やり遂げたい思いが僕にはあったはずだった。
けれどそれを叶える事は出来ず、僕は鉄格子を両手で握り込んだ。
ここに僕を閉じ込めた人物に僕を開放するように諭す策は徒労に終わった。
無駄な分子配列が脳内に浮かび、強酸でこの鉄を溶かしてくれればいいのにと夢にすら思った。
そう、僕はこの無機質な檻に閉じ込められている。


『陸上一間の溺墓』


何故僕がこの檻の中に入っているのかはまったく覚えていない。
きっと眠っている僕、もしくは強制的に眠りにつかした僕を彼が移動させたのだろう。
けれど、何故"僕"がこの檻の中に居れられたかという理由は当の本人が喋ってくれた。
この檻の外のベッドで眠る、身勝手な大人が教えてくれたからだ。

『アルヴィン……どういうつもり……』
『どういうつもりもねーよ、ただお前に出られると困るんだよ』
『意味がわからないよ……』
『じゃあジュード君にはわかりやすく、好きだからとか言って欲しかったか』
『……僕達にはやるべき事があるでしょ……!』

日が落ちた薄暗い部屋でアルヴィンが言った理由には今でも納得はできない。
アルヴィンの目的の遂行に僕が邪魔だから、きっとそういう事だと思う。
でもアルヴィンの目的が何か知らない僕にアルヴィンはへらへらと笑いながら僕が好きだからと法螺を吹く。

「……ジュード、起きてたのか」
「……」
「今日は街に出てくるんだけど欲しいものあるか」
「……この鉄格子が溶ける程の強酸の薬品が欲しい」
「駄目」
「……アルヴィンはなんでこんな事するの……、もう離してよ……」
「ジュードが好きだから離したくないから」
「……嘘でしょ……、アルヴィンは僕の事をなんとも思ってない……」

檻の中の僕を蔑むように見つめるアルヴィンに僕の気持ちは届かない。
鉄格子を強く握って、強く睨んでもアルヴィンの余裕の顔は何一つ崩せない。
掌にこびり付く鉄の匂いが移る分の無駄な時間が過ぎるだけ。

「……アルヴィン……! 何か言ってよ……」
「言ってやってもいいけど、どうせジュード君には何もできねーよ」
「……どういう意味……?」
「俺、アルクノアのスパイなんだよ。だからジュード君にマクスウェルの周りをちょろちょろされると邪魔なんだよ」
「アルヴィンが……、アルクノア……?」
「そう、20年も家に帰れない迷子のアルクノア」

頭の中がぐちゃぐちゃになる。
アルクノア、ミラの命を狙う組織。闘技場で無関係な人を大勢殺した集団。
その組織のスパイのアルヴィン…………今までのアルヴィンの不可解な行動。
鉄格子を掴む手にいつしか手汗を感じる。

「……そんな事って……、ないよね…………」
「そんな事があるんだよ、優等生」
「…………今までミラの命を狙うためにずっと一緒に居たって事……?!」
「あぁ、そうだよ」
「嘘……でしょ…………、僕達は仲間じゃなかったの……アルヴィン!!」

アルヴィンを強く睨み、大声で彼の名前を叫んだ。
その声を聞くとアルヴィンは檻に一歩一歩近寄って来て檻の中に手を入れた。
大きな掌で僕の頭を撫でたと思えば、髪を掴み頭を持ち上げられる。

「……ジュード君、ここまで言ってあげないとわからない?」
「へ……?」
「俺はジュード君の事が大好きだから、巻き込まれないように連れ出してやったんだよ」
「……そんなの……僕は頼んでない……」
「じゃあ死ぬか?」
「……」
「俺の仕事にお前を助ける事は含まれてなかった、本当ならお前は海停で捕まって今頃極刑のはずだ。ならその命を俺がどうしたっていいよな」
「……じゃあ……なんでアルヴィンは……、僕らに闘い方とか教えてくれたの……? 全部嘘だったの……?」
「あぁ、あれはお前等に取り入るための嘘だ」

