かなり壮絶な死ネタと死描写が含まれます、ご注意下さい。
「トリグラフの子供達は怖い話に夢中みたいだ」
「...」
「聞こえてるか?籠の中の鳥、いや、ジュード...」

あの噂は紛れも無く本当の話だった。
彼は毎晩のように泣いた、飽きもせず、涙が枯渇するまで永遠に泣き続けた。
口止めを忘れた警備員が偶然扉を開いたのでお帰り頂いたのがこの噂の真実。


『血まみれのヴィクトル』


「ミラ、エルを連れて俺の家に先に帰ってくれないか」
「いいけれど、どうかしたの?」
「ちょっと用事を済ますだけだから、エル、ミラに沢山スープ作ってもらうと良いよ」
「うん!ミラ!早く帰ろう!」
「あぁ、ちょっと、走ると転ぶわよ」
「いいの!だって、ミラと一緒だもん!」

これが俺が望んだ風景、そう、俺は願いを一つ叶えてもらった。
この世界すらも犠牲にして。
なら、この犠牲を許さない者を生かしておくわけにはいかない。
真実を知れば、彼等は俺を始末すると思ったからだ。打つ手は早い方がいい。

「ルドガー、今まで何処に行ってたの?!皆心配してたんだよ!」
「気にしなくていい、世界を創って来ただけだから」
「お前に都合が良い世界、をか?」
「王様は察しがいいんだな」
「...目の前で消えたからな、ミラ=マクスウェルが...」
「...ねえ、ルドガー...どうして?どうしてミラが消えたの?」
「変な事言うんだな。ミラは消えたんじゃない。帰ってきたんだ」
「カナンの地へ行ったのね」
「そうだ、もうすぐこの世界に終末がやってくる」
「それがお前の答えか」
「あぁ」
「だから、今まで付き合ってくれたお詫びに苦しむ前に始末してあげようと思ったんだ」
「ルドガー!」

この長い戦いの中でも見る事が少ない彼等の心の底からの殺気。
本当に皆は変な事を平然と言うんだな、俺を救ってくれた人達を皆は犠牲にしたのに。
犠牲が個人か世界なんて関係ない、失う事が世界を創る事になるのならばそんな世界はいらない。
だから、俺は...

「ル、ルドガー...その姿...」
「俺は、逆らえない運命から幸せを見つけたんだ。全てを犠牲にして」
「辛いのがお前だけだとかそんな事思ってるのか?!」
「そうかもしれないな」

皆の苛立ちや怒りが俺に集まるのを感じる。
個々が武器を構え、ガイアスとジュードが先頭として俺に攻撃をしかけてくる。
ジュード、何故そんなに泣いているんだ。
俺にとってのミラを失った時は泣きもしなかったのに、残念だったな。
一人一つしか存在できない世界で俺とジュードが二人とも幸せになれる選択なんてないんだよ。

「フェーストエイド!きゃぁっ!」
「エリーゼ!」
「絶対、絶対に許さないんだからね、ルドガー!」
「レイアさん避けて下さい!」

一刻も早くこの無駄な戦闘を終えてあの家に帰りたかった。
残された時間を大切にする為にも、終わらせないといけなかった。
槍で心臓を突く事は慣れてしまった、必要なのは彼等と過ごした思い出を捨てる事。

「エリーゼ!危ないにげ...」
「レイア!」
「レイア?!....レイア...?」
「二人とも背を向けるな!こいつはもう俺達を殺す事に躊躇なんてしてない!死ぬぞ!」
「...わかってます、わかってます..だけど...!!」
「外殻能力...わかっていたが、凄まじい力だ..しかし!」
「いけない、皆さん秘奥義が..!」

レイア、とっても明るくて優しい女の子だった。
だからこそ、彼女を刺した時胸が痛かった。こんな事は一瞬で済ませないといけない。
俺は槍を強く握り、秘奥義を放てば蒔き上がった煙からうっすらと横たわる数人の影。

「くっ...、これ程までの力...、おいローエンしっかりしろ!」
「...貴方は生き残らなければなりません、この世界から活路を見いだして下さい...」

ローエン、貴方も他人を想える優しい人だった。
タイムカプセルの約束を破らせてしまって、ドロッセルを思い浮かぶと胸が痛い。

「おい、エリーゼしっかりしろ!」
「まだダイジョーブだよ...チョット休むだけだから...」
「エリーゼ!今回復するからね..!」
「アルヴィン、私...大人になったらアルヴィンと一緒に働きたいなって思ってるんです...ジュード、私の...初め..て..の友達..に..なっ..て.......あ...り...」
「エリーゼ....?ローエン.....?レイア....?なんで...」

エリーゼ、本当に可愛らしい優しい子で、なのにとても頼もしかった。
エルのお姉さんになってくれてありがとう、そしてさようなら。
込み上げて来る思い出に胸を痛めるも、自分に非情になれと言い聞かす。

「ガイアス?!酷い怪我してるわ!」
「...っく」
「皆...どうして...何で...こんな事に...」
「ジュード!立て!悲しくても立つんだ!」
「ア、ルヴィン...僕...」
「体制を立て直しましょう!私の力で時空を!ガイアス、私に捕まって」
「...すま、ない..」
「ジュード!!前に進むんだろ!ここで止まったら全てが無駄になる!!お前まで俺に失わせないでくれ!」
「....うん...」

非情になるんだ、世界を創るために...
時空を切り裂く妖精の早さには適わないけれど、人間の早さには追いつける。
思い出を捨てるためのタイムロスは痛いが誰か一人でも捕まえれば、後は見つけ出せる。

「早く!そんなに保たないわ!」
「ジュード、手を出せ!」
「わかった!」
「ジュード...!!」
「アルヴィン...!!」

彼と彼の手が繋がる直前にジュードの脇腹を槍で掠める。
この届かない距離の手の辛さで、俺のあの苦しみを味わえば良いとさえ思った。

「...っ...う、痛い.....」
「大丈夫、ジュードはまだ殺さないよ」

君は逃げ出した敵をおびき寄せるための餌であり罠なのだから。

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