僕がこのエレンピオスに住み始めてから月日が経ちここでの生活にも随分慣れた頃だった。
僕は僕で研究もあるし学会もあったりして大忙しだった。
アルヴィンもアルヴィンでユルゲンスさんと初めた商売を軌道に乗せようと慌ただしかった。

「ジュードくん、今日はもう上がろうか」
「え? でもまだ時間ありますよ」
「今日はそういう日なんだよ、年の節目なんだから研究所も警備システムだけ残してシャットダウンするから」
「そう、なんですか」
「リーゼ・マクシアでも誕生日だといつもと違うだろ? そんなもんだよ」
「はぁ、わかりました」

バランさんから言い渡された帰宅指令に荷物を纏め自宅に向かう。
仕事がなかったら時間をどう使えばいいかわからないとバランさんに困ったように言うと「それはワーカホリックって言うんだよ」と言い放った。
そう言われても僕にはこれがやるべき事なのだから、困るしか無い。
困ってる僕にバランさんにこう返した。「何ならマナの前に枯渇しそうなアルフレドの所に行ってやってくれ」そう言った。
僕はすっかりアルヴィンの事を忘れていたのだ。


『残念ながらべた惚れしています』


「アルヴィン、僕だけど」
「急にどうしたんだよ、連絡もあんまり寄越さない癖に」
「バランさんがね、マナよりアルヴィンが枯渇しそうって言ったから」
「相変わらず的確な嫌みを言う奴だな。あいつは」

エレンピオスのアルヴィンの住まいに行けば普段は忙しそうにしているアルヴィンも家に居た。
バランさんの言うようにエレンピオスという街が休んでいる、そう感じた。

「でもアルヴィン、僕とアルヴィンって枯渇する程会ってないかなあ」
「あぁ、会ってない。というかお前と会ったのは何時か覚えてるか?」
「えっと……あ、学会の前だからこの前でしょ?」
「その学会はなんと3節前なんだよな」
「あれ……そうだっけ? 僕はこの前のような気がするんだけど……」
「これだからバランにワーカホリックって言われるんだよ」
「ごめんごめん」

アルヴィンは僕の月日感覚に呆れて溜息を一つ吐いた。
それもそうかもしれない、旅の間は四六時中行動を共にしていたのだから今の状況を寂しくないと言う方が変なのかもしれない。

「ジュード先生は俺が枯渇してもいいの?」
「先生ってやめてよ……、それに枯渇すると思ってなかったから」
「もう無理ってなるけどジュード忙しそうだから旧式の闘技場に行ってジュード君を何回も会いに行ったし」
「……うわあ、恥ずかしいから止めてよ」
「じゃあ恥ずかしくないように俺の相手もしてくれよ」
「確かに、アルヴィンを放置してたのは謝るよ……!!」

そう言うとアルヴィンは悪い笑みを浮かべて僕の腰を掴みアルヴィンの膝の上に乗せた。
身長も年齢も増したはずなのにアルヴィンを追い越す事は到底叶わないようだった。
アルヴィンは僕の頭に手を添えて撫でた。
相変わらずの子供扱い、僕はきっと彼に叶う事はないのだろう。

「寂しい恋人を放置して謝るだけで大丈夫なの? ジュードくん。俺何処か行っちゃうかもしれないぜ」
「アルヴィンは何処にも行かないでしょ、だって僕の事が大好きだから」
「ははっ、お見通しって訳か? でもジュード君は研究に浮気するだろ?」
「うっ、浮気なんかしてないよ! 僕だってアルヴィンの事が好きなんだから、その、アルヴィンが僕の事を大好きだって知ってるからつい安心して……」
「より研究に没頭したって訳か」
「……うん……」

アルヴィンは僕に抱きついて「悪い子だなあ」と意地悪気に囁いた。
たしかにアルヴィンからしてみれば酷い恋人なのかもしれない。
けれど僕はアルヴィン以外の人を想った事がないからアルヴィンへの想いは何よりも一途だ。

「ジュード君に一心不乱に愛されたい」
「だから愛してるってば……!」
「だから、俺が居なくちゃ枯渇するぐらい寂しくなって欲しい」
「多分アルヴィンが居なくなったら、僕は泣くよ。でもアルヴィンは会えないだけで居ない訳じゃないしアルヴィンと僕は愛し合ってるから不安じゃないんだよ」
「お前普通にクサい事言うなあ」
「だって事実だから、ね。アルヴィン」

アルヴィンに抱きしめられつつ、ふと目に入ったカレンダーは今年の末日の日付だった。
バランさんが言う研究所のシャットダウンはちょっとした休暇なのだと気づいた。
研究所が開けばまた僕は研究を再開する。
アルヴィンは商売に奮闘する。
その束の間の休息なのだろう、また僕らが新しい場所で闘う為の。

「じゃあ、ちゃんと反省するから……目瞑ってよ」
「ジュード君の顔を一瞬でも反らしたくない」
「じゃあ反省はしないよ?」
「恥ずかしいのか、可愛いな」
「そんな事言ってないでしょ、ほら」
「ったく」

アルヴィンが渋々と目を瞑り、僕は彼の頬に手を添えてそっと唇を落とした。
僕からアルヴィンにする事は滅多にないのだからこれで満足してくれるだろうと唇を離そうとした瞬間アルヴィンは僕の頭の手を回し離れる唇を拒んだ。

「っはっ……アルヴィン……苦しいよ」
「罰だよ、罰」
「これが罰なら何度でも受けて立つけど」
「いいのか、そんな事言っちゃって」
「これでも16歳になったんだからね……!!」
「いつになっても可愛いのは変わらないなあ、ジュード君」

そう言ってアルヴィンは僕を抱きしめた。
見える時計は年の節目の時刻になっていた。
きっと僕達は何年、年が巡ってもこうして側に居るのだろう。


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Thanks//確かに恋だった

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