取り替え子パロディでジュード君が精霊のお話。死ネタが含まれます。
僕はこの精霊界に命を受けてから、長い年月が経った。
しかし精霊界という無限の時間が流れる空間はただの精霊でしかない僕には退屈だった。
だから僕達の世界のすぐ近くにある人間達が住む世界をずっと見ていた。

2000年前に黒匣という精霊を殺す道具を人間が作り始めてこの精霊界は変わった。
丁度その頃に人間界でも異変が起こり世界の中にもう一つの世界が産まれてしまった。
その事に伴い精霊達もそのもう一つの世界へ命求めて移動を始めた。

でも僕はまだ隣り合わせの人間達を見つめていた。
もう一つの世界へ移動する者、黒匣により命を尽きる者、沢山の精霊が居なくなった。
それでも僕は人間界を見続けて居た。
そして僕は映し鏡のような世界で彼を見つけた。

世界の中の世界へ人間同士が干渉し合うのは精霊界にとっては大ニュースであった。
僕も然り、周りもその様子をただ見続けて居た。
そしてその船はもう一つの世界に吸い込まれるように入って行った。
それが黒匣を使い始めた2000年後に起きたこの世界の歴史。

その船に乗っていたアルフレドという少年を僕は世界を移動しても見続けて居た。
何故ここまで興味が湧いたのかはわからないけれど、偶然目に入ってしまったからだろう。
昨日まで笑顔で親に囲まれる彼が1日でこの世の絶望を見たという表情に陥ってしまった彼の表裏を見てしまったからなのだろう。
彼をもっと知りたい、見たいと思い覗き続けて4年近くの月日が経ったある日の事だった。

「そんなに人間界が好きか」
「わかりません」
「お前は人間の年の数えで言うと5年前にあの世界に実体化して瀕死の重傷を負ってこの世界に戻ったというのに物好きだな」
「記憶がないのだから、物好きと言われても困ります」
「好きだというのなら一つ面白い話があるが」

この世界の偉い人が僕に話を持ちかけた。
精霊が人間の子と引き換えに精霊をその世界に置く、つまり取り替えという儀式の事だった。
僕は見続けたあの彼の側に行きたい一心でその儀式の一つの駒として人間界に落ちて行った。


『銃声と共に訪れる洗礼』


「おい、いつまで寝てるんだよ。そろそろ起きねーと怒られるぞ」
「ん……」
「どうした、あんまり寝てないのか」
「あ……」
「??」

その儀式から目覚めると僕は人間界に居た。
そして僕が見続けた彼は僕を起こしにこの部屋にやってきた。
彼の名前はアルフレド、そんな名前だった。

「ほら、手持ってやるから起きれるだろ」
「……あ、の……立てない……」
「?? どういう事だ」
「アル――」
「……今、作戦行動中な事を忘れたのか。アールドだ」
「ごめんなさい……」
「明日でこの潜入も終わりなんだ、緊張してるだけじゃないのか」

この儀式には僕ら精霊にも代償があったのだ。
浮遊して生活する僕らは歩く術を知らない、だから立つ事も歩く事もできない。
僕が人間界に落ちたタイミングは最悪な場面に違いない。

「アールド……ごめんなさい……」
「おい、どうしたんだ。これが終わればジルニトラに帰れるんだぜ」
「アールド!! 大変だ、こちらの潜入に気づかれて2人死んだ!! すぐに脱出する!!」
「なんだって?! わかった。とりあえず俺はこいつを連れて行くから残りの奴は頼んだぞ!!」
「アールド……?」
「聞いただろ?! 潜入に気づかれたって事は脱出するしか抜け出す術はない、行くぞ」
「!!」

僕の動けない身体をアルフレドは持ち上げ潜入経路へと導いた。
君はあんなに小さかったのに、あんなに笑って、あんなに泣いた君が成長して僕と居る。
そんな不思議な錯覚に陥った。
しかし事態はそれを許さない、部屋中がアラート音に満たされていた。

「ちっ! 誰だよ……しくじった奴は……」
「アールド……」
「もうすぐで脱出できるからもう少し我慢してくれ」
「うん……」

そして僕らは潜入していた施設から抜け出しそれぞれがバラバラに散り僕らは小屋のような場所に身を潜めた。
アルフレドは気が立っているようで小屋の中をぐるぐると回っては舌打ちをし気を紛らわせていた。

