俺のGHSの着信履歴からジュードの名前が消えて半年の月日が経った。
半年前の俺のGHSの着信履歴はユルゲンスに負けず劣らずという程にジュードの名前があったはずだった。
メールの着信でさえどれくらいスクロールしたか忘れる程下方にジュードの名前があった。
そのメールの着信の日付もまた、半年前で止まっている。

「...アルヴィンがそういう風に思ってるなんて思わなかった」

そうジュードが俺に言ったのも半年前だった。
ジュードの手を取ろうとしたその手は、ジュードの意思によって払われた。
それもまた、半年前の話。


『きみにコネクト』


バランから間借りしている倉庫に行く為にヘリオボーグに訪れるのは日常的な事だった。
倉庫から13階分上にある室内にジュードは居るのだけれどそれでも俺の足がジュードの方へ向く事はなかった。
箱詰めされた在庫を数えながら、何でこんな事になってしまったんだと後悔ばかりが募る日々だった。

元はと言えば、責務に負われ睡眠さえ疎かにするジュードを見過ごす事は出来なかった俺の心配が原因だった。
あれはミラが精霊界へ帰ってからちょうど半年後だった。

『おい、ジュード。切羽詰まるのもいいけど睡眠取らないとやっていけねーぞ』
『そんな事わかってるよ、だけど時間がないんだ...』
『だからってこのままだったら、世界の前にお前がどうにかなってしまうぞ』
『...それでも、これは僕の責任だから...』
『世界がどうにかなればお前はそれでいいのか?だったら俺は何のためにお前の側に居るんだ...約束とか責任とか、そんな事言う前に...』
『...アルヴィンがそういう風に思ってるなんて思わなかった』
『おい!ジュード!』

いつの間にか在庫を数える作業の手が止まり、一つ溜息を吐く。
ジュードがこの世界への責任と交わした約束を大事に思っている事は十分分かっていた。
分かっていたのに、それを"そんな事"なんて言う俺にジュードは失望してしまったのだろう。
ジュードは自分の状況を何も言わず、自分の気持ちを察して側で励まして欲しい、そう思っていたはずだ。
けれどそんなジュードの思いを汲めず、繋がったはずの手は今は虚空の中だ。

「このヘリオボーグ研究所は我々アルクノアが制圧した」

考え事を繰り返す脳内に突如響いたのは聞き慣れた組織のテロ活動開始の放送。
これはマズい事になるなと倉庫から飛び出すと放送を聞きつけた大勢の人間で溢れかえっていた。
この事態をどうにかしようと右往左往するうちに背後から耳慣れた声が聞こえて来た。

「アルヴィン!!」
「..ジュードか」

こんな事態が起こってる最中でヘリオボーグで出会う事にジュードの巻き込まれ体質に溜息を吐く。
そしてジュードの隣には俺が知らない奴の姿。
俺が隣に居る事が出来ない間に俺が居たはずの場所に居るそいつを一瞬睨みつけてしまったが、よく考えればこいつには何も否がないと思い態度を戻す。
そう、こいつもあいつも悪くない。俺の心が狭いだけ。

このヘリオボーグでの突然の再開から俺とジュードはかつての仲間達との旅路が始まった。
しかしジュードとの間にぎこちない距離があるのは相変わらず変わる事がなかった。
昔のようにジュードが俺の名前を呼んで『来て』なんて言ってくれる事もなかった。
それに伴うように俺からもジュードに距離を置いてしまうようになった。
傷ついたり傷つけられたりする事には慣れてるはずなのに、これ以上傷ついたり傷つけたら意図も簡単に消えてしまうような気がした。

あれから更に月日は経っても俺とジュードの関係性が元に戻る事はなかった。
互いに旅の最中にやるべき事は多くあって、まともな会話すらしなくなっていた。
やるべき事、それすら言い訳にすら感じてしまう程俺はジュードとどう向き合えば良いかわからなかった。
ジュードとすらどう向き合えば良いかわからない俺が前に進む事なんてできなかった。
だから、仕事仲間のユルゲンスとさえ小さな小競り合いから確執が生まれてしまった。
前に進もうと言ってくれたお人好しはもう俺には見えない程前に進んでしまっているのだろう。
俺はもう半年前から一歩も進んですらいないのに。

