SS Three



『王様とぼく その1』


「僕にこんな、研究所..大き過ぎじゃないですか?」
「一緒になった世界をなんとかすると言ったのはお前だ。...納得するのに時間はかかったが、お前の理想を信じる。だけど」
「僕が諦めたら   でしょ。僕は、諦めないよ。」
「なら、俺がくれてやった施設を生かせ。それだけだ。」

初めはこじんまりとした場所で実験を行っていた。
そんな僕を見ていたガイアスは僕に研究所をくれた。

「で、なんで城の横に経てるの?他にも場所は沢山あるのに。それにあそこでも十分ー」
「一つはお前を監視する為だ。お前が折れたりした時にすぐ気づくため。」
「...疑い深いね。」
「あと一つは、出来るだけ側に置いておきたいからだ。」
「同じじゃない?その二つって。」
「違う。」

そう言う、ガイアスは少し怒っている。
二つの違いを理解する前にガイアスは話し出した。

「あそこだと危ない。今まで反対派の奴らにどれだけ狙われて来たか覚えているのか?」
「そう、だね。」

黒匣を試用し続けたいと考えている人にとって僕は悪にすぎない。
たまたま学会が新聞にのって、それを見た反対派に強襲される事もそうそう珍しい事でもない。
手首に巻かれた包帯をガイアスは悲しそうに見つめる。

「守る為に、側に置いておきたい。お前が居なくなったら俺は」
「ありがとう、ガイアス。でも大丈夫でしょ、ここなら。ね。」
「あぁ。」
「ところで、とっくに夜だけど城に戻らなくていいの?」
「お前の仕事が終わるまで待つ。それにお前には俺と一緒に住む部屋を城に用意した」
「え?」

『当たり前だ、今更なんだ』とでも言わんばかりに言うガイアス。
僕は仕方なく、ガイアスと新居へと帰るはめとなった。

王様と僕との、ささやかな暮らしの始まりだった。






『王様とぼく その2』

「ガ、ガイアス...?新居って言ったけど謁見部屋の近くのこれ...?」
「気に食わないか?キッチンが狭いのか?」
「ち、違うよ..?ただ、僕が一人暮らししてた部屋と随分とこう」
「すまん。ア・ジュールとラシュ・ガルじゃそんなに生活様式が違うのか」
「ううん、とってもいいと思うよ、ありがとう...!」

ガイアスが王宮の応接間を一つ潰して作り上げた僕らの新居。
ただ広い事、僕のためにキッチンがある事、天蓋付きベッドが部屋の中央に構えてある事。
それが全て豪華に装飾を施されている事。
ただただ、圧巻だった。

「これならお前が体調悪くてもすぐ来れるんだ」
「ありがとう..ガイアス。でも仕事はしなきゃ、だめだよ?」
「わかっている。謁見の合間なら30秒も立たずとも戻って来れる」
「そうだね、ありがとう」

少し、ミラには及ばないけれど少しずつずれていく会話が時に愛らしく感じる。
それが僕の王様。






『王様とぼく その3』

「ジュード、オルダ宮の本を全てこの城に移してみた」
「えぇ、ってえぇ?!」
「既に主の居ない城だ問題ないだろう」

ガイアスは自慢げに城の膨大な本の量を見せて来る。
この人はこういう人だった、と僕は諦めた。

「僕、オルダ宮の図書室は凄いと思うんだ!」
「そんなにお前が嬉しそうに話すのは珍しいな」
「だって、緊急事態だから少しみただけだけどあんな量みた事ないよ!」
「そうか。」
「僕、あそこなら何節でも過ごせると思うよ」

そんな会話をしたのはつい先日。本当に先日の事だった。
そして今、この城は城というより大図書館に近い事になっている。

「本当は謁見の間に置こうとしたのだが、止められてしまった」
「普通そうだよ..!」
「止められなかったら何節も側に居てくれるのだろう?」

そう自信満々に言う、僕だけの王様。





『王様とぼく その4』


「ガイアス、今日は早く仕事が終わったからご飯作ってみたんだ」
「そうか」
「いつも、僕の方が帰りが遅くて作れなくてごめんね」
「かまわん、給仕に一言言えばいいそれだけの事だ」

両国に向けての研究成果の発表が一息つき、返答待ちという事で暇を持て余す僕。
そういえば僕らの部屋にはキッチンがあった事を思い出し久々に腕を振るう。
いつも6人分のご飯や1人分のご飯を作って来たから2人分は少し難しく思えた。
それにガイアスに、食べてもらうものだから。

「うまいな」
「そう、良かった。」
「これはジュードの故郷の料理か」
「そうだよ、僕の産まれた街は海が近くだから魚も沢山取れるから」
「なら行ってみたいものだな」

僕はその発言に驚愕した。
ガイアス王が来たものなら父さんも母さんも腰を抜かすに違いない。
それに、患者さんはビックリして逝ってしまうかもしれない...
ガイアスがル・ロンドに居るイメージなんてまったく想像できない。

「いつか、挨拶に行かねばな」
「...そうだね...!」

でも、想像すると面白くて笑ってしまった。
それをガイアスは不思議そうに見ているけれど、気にしない事にしておいた。






『王様とぼく その5』


「ジュード、今日は時間はあるか。」
「うん、今日は大丈夫だよ?」
「今のうちにル・ロンドに挨拶に行こうと思ってな」
「!!い、いいよ挨拶なら父さんと母さんが...!!」
「こういうのは男が行くのが普通なんだと思うのだが」
「ぼ、僕も一応男なんだしそれに王様でしょ!大丈夫だよ!!」

僕の反対声明はあっけなく却下となった。
ル・ロンドののんびりとした田舎道をガイアスが歩く姿はやはり検討もつかない。
きっと機嫌が悪いソニアさんが棍を持って歩く並に威圧感を放つに違いない。

「ワイバーンで向かおうと思うがどうだろうか」
「た、たぶん皆ビックリしちゃうから船で向かおうね!」

こういう所も好きなのだからいいのだけれど、前途多難だと溜息が出る。
そんな中、エレンピオス様式の服装に身を包んだガイアスが着替えて来たのか現れた。

「聞けば、父上はエレンピオス人だと聞いた。向こうではこういう服で行くのだろう」
「僕は知らないよ?でもいいんじゃない?」

父さん、母さん、隣のおじいさん、おばあさん
この人は決して借金の取り立て人でも必殺仕事人でもありません、腰を抜かしませんように。

「お父上、ジュードを私の妻にしたい」
「お、お前にジュードを      何でもありません。」
「と、父さんもうちょっと頑張ってよ..!!」





20120705~20121204

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