俺が社会人として一歩踏み出した日に俺は彼と出会った。
街を見上げキョロキョロとしていて、揺れる白衣と髪の毛が綺麗だった。
これから数時間後にあんな事が起こるなんて知る由もない俺は困っている彼を助けた。
そしてあの運命の列車で彼と再開出来た事に胸は高鳴った。


『言の葉は玉虫色』


そして俺と彼と幼い相棒と猫の3人と1匹の旅は始まった。
過酷な運命を押し付けられる毎に俺の身の回りの人間は増えた、以前よりずっと。
それによって俺の元から居なくなってしまった人も居たけれど。
それでも彼は絶えず俺の隣に居て、俺の作ったスープを美味しいと言って笑うんだ。
この事を愛しいと思える時だけは、外殻能力者、多重債務者、容疑者の弟でもないただの俺になれる。
だって、ジュードとだけはただのルドガー・ウィル・クルスニクとして出会ったんだから。

「いつも料理任せちゃってごめんね、ルドガー。でも皆美味しいって喜んでるよ」
「なら良かった。俺はジュードの料理が好きなんだけどな」
「じゃあ明日は僕が作ろうかな」
「それは楽しみだな」

俺とジュードが並んで料理を作るのも日常茶飯事な事になった。
そんな些細な共同作業も俺にとっては大事な時間だと思えた。
ジュードの作るご飯で満たされた胃袋はまた君の料理が食べたいと鳴く。
五臓六腑が君を求め、君で満たされる今は俺にとっての幸せの時間。

「前は僕がいつも料理を作ってたんだけど、ルドガーが居て本当に助かるよ」
「こんなに大勢の料理をジュードが作るなんて大変だったんだな」
「そうなんだよ、それに皆揃いも揃って大食いだから」
「でもそれを皆が美味しそうに食べるのが好きなんだろ」
「そうかもしれない。もう今じゃ1人分のご飯を作るのが難しく感じるぐらいなんだから」

そう苦笑しながら言うジュードを俺は愛しいと思った。
いつかこの些細な愛しいという気持ちをジュードが受け取ってくれたなら俺はどれほど幸せになれるのだろうか。
世界も文化も信仰も超えて全て君に捧げたいとすら思えるのに。
けれど白か黒しかない選択肢の世界でこの気持ちを伝えるには俺には難しかった。
好きだ、愛してるという白い言葉を伝えたいのに俺の臆病な心がオブラートに包んで灰に消えてしまう。

「僕、今まで誰かに料理とか作って貰った事がなくて……というか、僕は誰かに何かをする事が嫌われない事とかひとりぼっちにならないと思ってたから誰かにこういう風にして貰えるのって凄く嬉しく思うよ」
「ジュードはお節介でお人好しだからな」
「ルドガーまでそんな風に言わないでよ、それにルドガーもあんまり変わらないよ」
「そうかもな」
「だからルドガーとこういう風に与えたり与えてもらったりできる関係が好きだったりするんだよね……って、年上のルドガーに対して失礼だよね……ごめん」

楽しそうに喋るジュードが一転し俯いて申し訳無さそうにした。
ジュードの優しさの原点が孤独を埋める為だとするなら俺にはその気持ちがよくわかる気がした。
俺も昔はそういう感情があって、喜んで貰いたくて、構ってもらいたくて兄さんに初めて料理を作ったからだった。
だから兄さんに育てて貰えて大人になって社会人になったあの朝は兄さんから優しさを与えてもらえたと思ったのだろう。
ジュードが俺と支え合って与え合う関係を望んでいるのなら俺はジュードの望む事をしたい。

「年上とかないだろう、その前に友達なんだからジュードが何かをしてくれたのなら勿論返すよ。それに何もくれなくたって俺はジュードに優しくしてあげたい」
「ル、ルドガーなんか照れるんだけど……」
「本当の事だからな」
「うん……、でも友達って思ってて貰えただけでも嬉しいよ」

赤面して恥ずかしがるジュードはいつもより綺麗に思えた。
綺麗だからこそ愛しくて大切にしたい。
何物でもないただの俺と出会って、変わらず側に居る君を愛したい。
それを例える言葉が"友達"ではなくなるまで。

「ジュード」
「何? ルドガー」
「俺は友達じゃなくてもっと深い関係でもいいんだけどな」
「……? それってどういう事?」
「大人になったらわかるよ」
「もう! こんな時に子供扱いしないでよ、ルドガー」
「子供扱いなんてしてないよ、ただそれを言葉にするには難しいだけだ」

そう言うとジュードは首を傾げた。
ジュードがその言葉の意味に気づく事が先か、俺が2択ではない無限の選択肢を選べる日が来るのが先か。
どちらにしてもその日が来ても来なくても君は俺の愛しい人。

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