「……名前何て言うんだっけ、俺そういえば知らないんだけど」
「ジュ……ジュードだよ!」
「へえ、良い名前だな」

僕は取り代わった子供の名前を知らなかった、だから咄嗟に精霊界で過ごしていた時の通称の名前を話した。
彼はそれを疑う事なく受け入れ僕をその名前で呼んだ。

「……ありがとう、アルフレド……ごめんね。僕、足を引っ張っちゃったね」
「気にすんなよ、そのうち立てるようになるさ」
「アルフレドはやっぱり優しいね」
「んな、気持ち悪い事言うなよ」
「僕は嬉しいよ」

君に直接話せる事に感動し、それを言葉にすればアルフレドは頭を掻いて照れ隠しをした。
これは僕の夢だった、君と同じ世界でこんな風に君と話す事が。

「お前みたいな奴は初めてだ、そんな風に俺の事言ってくれる奴そんなに居ないからな」
「そんな事ないと思うよ、きっと皆そう思ってる」
「もう良いって、それより本部と連絡が取れなくてしばらく此処に滞在する事になりそうなんだ」
「そうなんだ……」
「だから戻れるまではよろしくな。ジュード」

それから僕と彼の共同生活は始まった。
11歳の彼は不器用ながら、歩けない僕の為に身の回りの世話や料理も作ってくれた。
けれど彼の料理はお世辞にも美味いとは言えなかったから翌日からは僕が料理を作る事になったけれど。
それでもシルフモドキの伝達が来るまで僕らは2人で生き延びようと足掻いていた。

「お前、小さいのに料理美味いし。頭も良いし、こんな世界じゃなかったらもっと良い人生送れてたかもな」
「そんな事ないよ、それに……」
「なんだ?」
「なんでもない、ただアルフレドの大雑把で油をかけ過ぎたご飯は栄養バランス最悪だからね」
「どうせ俺は料理は食べる方に向いてるんだよ」
「でも僕は好きだよ、アルフレドの油まみれの炒飯」
「うるせえよ」

そんな毎日を繰り返し、僕とアルフレドとの関係は親密になった。
そしてその頃から僕は僕としての存在に胸が痛くなる事があった。
アルフレドを騙しているという事。
アルフレドが言う「お前の父さんと母さんも心配してるだろう」という言葉。
僕は僕の愚かな想いで一人の子供と入れ替わりこの世界で行きているという事。

「ジュード? どうした、ここ最近なんか悩んでるみたいだけど」
「アルフレド、もしも大切な人に嘘を吐かれたらどうする?」
「正直わからねえけど、何かあったのか?」
「なんでもないよ」
「……嘘吐かれたら正直嫌だけど、何か理由があるのなら仕方ないんじゃないのか」
「理由があったら許すの?」
「許す許さないは吐かれた人が考える事だろ、でも俺が嘘を吐くとしたら母さんやお前を守る時に吐きたい」
「そうだね、アルフレドはそう思って生きたらいいよ」

アルフレドは僕の意味深な言葉に顔を顰め、窓枠に止まるシルフモドキを見つけ駆けつけて行った。
彼の言う、嘘が許される範囲内に僕の嘘は適応されないのだろう。
だけど僕はアルフレドと一緒にいたかった。
それが興味本位で始まったとしても、アルフレドの隣に行きたかった。

「ジュード!! やったぞ、探索隊が俺等の居場所を見つけたらしい!! しばらくすれば迎えが来る!」
「やったね、アルフレド」
「あぁ」

ジルニトラからの吉報にアルフレドは喜んでいるようだった。
しかし僕の足は歩けないままで、この人間の本当の名前も両親も性格さえも知らない。
この矛盾が僕の命を終わらすような気がしていた。
終わる時は、アルフレドを騙していた事がアルフレドに気づかれる時。

「おい、ジュード!!」
「わ、何?」
「探索隊が来たぞ、荷物は纏めたから行くぞ」

君は僕の悩みなんて気にせずに優しく手を伸ばし僕を持ち上げる。
探索隊、アルクノアのメンバーと再開したアルフレドは嬉しそうに走った。
そして僕達はジルニトラに向かい、お出迎えとは言い切れないが数人の人間に出迎えられた。

「――待ってたのよ!!ところで何で抱っこされてるのかしら」
「あぁ、こいつ潜入任務中に足を悪くして立てなくなってしまったみたいなんだ」
「まぁ、すぐに医者に見せないと!!」
「ディラックは居るか?!」
「あぁ、研究室に居るはずだ」