ぐちゃぐちゃの頭、まともな思考一つさえできない。
その思考さえ出来ない頭をアルヴィンは掴み揺らす、吐き気さえ感じた。
嘘、嘘嘘、全てが嘘。
全てがアルヴィンの掌で転がって落ちるまで嘘。落ちた此処が本当の僕の世界。

「うわぁあああぁ……!」
「理解できたか? 優等生。ちっとはその良い頭で考える事ができたか?」
「……そ、んな……」
「なに、極刑に比べたらどっちがマシかわかるよな? それともあいつと一緒に殺されたいか」
「……」
「黙りか。まぁお前みたいな子供にどっちか選べつっても無茶な話だよな」

アルヴィンに頭を離されガクンと床に落ちた身体。
嘘ばかりの世界で、僕が生きているだけが真実で。
生きている事だけが真実なのに、その生すらもアルヴィンに支配された僕は本当に生きているのだろうか。
僕にはやり遂げたい思いがあったはずなのに、否定された僕にはそれが本当か嘘か夢なのかすらわからない。
金色の髪の彼女は僕に何を言ってくれたのだろうか。

「……ジュード? 何泣いてるんだよ」
「……わからない……わからないよ……」
「何がわからない?」
「何も……わからない……僕は生きてる……? 何をするの……?」

石畳に涙がぽたりと落ちて、情けなくも声を漏らした。
その声に反応するようにアルヴィンは檻のドアを開けて入って来て僕を抱きしめた。
そうして耳元で「生きてるよ」と囁いた。
僕に嘘しか与えてくれないアルヴィンの言葉。

「……僕は……どうすればいいの……これから……何をして生きるの……?」
「なんでそんな事考えるんだ」
「……真実が……欲しい……僕が、生きてるって思いたい……」
「そんな事今更気にしなくたっていいじゃないか、ここに居れば守られるんだから」
「だって……アルヴィンが……あんな事言うから、僕が生きてる事が……否定されたみたいじゃないか……」
「そんなに気に病む事ねえのに。じゃあ楽しいコトでもするか」
「……楽しい……? そんな事ある訳ない……」
「あるんだよ、多分ジュードも気に入ると思うぜ」

そうアルヴィンが言い、僕の肩を押して石畳に僕は倒れた。
その上にアルヴィンが多いかぶさり余裕の笑みで僕を見下ろして僕の衣服に手をかけた。
僕はアルヴィンのしようとしている事がまったくわからなくて、アルヴィンの手を止めようとしたけれど「いいから、な」と言ってその手は振り払われた。

「ア、アルヴィン……何、考えてるの……」
「ジュードが下らない思考を忘れて楽しめるコトだから大丈夫だって」
「……待って、アルヴィン……なんで、脱がすのっ?!」
「何でって、セックスしようとしてるに決まってるだろ」
「……え、いや、意味わかんないよっ……! だいたい、僕は男だから……っ!」
「できるんだよ、ジュード君のココにこれ入れるだけだから」

アルヴィンに手を引っ張られアルヴィンの股間を触らせられる。
理解不能なアルヴィンの発言に混乱し腰を引けば、アルヴィンは逃げないようにと追いつめ覆いかぶさった。

「……い、いやだっ……! こ、こわいよ……、やだっいやだ!」
「怖くないって、それに生きてるって思いたいんだろ? 利害が一致してると思わないか」
「……アルヴィンは僕の事を、好きじゃないのに……!」
「好きだよ、ジュード」
「嘘だっ! アルヴィンの言う事なんか……全部嘘だ……嘘しか言わない……嘘ばっかり……!」
「そこまで嘘吐き呼ばわりされるとなんかイライラするけど、それほど俺に嫌われたい訳? それとも和姦を強姦に変えたい前振りか」
「……」
「なあ、ジュード」

アルヴィンの顔が僕に近づき、顔を背けたら耳を舐められ身体が竦んだ。
その反応をアルヴィンは面白がるようにクスクスと笑い、僕の衣服を剥いで体中に鬱血痕を残して行った。
そしてその唇は僕の口を塞ぎ口内を犯した。
僕はもうただ流されるようにアルヴィンに身を任せる事しかできなかった。

