各地で異様な瘴気を吐き続けるこの世界の寿命は長くない。
積み上げられた2000年の重みと100万の命の増大がこの世界の終焉を告げようとしている。

「君の故郷の鉱山からも瘴気が溢れ出したみたいだよ」
「...」
「トリグラフはまだ瘴気の発生が見られてないから、この世界の最後を見届けられるよ。良かったな」

君はただ泣き続ける事しかできない。
約束が守れない事の辛さが、今の君にはよくわかると思うんだ。
きっとあの俺も約束を守る事ができなくて、苦しんだと思うから。


『喪失のはじまり』


「ルドガーおそーい!ご飯冷めちゃうよ!」
「悪い悪い、遅くなったな」
「ルドガー、貴方...血の匂いが」
「すぐシャワー浴びて来るよ。兄さんは?」
「眼鏡のおじさんね、全然起きないの!エル何度も起こしに行ったのに」
「そうか、疲れてるんだよ。そっとしとこうな」
「はーい!」
「ルドガー..?」
「大丈夫だよ、何もないよ」

身体にこびり付いた血の匂いはシャワーで流しても流しても落とせない気がした。
それだけ俺の罪は重い。
けれどこの世界の誰でも裁く事はできない。

翌日から俺はクランスピア社の代表取締役、つまり社長になった。
ビズリーはカナンの地を守る精霊クロノスとの戦闘中に殉職したとそう伝えた。
そのまま副社長だった俺が社長に就任し、会社の事を全て引き継いだ。

「ヴェル。屋上の工事はどれくらいかかりそうだ」
「早ければ明日には終わるそうですが。何故社長室を移動に?」
「ここはね仕事を頑張ってくれてるヴェルだけの部屋にしようと思って」
「屋上に部屋を作って、しかもガラス張りなんて...何かあったらどうするのですか」
「大丈夫だよ、上等な鳥を捕まえたら特上の鳥籠に入れたいと思うだろ」

就任した日のうちに社長室の移動をする事にした。
社長室と、その奥の扉の先にあるガラス張りの鳥籠の部屋。
何故ガラス張りにしたか、それはヴィクトルが苦しんだ守れない約束の辛さを彼に与える為。
崩壊する世界と死んで行く精霊達に約束の儚さを知ってもらおうと思った。

「ルドガー!どういうつもりなの...?!この世界の事を少しは考えてくれないの?!」
「考えないよ。この世界が俺個人を考えてくれない限り」
「やってみないとわからない事なのに何であんな事を...!」
「やってみなくてもわかったんだから、仕方ないだろ」
「どういう事...?!」
「ジュードは知らなくてもいいんだ。だから世界が壊れる所を一番の特等席で見ててくれればいいんだよ」
「そんな事を僕は望まない、それに約束したんだ...」

翌日、出来たばかりのガラス張りの檻にジュードを閉じ込めた。
皆を殺害し、世界の終端を避けるお願いをしなかった俺にジュードは責めた。

「俺はジュードに文句を言わせる訳に生かしておいた訳じゃないんだよ」
「じゃあ、ただここで大人しくしていれば良いって言うつもりなの」
「まず、逃げ出したアルヴィンとガイアスを捕まえる為の餌。それとジュードがあまりにも俺を責めるからジュードにもわかってもらいたいんだ。約束を守れない事がどれだけ辛い事か」
「僕は諦めない..、分史世界だって何か突破口があるはずなんだ...!それにアルヴィンは僕を助けに来てくれる...」

"アルヴィンは僕を助けに来てくれる"
餌だと知っていながら自分自身を助けに来てくれるというのは、アルヴィンを信頼しているという事。
俺自身の腕を軽んじ、アルヴィンなら罠だと気づいても自分を助けてくれると思い込むように。

「そんなに信頼してるんだな」
「当たり前でしょ..アルヴィンなら..」
「やっぱりジュードの考えは複雑だな、精霊の主様とアルヴィン、どっちが好きなんだ」
「ルドガーには関係ないでしょ..!」

そう言って視線をジュードは反らす。
きっとジュードはどちらも選べないぐらいに彼等が大切で、それぞれが恋と愛に分離して約束を守りながらも彼を支え、支えられているのだろう。
今思えば、宿は別れていたし彼と初めてであった時は睨まれたような気さえした。

「ジュードも失えば良い、愛情も恋慕も何もかも。ヴィクトルがそうであったように」

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