僕の身体は僕の器の両親に手渡されディラックという名前の医者の元に連れて行かれる。
ただ、この会話の後ろで「足が悪い、ねえ」なんて愚痴を零す声が聞こえたのを僕は捕らえていた。
医者は研究室が騒がしいのは嫌いだと言い、僕だけをこの研究室に入れて2人だけとなった。

「私の名前はディラック・マティスだ。何で歩けなくなったかわかるか」
「……わかりません」
「アルフレドに聞いたが、その年で知識を多く有していて料理まで作れたみたいじゃないか」
「……?」
「エレンピオスの古学書で取り替え子という伝承の話があるんだが、人間の健康な子供が欲しい精霊がまれに人間界の子供と精霊を入れ替えるという不思議な話だ。普通にしていれば気づかれない、しかし取り替えられた妖精は歩けないが知識に優れていると伝わっている」
「……それが、何か……」
「いや、昔聞いた話をしてみただけだ。それより私は医者だから君を歩けるようにしなければならないな」

このディラックという男は僕に不審を持っていると、もしくは僕の器の中身が入れ替わっていると気づいたのだろう。
何よりも足を治さなければならないという言葉ではなく歩けるようにするという言葉を使ったのが印象的だった。
そう、彼は全て気づいた上で僕を臆する事なく人間として接してくれているのだ。

「……ごめんなさい……、そうです……そうなんです……」
「……私も半信半疑だった。ここを出た君はお世辞にも頭が良いとは言えなかったし母親の料理の手伝いさえ苦手だった」
「……ごめんなさい……」
「なってしまったものはどうしようもないだろう」
「……僕……、どうしても彼の側に行きたかった……だからごめんなさい……」
「私に謝られても困る。それでその願いは叶ったのか」
「……はい、僕は彼と暮らしたあの期間はとても幸せでした……」
「そうか。……けれどこれは誰にも言ってはいけない。ここの連中は精霊を好いてはいない」
「……はい」
「君のこの器の名前は――だ。アルフレドにはジュードと名乗ったみたいだが」
「それが僕が精霊界で呼ばれてたから、つい……」
「ジュード、神を賛美せよ……良い名前だな。私も息子が居たらそんな名前を付けたいな」

ディラックが僕の頭を撫でて「頑張ってまずは歩けるようになろう」と言った。
僕はその問いかけに「はい」と応えて微笑んだ。
しかしこの研究室のドア付近から怪し気な音をまたしても聞き取ってしまったのだ。

不安に胸が痛む中、両親が迎えに来て僕は暮らしていた部屋に戻る事になった。
ディラックはその両親にまた歩けるようになります、大丈夫ですとそう言っていた。
果たして僕が歩けるようになるまでこの世界に居る事が出来るかどうかわからないのに。

「ちょっと、貴方部屋まで武器を持ち込まないで。――が居るんだから危ないでしょ」
「……!」
「あぁ、そうだった。すまない」
「……そ、それ…………何…………?」
「何って黒匣だろ、あぁ――は潜入で使わなかったから初めて見るんだな」
「……じ……ん…………?」
「ちょっと、私たちは武器庫に戻って来るから何かあったら大声で呼ぶのよ」

父親と言う人間が持っていた武器に見覚えがあった。
この武器に見覚えがない訳がなかった、そうこの武器は…………僕を瀕死に追い込んだ武器だ。

『ジランド、せっかく家族で来ているというのに黒匣製の銃を持って来る事ないだろう』
『兄さん、貴方はスヴェント家の当主ですよ。命を狙われる可能性を忘れないで下さい』
『それならこの銃で十分だ』
『きんぴか!』
『ほら、アルフレド危ないわよ』
『大方新製品の黒匣製の銃を試したいだけだろう』
『兄さんにはわかりますか、新型を早く試したくてね』

あれは5年前の事だった、人間界のエレンピオスという世界で僕は暮らしていた。
精霊が減った世界をぐるぐると回っていた時にその家族と出会った。
その家族のジランドと呼ばれる男は黒匣製の銃と呼ばれる武器を持っていた。
そして試し撃ちと言って魔物にその銃を向け、打った瞬間だった。