「すっかり怖じ気付いちまったな、ここも萎えてるし」
「あっ……当たり前でしょ……なんで、こんな……」
「ジュードも俺の事が好きになれば良い、そんで俺に溺れてしまえば良い」
「僕が……アルヴィンを……す……き……?」
「そしたらもっと楽しいコトしてやるぜ」
「うっ!! い、い…………!!」

アルヴィンが貼り付いた笑顔でそう言って、僕の後孔に指を入れこんだ。
消して何かを入れる用途のないそこは侵入を固く拒み、苦痛しか感じなかった。
痛いと叫ぶもアルヴィンは気にとめる様子もなく中を広げようとしている。

「うっいっ、いたいからっ、やめてっ……!」
「ほら力抜けって、そんなんじゃコレはいんねーぞ」
「!! そ、そんなの無理っ無理だからっ……!! うっや、めてよ……!!」
「指、2本増やしたけどイけると思う? どうだ」
「いやっ、痛い痛いっ、っく、無理だよっ…………!!」
「ま、なんとかなるか? いいよな、ジュード」
「うああぁぁっ!! あぁぁぁ、っ、うっ、あっ、いっ!!」

僕の無理だという言葉を何一つ受け取ってすらくれないアルヴィンは僕の身体に容赦なく性器を突き立てた。
痛みにより目眩や混濁が起きる身体を揺さぶられ失神すら起きそうな状況だった。
絶えず下半身に与えられる痛みだけが僕の気を取り戻させた。

「痛そうだな、俺も痛いけど。んなに泣くなよ」
「うっ………、痛っ、嫌っ、っ……」
「痛いって十分生きてるって感じじゃねーか、なぁお前が望んだ事に近いと思わないか?」
「……う……」
「だからジュードは俺にこうされる為に生きてればいいんじゃないか?多分、楽だし楽しいと思うんだけど」
「っ……、い……」

混乱し混濁した脳にアルヴィンの言葉は麻薬のように更なる混乱を呼んだ。
要領よくこなしてきたはずの頭が何一つ働かない。
中途半端に開いた唇にアルヴィンは指を突っ込み唾液を搾り取るとその手で僕の性器に触れ上下に摩った。

「あっ、う……んっ」
「ココはやっぱり気持ち良さそうだな、ほら"楽しいコト"だろ?」
「んっ、あっ、っく……」
「ほら、何もかも忘れて溺れて俺に全部くれたら楽になると思わないか?」
「あっあぁっ、前っ、き、もちい……っあっ」
「溺れてしまえよ、優等生」

アルヴィンの顔が再び僕に近づき、悪魔のように耳元でそう囁いた。
その声に全てを奪われて、僕は腹に精液を飛び散らせた。
息を切らす中、僕の身体からアルヴィンの性器が抜けて僕の口の中にアルヴィンは容赦なく突っ込んだ。

「わりぃ、俺全然達してないんだよな」
「ーー!! っー!!」
「何もしなくてもいいぜ、歯さえ立てなければな」

アルヴィンが僕の頭を持ち、僕の頭をガンガンと揺らした。
口内で膨大になっていく質量に絶え切れず口の端から涎が落ちてももう気にはならなかった。
そしてアルヴィンが達して僕の顔に精液をぶちまける頃には僕が何に悩んでいた事すらも忘れていた。
そう、僕は溺れてしまった。


「アルヴィン、ねえ」
「どうした、ジュード」
「……アルヴィン、楽しいコトしたい……」
「随分熱狂的なお誘いだな」
「ねえ、いいでしょ……」

あれから僕はアルヴィンとセックスを繰り返した。
何度も何度も繰り返した。
アルヴィンが無理だと言ったら泣いてしまう程にまで成り果てた。
アルヴィンの嘘が僕を狂わし、生を見失った。
見失った僕に植え付けられた生が、また僕を狂わせた。

僕はもう檻の中でしか生きられない。
僕はもう泳げない。

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