もうすぐ終わりが来る。
それが俺にはどういう事かよくわかっていた。
世界の終わりではなく、俺自身の生の終わりが来る時は近い事が。


『新世界からの追放』


この世界には人間に見えないような台本があって、そのシナリオ通りに生きているだけ。
だからそのシナリオに従って、あの列車に乗る所からそのシナリオの歯車の回転は始まる。
そして世界が綺麗になったら歯車は止まって、また新しい章が始まる。
その新しい物語に俺はいない、俺の大切な人も居ない。

「兄さん、もうすぐ俺達の役目は終わるんだな」
「そう不安になるなよ、俺が先に行って待っててやるから」
「怖くないのか」
「怖くないって言ったら嘘になる、役だろうがシナリオだろうが怖いものは仕方ない。だけどその最後をルドガーがくれるなら安心して逝けるよ」
「強いな、兄さん」
「その強さはお前が俺に教えてくれたものだ」

道標が揃ってしまえば、兄さんは自分を犠牲にして新しい物語の為に死ぬ。
そしてカナンの地へ向かい、分史世界を消して自分も消えるだけの役目が終わる。
消滅するのは怖いけれど、あの子が俺達の事を優しい記憶の中に住まわしてくれるならそれでいいかと思えた。
ただひとり、君の為に俺は。俺達は消えるだけ。

「消滅した後ってどうなるんだろうな」
「わからないな、この感情も記憶も何処にいくんだろうな」
「それこそ消えてしまうから消滅、なのかもしれないな」

俺が確かに存在していたという記録は皆の頭の中や書物の一遍として残るのだろう。
けれど兄さんと過ごしたこの時間は何処にも残らない。

「兄さんと過ごした時間は消えるんだな」
「何ならビデオテープにでも残すか?俺は嫌だけどな」
「どうして」
「消滅したとしても俺だけが知っていればいいからな」
「兄さんらしいな」

ならばこの時間を兄さんを想ったまま俺は消えよう。
誰も知らないこの時間をせめて、消える直前まで大切に脳裏に焼き付けて消えよう。

「兄さんにまた出会えるかな」
「どうだろうな」
「そもそも消滅するんだからこんな事は話しても無駄か」
「わからないけれど、俺は歌を唄うよ。ルドガー、お前にまた逢えるまで」

兄さんはそんな夢を語りながら歌を唄いマクスバードへ向かう為に部屋から出て行った。
そして、俺が消滅するまでのカウントダウンが始まった。

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