『いっ、痛い……痛い……これが…………黒匣…………? うっ……』

ジランドの試し撃ちが続けば続く程自分の精霊としての命が減っていく事に気づいた。
もうだめだ、他の皆のように僕も死んでしまう。そう覚悟していた。

『叔父さん!!』
『なんだぁ、アルフレド』
『誰かの泣き声がするんだ!! それ使うのやめようよ!!』
『んな訳ないだろ、なぁ兄さん』
『ジランド、アルフレドが嫌がってるのは確かなんだからこれくらいにしておけ』
『わかりましたよ、兄さん』
『不思議ねえ、アルフレドは誰の声を聞いたのかしら』
『わかんない、だけど泣いてたんだよ。苦しんでいたんだ』

『僕は……助かった……?』

そう、瀕死の僕を助けてくれたのはアルフレドだった。
彼に僕の声が聞こえたのかそうかは知らないけれど、彼の声で僕が助かった事は事実だった。
僕が彼を見ていたのは興味本位でもなんでもなかった。
彼に感謝していたからだった、彼に一言お礼を言いたかっただけなのだと。
実態化した精霊としての瀕死を受けてしまい記憶に穴が空いてしまったが僕が彼を見続ける理由はそれなのだという事に漸く僕は気づいた。

「入るぜ」
「貴方は……!!」

両親が居なくなった部屋に入って来たのはあのジランドという男だった。
その男の手には黒匣で出来た銃を持っていた。
そして紛れも無く彼から放たれた殺気は僕を殺そうとしていた。

「盗み聞きはしない主義なんだけどな、けど精霊に関しては別だ」
「……な、なんですか……来ないで……!!」
「俺の可愛い甥っ子を騙してくれたそうじゃないか、お前は精霊らしいな」
「……」
「お前、マクスウェルという大精霊を知らないか」
「……僕は知らない……」
「なら、用済みだな」

ジランドは僕に銃を向けて発砲体制に入る。
今度こそ僕の命は終わる、そう覚悟した時だった。
背後からジランドは突き飛ばされ、不発に終わりその変わり部屋に入って来たのはアルフレドだった。

「ジュード!! 大丈夫か?!」
「うん、大丈夫だよ……僕……アルフレドにずっと嘘を吐いてた」
「へ……?」
「僕は人間の子と取り替えられてここに居る、精霊なんだ……だから」
「だから……何だよ!! 俺と過ごした日々は全部嘘だとか言うのか?!」
「嘘じゃないよ、僕は幸せだった。だから後悔しないように言わせて」
「後悔ってどういう事だよ!! ジュード!!」
「あの日、僕は君に助けられた。ありがとう……アルフレド」
「どういう事だよ……!!」
「っ、痛いぜ。アルフレド」
「だからアルフレド、君はこんな所で終わったら駄目だ」
「うっ!!」

僕の腕先の渾身の力でアルフレドを突き飛ばした瞬間、ジランドは僕に向かって銃を打った。
僕の身体から血液が流れ、この僕の生も終わりなのだろうと悟った。

「アルフレド、お前も騙されてた1人なら今回は多めに見てやる。だがわかってるな?」
「……ジュード……?」
「っち」
「……ジュー……ド……?」

視界が曇る中、僕の顔を覗き込む姿が見えた。
アルフレドの姿が僕の瞳に最後に映る。
最後に君の姿を見て終わる事が出来て本当によかった。
僕が身勝手に願った願いで一人の子供を不幸にしたのなら、僕は罪を償わなくてはならない。

「アルフレド……まだ僕の事を見てくれるんだね……」
「俺は……お前と過ごしたあの日々が嘘だなんて思ってない」
「そう……なら良かった……」
「おい……!! 死ぬなんて嘘だろ?!」
「それは嘘じゃ……ない……、ふふ……アルフレド……君の偽名は変だよ……」
「急になんだよ……」
「僕が……最後に……付けてあげる…………アル……ヴィン……これが、君の……名前」
「……死ぬみたいな事言うなよ!!」
「……精霊の……友……って意味だよ……だから……ね……」
「おい!! ジュード!! 今、ディラックを呼んで来るから!!」
「…………大好……き……だよ……、あり……が……と…………う……」

そして僕の命は尽きた。
彼は最後まで僕の名前を呼び続けた、だから僕は幸せだった。
だけど、もし僕の願いが叶うなら。
今度産まれた時は人間として君に巡り会いたい。

「あの……」
「アルヴィンだ」
「名前だよ。君はジュードっつったかな?」

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