしている。頭の中で納得し切れていないだけ。
だから好きかと聞かれれば好きとは答えると思う。
ただアルヴィンは僕がそういう風に考えていると知っていて悪知恵を働くのだ。

「アルヴィン……、と、なり……みんな居る……から」
「別にいいだろ」
「よくないよ……!! それに、僕、今の関係を良いと思ってないから……!!」
「酷いなあ、優等生の癖に。優しくして手なずけるだけ手なずけたら捨てちゃうんだ」
「そんな事言ってないよ……」
「同じ事だろ。昔はそうやって股を開いた癖に急に良いと思ってないなんて言われても納得できねえよ」

そう、彼は言葉も身体も僕に依存してしまっている。
人間として離れたり巡り会ったりする事を彼は許してはくれないのだ。
服の下に散らばる内出血は確実に僕の皮膚を占領し脱衣の度に僕は彼の物なんだと知らしめる。
僕の恋したアルヴィンは架空の人物にさえ思えた。

「もう……!! 今日はやめてよ……!!」
「何でそんな事言うんだよ。ジュード君いつもヒンヒン言って鳴く癖に」
「したくないんだよ……、わかってよ……!! アルヴィン、ちょっと……!!」
「これって強姦って言うんだっけ」
「ア、ルヴィン!! やめ、今日は……そんな気分じゃ……!!」
「俺がジュード君に対する気持ちが大き過ぎたとしてもジュード君が俺の事を1%でも好きだったら大丈夫だよな。だってジュード君、今みたいにベッドの上で俺に好きって言って喜んで俺を受け入れてくれたんだし」

彼は僕が嫌と言っても屁理屈を捏ねて僕と繋がろうとする。いつでも、どこででも。
それが嫌で彼を突き飛ばしでもした日には彼はまた泣いて無理矢理にでも繋がろうとする。
ただのセックス依存症かとも思えたが、そうではないらしい。
彼はリンクさえ切ろうとしないのだ、僕達は眠りにでも落ちない限り繋がり続けている。
それはきっと彼の心が弱く依存している限り永遠に僕は彼と繋がれるのだろう。

「……もう、いいでしょ……。僕、寝るから……リンク……切って」
「俺が眠るまで待ってくれよ……」
「どうして……昔は、こんな事なかったよね……」
「俺は元々こんな奴なんだよ、ただジュード君が理解してなかっただけ。そんな俺を一度でも愛したのなら最後まで一緒に居てくれるよな。ジュードが居なきゃ生きられないのに途中で捨てるなんて無責任な事言わないよな。本性を知ったから突き放すなんてお前みたいな優等生がする訳ないよな」
「っ……」
「なぁ、ジュード」

握られた掌を口元に寄せ舐められると同時に抱きしめられそのままベッドへと倒れ込む。
そうして彼は僕にしがみついたまま目を閉じて眠りに入る。
これがつい先ほどの話だった。
リンクは途切れて完全に眠りに落ちているものの、アルヴィンの表情は苦しそうで時たま寝言を呟く。

『行くな』
『居なくなるな』
『俺だけ残さないでくれ』
『一人にしないでくれ』

そんな言葉を毎晩毎晩繰り返している。
彼は僕という恋人と理解者を失う事を極端に恐れている。
彼のその怖れが払拭できない限り僕の悩みは尽きないのだろう。

アルフレド・ヴィント・スヴェント、彼は確実に退化している。

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