道標が順調に集まって僕等の旅の終着が見え始めて来た頃、アルヴィンの様子が変わった。
変わったと言えばユルゲンスさんと揉め事を起こした時、の方が正しいと思うけれど
変わったというのはアルヴィンと僕との関係にぎこちなさが生まれたという事。
アルヴィンの視界に僕が映ってないような気がするという事。

「アルヴィン、何かあったの」
「なんでもねーよ」
「なんでもなくないよね...なんか最近、距離を感じるよ?」
「前からこんなもんだろ?ジュード」

異変に気づいた時に彼に訪ねれば、彼は僕の頭を撫でてそう言うのだった。
決して嘘は吐いてはいない、けれど本当の事も言ってはいない。
僕の心に疑念を抱く前にその原因を知ってそうな人に聞く事にした。

「ねえ、ルドガー。ルドガー達と分史世界に行ってからアルヴィンの様子が変なんだ。何か知らない?」
「あ!エル知ってるよ!アルヴィンの」
「エル」
「ルドガー?」

ルドガーはエルの口を塞ぎエルが何かを話そうとするのを止めた。
それを疑問に思ってルドガーに問いかけるもルドガーは何も話そうとはしなかった。
エルは何かを思い出したかの用に急に口を閉ざした。
何かあったんだと理解出来たがエルの前で問いただす訳にもいかなかった。
心の中の靄だけが少しずつ大きくなって行くのを感じた。

「あれ、ジュードどうしたの?こんな所で」
「あ、レイア。今日は仕事じゃなかったっけ?」
「私は何時でもちゃんと仕事出来るようにしてるんだから!じゃなくて、ジュードこそ顔色あんまり良くないよ」
「僕はなんともないかな、...レイア。アルヴィンの様子が変なんだけど知らない?」
「それってまさか浮気とか...?!」
「今一瞬目が仕事人みたいだったんだけど」
「そんな事ないって!でも、アルヴィンは浮気はしなー」
「...何か心当たりがあるの?」

ルドガーとエルに似た反応をするレイアは何かを知っていると悟った。
きっと彼等やレイアが閉口するのは僕とアルヴィンが恋仲である事と関係があるような気がした。
それが本当に浮気ならば、僕はどうするのだろうか。
僕は、アルヴィンと...。

「お願いレイア..教えて」
「言っとくけど、アルヴィンの為にさっき言わなかったんじゃないの。ジュードが悩むといけないから...そう思って」
「それでもいいよ、悩むならその時ちゃんと考えるから」
「...分史世界に行ったの。アグリアやプレザと闘う前で...分史世界のアルヴィンがプレザにあげた指輪が時歪の因子だったの」
「そう、なんだ...」
「...それで正史世界のアルヴィンを分史世界のアルヴィンから庇って撃たれたの...」
「...わかったよ、レイア。ありがとう」
「ジュード...!アルヴィンはジュードの気持ちに裏切るような事はしてないと思うの」
「わかってる、大丈夫だよ」

レイアの話を聞いてアルヴィンと僕の間にあるぎこちなさの原因がなんとなくそれだと思った。
その出来事がきっかけでアルヴィンが僕に距離を置いているのではないかと。
けれど原因がわかった所でそれが僕と距離を置く理由にはならないと思った。
なら、僕はどうすればいいんだろうか。僕は今、アルヴィンに何をしてあげる事ができるのだろうか。

胸の靄がこれ以上大きくなって、アルヴィンとの距離が広がるのが嫌だった。
でもこれ以上進んだら聞きたくないような言葉さえ聞いてしまうような気がする。
けれどアルヴィンの元へ進まずにはいれなかった。
アルヴィンの、本心が知りたかったから。

「...ジュードか」
「最近よくニ・アケリア霊山に来るって、聞いたから」
「本当にお節介の周りにはお節介な奴しかいないな」
「...アルヴィンが、僕に対して変だから...気になったんだ」
「浮気だとでも思ったか?」
「...わからない」

崖の上から下を眺めているアルヴィンの姿はとても悲しそうな顔をしていた。
そうやって君はそこで失った彼女の姿を想っているのだろうか。
だとしたらこれは浮気と言えるのかとても曖昧だった。