「...ジュード.....」

見慣れたはずのヘリオボーグの研究所のドアを小さくノックしてジュードの名前を呼ぶ。
苦しさの限界か、ジュードの名前を呼んでから返事が帰ってくるまでの間が無限の時に感じられた。

「...アルヴィン..どうしたの..?」

小さく開いた扉からジュードがゆっくりと顔を覗かせる。
その顔は疲れていて、泣いたのか目は腫れていた。
ジュードは研究室に俺を入れてくれたが、相変わらず空気は張りつめていた。

「アルヴィン..、何か用があって来たんでしょ」
「...もう、用がなけりゃ来ちゃいけねーのかよ」
「..そうだったね」

ジュードが俺の言葉を聞こうとした言葉でさえ邪見ともとれる発言をしてしまう。
そういえば、昔はどんな話をしたんだっけ。
苦しみの中に立つ俺は思い出せずに居た。

「...アルヴィン、やっぱり急いでやっても駄目な事ってあるんだね。僕は僕なりに色々考えて形にしたけど、全部駄目だったみたい」
「...ジュード?」
「僕のね、作った源霊匣は精霊を道具にする機械だったみたいなんだ」

ジュードは試験場を見つめ悲しそうに俯いている。
きっと俺が来るまでそういて泣いていたのだろう、たった一人で。

「あの時アルヴィンが怒ったの覚えてる?」
「...あぁ」
「...あんな風に言うつもりなんかなかった、時間を惜しんでやり遂げる事に意味があると思ってた。...だからあんな独りよがりなものになってしまったのかな。アルヴィンは僕の事を思っていてくれたのに...」
「...くれたじゃない、今も思ってるよ」

ジュードに触れる事も話す事も拒んでいた身体が自然とジュードに寄り添った。
本当ならずっとこうしていたかったはずなのに、何故こんなにも時間が経ってしまったのだろうか。
次の日にはリセットされた人間関係に慣れ切った俺には難しく感じた。

「俺...ユルゲンスと仲違いしてさ。皆お前みたいに気使っていろいろ言ってくれたんだけどさ、やっぱお前に言われないと前に進めないみたいだ」
「甘えてるの?」
「...そうかもな。ジュードが居ない所為で何処歩いてるのかわかんねーよ」
「僕の所に戻って来る道はわかってるのに?」
「そんな可愛げのない事言うなよ。...だから...、俺が歩く隣にジュードが居ないと無理なんだ」

なんて情けない言葉なんだろうか。
でもそれは事実で、俺の隣からジュードが消えて距離が離れて行くうちに自分が歩いている道が正しいのかさえわからなくなってしまった。
挙げ句の果てにはユルゲンスとさえ仲違いを起こし、俺の為に皆が言ってくれた言葉さえ俺の本心には届かない。

「...ほんと、甘えてるよね...。このままじゃ...アルヴィン、僕がいないと生きられなくなっちゃうよ...」
「残念だけど、...もう生きられてないみたいだ」
「...そうだね、一回振り出しに戻って進んでみようか、僕達。だから、いいよアルヴィン...来て」

そう久々に呼ばれた『共に進もうの合図』を聞いて、ジュードの肩を抱いた。
昔は繋がっていたはずで、それが些細な事が途切れて、再び繋がった感覚は懐かし過ぎて何処か愛しかった。

「...ジュードが居ないと駄目だから、居なくならないで欲しい」
「僕はずっと此処に居たのに」
「世界の為の犠牲にならないで、元気で居て心配かけないで欲しい」
「アルヴィンが文句言うから大丈夫だよ」
「ジュードが聞く耳を持てば、な」
「僕が居ないと駄目な癖に」
「可愛げないな」
「...そんな事言うと繋げてあげないよ」
「何度でも繋げさせてやるよ」

そうしてまた、俺のGHSの着信履歴にはジュードの名前が絶えず並ぶようになった。
今日もまたジュードは俺の名前を呼んでリンクを繋げる。
明日もまた俺はジュードの名前を呼ぶのだろう。

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