ルドガーとミラとの会話の最中に鳴り響いたGHSは分子世界破壊への誘導。
たまたまニ・アケリアに居合わせたアルヴィンを含めた四人で分史世界へ向かう。
辿り着いた場所はまるで一年前の暗さを保つイル・ファンだった。


『ifの消失』


「いたた...あれ、僕一人...?この前の分史世界みたいにはぐれちゃったのかな」

周辺にはこの街の、この世界の住人しか見当たらない。
ルドガーもミラもアルヴィンも此処には居ない。

「あら、ジュード先生。ハウス教授が探してましたよ」
「あ..そうですか、...ちなみにハウス教授はどちらに?」
「嫌だねえ、ハウス教授はラフォート研究所だよ。....ってさっきも言ったと思うんだけど気のせいだったかなあ」
「あっ...!そうでした、すみません。ありがとうございます」

この世界はどうやらハウス教授が存命の世界みたいだ。
僕の教授、いずれは僕自身彼の助手となるはずだったはずの未来の世界。
どうやらこの世界の僕もそのレールの上を歩いていて、その自分も彼の元へ向かったみたいだ。
この人の話から推測するにラフォート研究所に僕が向かえばその部屋に"僕"が2人居る事になる。
できるだけ面倒は避けたいが、亡くなっているはずの人間が存命しているこれは時歪の因子の可能性が高い。
研究所に入る必要がある、それも僕の存在が重複してる事に気づかれないように。

「ジュード先生、お疲れ様です。忘れ物があったんですか?出入りが多いですが」
「そんな所です」

入出カードに名前を書けば、数刻前に自分は研究所に入ったと思われる。
入ってしまえば偶然出会ってしまうかもしれない、咄嗟に道具袋から変装に使えそうな道具を探す。

「...これぐらいしかないよなあ、リドウさんのサングラスくらいしか...」

真っ暗な世界をサングラスで更に遮ると只でさえ暗い世界は更に闇に包まれる。
警備に声を掛けられればサングラスを外し紫外線の試験の最中だと言えば彼等は納得した。
そして彼等からハウス教授の部屋を聞きつけその部屋へと向かう。

「失礼します....」
「誰だ!」
「ハ、ハウス教授!」

恐る恐る開けた扉の先にはハウス教授が一人居た、この世界の僕の姿はない。
そして僕の知るハウス教授とあまりにもかけ離れた彼の姿に驚きのあまりサングラスを外した。

「ジュード!..お、お前はさっき折檻したはずなのに、何故其所に居る!」
「落ち着いてください教授!」
「またあの精霊か?!お前のせいであの精霊はお前の言う事しか聞かない、お前は私の助手だ何故私の為だけに行動できない!」
「ハウス教授、どういう事ですか、僕の話を..!」
「ええい、今日は甚く煩いな。何かあの精霊に悪知恵でも吹き込まれたか!」

激怒しているハウス教授が机の上から何か装置を手に取り、その装置のボタンを押した。
そして僕の胸をドンと突き飛ばし、背後にあった装置のポットへ入れ込まれてしまう。
即座に脱しようとしてガラス製の器具に手を掛けるが、装置が急に稼働を初めて閉まった。

「私は忙しいんだよ、だからさっきみたいに可愛がってはやれないがお仕置きはしないといけないからね」
「ハウス教授―・・」

僕は、この機械を知っている。
僕が一年前見て、命を失った人も知っている、そして僕自身もまたこの装置に捕まるのか。
急激に稼働した機械は僕の身体のマナを吸い取って行く、そして意識が途絶えた。

「君は私の第一助手だからね、殺しはしないよ。それに君が居ないとあの精霊は言う事を聞かない」


気がついたのは、暗い地下室のような場所で檻の中に入っている事、ここから出られない事。
研究所にこんな場所...きっとここはあの下水施設付近にあるのだろう。
イル・ファンの街の地下室はきっと街で一番くらい場所なのだろう、1m先でさえ見通す事が難しい。

この檻がどれくらいの広さがあるのかわからない、それにどこかに脱出口があるかもしれないと恐る恐る進む。
マナを大量に吸い取られた身体は酷く重く感じるが進まなくては帰れない。
しかし、数歩進んだ所で進んだ足は何かに躓いてしまう。

「...何かある...?これって...」

ふと、自分はGHSを持っている事に気づきGHSの画面の光で足下を照らすと人間の足が見えた。
光を少しずつずらして行くと、その人間の着衣は酷く乱れていて特徴的な匂いが漂っている。
その足がピクリと少し動いていて、その人間がまだ生きている事を知る。
ならば助けないと、と思いその光を顔に当てて愕然とする。この世界の自分だったからだ。

「!!」
「....誰か、いるの...」

手元から落ちたGHSは自分とこの世界の自分の顔をよく見える程に照らした。
そして僕と僕の間には長い沈黙が生まれる。

「...誰にこんな事されたの...?!」
「誰って、ハウス教授だよ。またアスカも面白い事するんだね、僕が好きだからって僕をもう一人作る事なんてないのに」
「まってアスカって何?!」
「アスカはアスカだよ、今日もアスカを使役してる所をハウス教授に見つかってマナ吸い取られて襲われてもう疲れたんだ...」
「もっと詳しく教えてよ、お願いだから」
「...でも僕が2人居るっていいよね、だって全部辛い事は全部君がすればいいんだから」
「そうじゃなくて、教えてくれないかな...ここの事」

ここの世界の僕はちょうど一年前のミラを失った時の僕に似ているような気がした。
あの時の僕より流暢に喋りはするけれど、この状態の僕を相手していたレイアを思うと再び胸が痛くなる。
しかし、今はこんな事を考えている場合ではないと思い再び会話をしようと思ったが今まで起っていた足が崩れ床に倒れる。

「マナ吸い取られたのに無理に動くからだよ、だけどこれって良い機会だよね、君を残してここから居なくなれば僕はもう自由だよね」
「それはできないんだ、僕はやる事があるんだから..!」
「そんなの関係ないよ。..ああ、でもちゃんと僕が何されてここで生きてるのか分かった方が楽だよね?それはちゃんと教えるから」

マナ不足によりまったく動かない身体の上にこの世界の僕は股がり僕を逃がさないようにと固定する。
そして僕の衣服を強引に脱がすと下半身を弄り後穴に一気に指を突き入れた。

「っ!!!いっ、たいから、お願っ、はなし、きい」
「あれ?そんなに痛くないの?僕が初めて教授にされた時は痛くて痛くて悲鳴を上げて、そしたらハウス教授に殴られて大変だったんだけど。きっと、アスカが君の為を思ってそうしてくれたんだよ」
「あ"っ、お願いたすけっ、アル―」
「ハウス教授の相手は大変だから頑張ってね、変な薬も沢山飲まなきゃいけないし、借金まみれの教授の為に娼婦の真似事もしなきゃいけないし、何より教授の相手が大変だよ。だってもう年だからなかなかイってくれない癖に性欲強いしマニアックだから」
「うぅっ、それっ、でも、君が..選んだんだっ、だからっ」
「うん、僕が間違って選んだ。だからやりなおそうと思ったんだ」
「そんなのっ、駄目だよ!」

僕がそう、叫んだ瞬間だった。銃声が鳴り、檻の鉄格子を変形させてしまっている。
その音と共に現れたのは僕の世界のアルヴィンだった。

「ジュード、ここに居たのか。時歪の因子はハウス教授の持っていたクルスニクの槍の鍵ー?!」
「ア、ルヴィン..!」
「誰?」
「何処にも居ないと思ったら何してるんだよ、おたくは」
「...今、行くから...!」

銃声が鳴って身構えるように僕の上から退いた隙に足下に散らばる衣服をかき集めて重い身体を引きずりアルヴィンの元へ向かう。
それと同時に僕の手を掴む、この世界の僕。

「駄目だよ...君が居なくなったら、僕はまた...」
「大丈夫、もう終わるから」
「...意味がわからないよ...!」
「卒業研究は終わった?」
「何、を急に言うの?卒業研究なら課題が出されてすぐに書いたよ、だからこうして...!」
「僕が言うのも何だけど、卒業研究はもっと考えてやれば君がこうなる事もなかったんじゃないかな」
「...君は誰....?」
「僕は僕だよ、さようなら」

衣類を軽く纏い、アルヴィンに支えられるようにして立つと視界が急に代わり、"僕"が消えて今の世界のこの場所に移動する。
"僕"が消えた場所を見ていると、急に足が竦み再び地面に崩れ落ちる。

「おい、大丈夫か?!」
「アルヴィンのせいで大事はなかったけど...マナが抜けたせいで...」
「俺のせいって何だよ、言うなら俺のお陰だろ」
「そうかもね、...でもなんで、あんな可能性が...」
「その可能性から俺が救ってやったんだろ」
「あそこに選択があるなら、ミラしか居ないと思うけど」
「じゃあ海停で俺が来なくて極刑にされるかもしれない分史世界に行ってみる?」
「...もう破壊されてる事を願うよ」

さようなら、100万の僕の存在。

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