「僕じゃ...アルヴィンの支えにはなれなかった...?」
「さあな、...居る事には感謝してる。でも」
「...今アルヴィンを支えてるのは僕じゃなくて...思い出なの...?」
「...かもしれないな」

悲しそうに見つめるアルヴィンの目に僕は今映ってはいない。
正直に生きるアルヴィンを僕はとても嬉しく思えた。
けれど、これが本心ならばなんて悲しいのだろうか。
僕らは確かに愛し合っていたはずなのに。
君の成長が僕にとって悲しいものになるなんて思わなかった。

「それが...アルヴィンの答えなんだね...」
「...悪い、今は一人にしてくれないか...」
「...一人になったら...答えが見つかるなら僕は行くよ...。でも僕は...僕の我侭だけど、過去に捕われるアルヴィンを見たくない」

このままアルヴィンに促されるままここから去っても良いのかどうかわからなかった。
アルヴィンはそう望んでいる。
けれど、ここで去ってしまったら永遠にアルヴィンの隣には居れない気がした。

「過去に捕われる、な...俺はあいつを何回殺して何回傷つけたと思う。ジュード」
「...アルヴィン?」

退路へ向いていた足がアルヴィンの一言によって止まる。
張りつめた空気が僕とアルヴィンの関係の終わりさえ予兆しているように思えた。

「あいつは俺の身勝手な考えに振り回されて最後は死んだ。ここでも分史世界でも」
「...」
「俺はお前を一度殺そうとした。そんな俺が昔の過ちを繰り返してしまったら、俺はお前を傷つける」
「そんな未来なんて...あるわけない...」
「だけどもしそうなって、お前を傷つけたら俺はもう...だとしたらあいつを思ってお前の事を諦めた方がいいと思った」
「そんなの...アルヴィンの勝手だよ...自己満足じゃないか...」

アルヴィンは「そうだな」と言ってまた俯いた。
僕は確かに彼に大事にされていた、けれどこんな結末は僕は望んでは居なかった。
彼女がアルヴィンの人生に大きく影響しているのは知っていた。
それを僕は嫌だとは思わない、アルヴィンが僕を僕達を選んで帰って来てくれたから。

「...アルヴィンの所為で傷つくなら僕は構わない、僕は...アルヴィンの居場所にはなれないのかな...」
「...なんでお前もあいつもそんな風に優しいんだろうな」
「それはね...アルヴィンの事を好きだからだよ、愛してるんだ」

俯くアルヴィンの側によって両頬を両手で触れてアルヴィンにそう言った。
相変わらずアルヴィンの悲しそうな目は変わる事はなかった。

「やっぱり....僕じゃ駄目なのかな...」
「駄目じゃないんだ...俺が臆病だから、怖いんだ。俺の愛した人は皆居なくなったから」
「...なら、僕がずっと生きて側に居るから、生きてアルヴィンの居場所を作り続けるから...」
「...サンキュな、ジュード...悪いな、情けない所見せて」
「...アルヴィン...?!」

アルヴィンの頬を触っていた身体はいつしか反転して精霊山の固い岩山に背中を預けていた。
僕の胸に頬を押し付けるアルヴィンは少し安心したような顔を見せた。
この顔が元に戻るまで、不安がぬぐい去るまでは時間が掛かるのだろう。
彼が見た分史世界は現実世界と少ししか誤差のない世界なのだから、あの世界が一つの予言に思えるのだろう。
だとしたら僕が出来る事はアルヴィンを生きて信じ続ける事しかないのだと。

「ア、ルヴィン、苦しいよ...」
「だって久々だしボリューム少ないけど良い匂いがするからさ」
「アルヴィンもしかして自滅したいの?」
「嘘だって、優等生。そうだ、今度カラハ・シャールあたりで指輪を買いに行こうな」
「急になんで...」
「ジュードのあの言葉は一種のプロポーズかと思ったんだけど」
「...そうだよ、アルヴィン。僕から逃げられるなんて思わないでね」
「あぁ、わかってるよ」


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