ネタバレ、発売前予測注意

ここは、分史世界。
アルクノアが壊滅した、俺が存在しない世界。


『さようなら、アルフレド』


「自分が居ないってどういう気分?」
「さあ、どうだろうな。よくわからねーよ」
「寂しい?」
「あぁ、そうかもしれないな」

この世界の俺は十代前半で死んでいる。
苦しんで死んだのだろうか。
叔父との取引でリーダーを陥れてしまう前に死んだのだろうか。
母さんと叔父との醜い部分を見る事もなく死んだのだろうか。
だとしたら、その俺は今の俺を見てどう思うのだろうか。
自分を穢す前に死んだのなら、それでも良いと思うのだろうか。

「ジュードは?」
「どうだろうね、僕はこの世界で生きてるのか死んでるのかもわからないけれど。生きているなら僕は医学校に居て、教授の助手になってるかもしれないし」
「あの日の続き、だな」
「そうだね」

この世界の俺は未来を知らない。
叔父があんなにも卑劣な人間だったという事も。
母親の為ならどんな事も行ってしまう人間になってしまう事も。
母親が自分を認識してくれなくなる事も。
プレザという女と過ごしたあの日々の事も。

「でも、その僕が今の僕と同じなんて思えないと思う」
「どうして」
「それはアルヴィンが一番わかるはずだよ」

でも、マクスウェルの手から溢れて俺は生きながらえてしまった。
この世界が生きる事ができない十数年を生きてしまった。
駒扱いする奴も居れば、こんな俺でも愛してくれる人が居たり
一緒に進もうと手を伸ばしてくれたり、弱音を吐く自分を救ってくれたり
辛い事も救われる事も沢山経験した俺はきっとこの世界の俺とはまったくの別人

「例え、大きなものに巻き込まれたとしても僕は僕で良かったと思うんだ」
「そうかもな」
「そうでもなければ、きっと出会う事も経験する事もなかったから」
「この世界のお前は誰と一緒に居るんだろうな」
「わからないよ、だけど僕はアルヴィンと居る。それで十分でしょ」
「ひとりぼっちで寂しがってるかもしれないぞ」
「それでもその僕が選んだんだ、だとしたら僕はアルヴィンを選んだ」

この世界の俺が生きる事の出来ない今日を俺が生きている
あの痛みを経験しなければ今の俺になれないのはかなり複雑に感じる
それでもあの絶望の淵から差し伸べてくれる手があるのならば

「なら、今の俺もそうそう悪くないかもしれないな」
「そうだといいな」

道具袋に入れていた不枯の花をアルクノアの聚落がよく見える崖から宙に落とす
花は風に抱かれながら飛んで行く

さようなら、この世界のアルフレド
過去の幼い俺
君の魂がいつか幸せに導かれますように

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