空に赤ん坊が生まれて、数年後に噂になったトリグラフの子供なら誰でも知ってる怖い話。
高い高いクランスピア社の最上階の部屋にある鳥籠の鳥が永遠と泣き続けてるんだって。
もしも可哀想だと思っても外に出したらいけないよ。
出してしまったら心臓を槍でひと突きされてしまうんだよ、そんな怖い話。

「しかし、社長。何処からそんな噂が...」
「いいだろ、あの年の子供はそういう話が好きなんだよ」
「もしもの事をお考え下さい、不適切ではない噂は排除すべきです」
「ヴェル。もしも噂が本当なら、鳥はなんで泣いてるんだろうね」
「さあ、わかりかねますが」
「そう言うと思ったよ」


『フェイト・リピーター』


エルが生まれた分史世界でヴィクトル、未来の選択肢の一つの俺を殺害した時の事だった。
彼の心臓を槍で突き刺し、カナンの道標を入手しようとした時の事だった。
俺に成り代わり生きようとした彼は最後に電子端末を渡し、エルを託し消滅した。
電子端末を受け取った事は誰にも言わずに一人宿屋のベッドに寝転び録音してある音声を聞く事にした。
しばらくのノイズと空白の後にヴィクトルの独白は始まった。

『これを聞いているという事は俺はもう消滅したのだろう。俺は俺自身に勝つ事ができなかった、ただそれだけだ。だが、俺が選んだ選択肢で今でも後悔する事が多くある。なら、俺に勝つ事が出来たお前に過ちを繰り返さない為に伝えておきたい。嫌ならこのまま切って破壊してしまえばいい』

俺は電子端末の電源を切る事はしなかった。
何故ならもう俺は一つ選択を過ってしまい、ミラを失ってしまったばかりだったからだ。
この世界のミラ=マクスウェルはあのミラと同じ存在ではあるけれど、それでもミラを失った事には変わりがなかった。
彼女がエルの為を思い離した手を何故もっと握っていなかったのかと後悔ばかりが募る。
未来を知っていればエルもミラも救う事ができたのではないか、俺はもう誰も失いたくない為にテープの空白を待ち続けた。

『俺を倒したという事は道標が揃ったという事だ。カナンの地への扉が開かれる。けれど扉が開いただけでそこに行ける道ができた訳ではない。道を作る為には強い外殻能力を持つ人間の魂で橋をかけなくてはいけない。...兄さんは自分が橋になると言って死ぬ道を選んだ。ジュード達は誰一人兄さんの犠牲を躊躇無く受け入れた。信じられなかった。だから兄さんを守り闘ったが8人掛かりで勝てる訳がなかった。そして目が冷めると兄さんは死んでいた』

あの優しい兄が死んだ?自分から死を受け入れて犠牲になった?
ミラを失った時もそうだったけれど、何故皆はミラの消失に悲しまないのか俺には理解できなかった。
心の何処かに影が生まれる感覚に包まれる。

『俺は兄さんのかけた橋を無駄にしない為にカナンの地へ行った。しかしエルの時歪の因子化は進んでいてオリジンの願いでエルを助けるしか方法はないと思った。だからオリジンへ願った。しかしエルがその願いを却下して分史世界消滅を願った。そして俺だけが残った。誰もこの悲しみを理解してくれはしない』

エルさえも俺は失う羽目になるのか、俺は未来に絶望を抱いた。
俺が何故こんな命運を背負わねばならないのか、こんなにも愛する人達を失わなければいけないのか理解できなかった。
俺の心中とは裏腹に彼の音声の再生は続く。

『エルが願った分史世界の消滅は今あるだけの分史世界の消滅でエルを失った後でも分史世界は生まれた。俺はこの世界でヴィクトルという名を受け継いだ所為で後に生まれた分史世界のエージェントに命を狙われる事になった。時計と直接契約した為に俺自身も時歪の因子化が進み、エルの母ラルを失った。でもエルが健やかに明るい元気な子に育った事だけは幸せに思えた。けれど俺の身体がもう時歪の因子化するのも時間の問題だった。だから俺はお前に成り代わり、全てをやり直し何も失わずに済む未来が欲しかった。だからエルを送った、けれど俺はもうエルの成長を見れそうにないみたいだな。まだ、間に合うかもしれない。だから、後悔しない選択をしろ』

ヴィクトルが俺へに残した遺言ともとれるメッセージは絶望に苦しむ俺を容赦なく奈落の底へと突き落とした。
ミラ、兄さん、エルを失ってしまったら俺にはもう何も残らない。
残らないのにこんな世界で生きる事に意味なんてあるのだろうか。
なら、世界を破壊してでも愛する人達を救いたいと思った。
俺の行く手を止める手があったとしても全て殺してしまおうと...


だから俺は一人意気消沈するエルの側から片時も離れず、エルの側にビズリーを寄せ付けはしなかった。
ヴィクトルの過去の回想だとエルの力なければビズリーはクロノスに打ち勝つ事ができない、その為か未来が変わりビズリーと共にリドウのかけた橋でカナンの地へ向かった。
もちろん兄さんを巻き込まないように、兄さんの大好きなトマト料理の中に睡眠薬を多めに盛って。
エルの力を借りてクロノスを退け、ビズリーに刃を向け時歪の因子化を進める為に摩耗させた。
そして自刃できないようにした後、エルと共に扉を開いた。

「これは予想外な展開だなあ、やっぱり人間って面白い生き物だね」
「そうだな...」
「未来を覗いた君は何を願う?」
「ミラを、返して欲しい」
「分史世界はいいのかい?エルは時歪の因子になってしまうかもしれないよ?」
「分史世界を選択する事に意味はない、それにエルは助ける。願いを叶えた後にビズリーを時歪の因子化させる」
「本当にそれでいいのかい」
「...俺は、失う選択はしたくない。誰かを失う選択に意味なんてないんだ」
「わかったよ、それが願いなんだね」

そして目映い光に包まれて、彼女は帰って来た。
事情も経緯もしらなくて、あの手を離された時の優しい表情のままに。
これで一つ取り戻す事が出来た事に安堵を感じて、次は隣の少女を救わなければと横で息絶えそうなビズリーに目を向ける。

「ビズリー社長、もう時歪の因子化してもいいんですよ。疲れましたよね。さようなら社長。...いや、お父さん」
「か..ぞく、ごっ..こが...そんなに...す...きか....」
「あぁ、大好きですよ」

最大の皮肉を言い残してビズリーは消滅し、エルの時歪の因子化は解除された。
力を使い、事の顛末を覚えていないエルはミラとの再開に喜んでいるようだった。

「ミラ、時間はいくらでもあるからエルにスープを作ってあげて欲しいんだ」
「...ちゃんと準備はしてあるんでしょうね」
「いくらでもするよ」
「エル、ミラのスープ早く食べたい!」
「じゃあ4人で食べような」
「うん!あれ、4人?」
「家で兄さんが待ってるからな」

誰も知らないこの選択がこの世界の寿命を縮めたとしても虚しい世界で長く過ごす事よりも、大切な人と共に生きたかった。
そんな些細な願いさえ叶えてくれないこの世界は残酷だ。
残酷だから、瘴気に苦しんだとしてもせめて最後は幸せに終わりたい。




凄い分かりづらい内容ですみません...orz
要するに本作のルドガーがノーマルEDを迎えた後の3週目的なルドガーの流れですね。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -