一つの長い旅が終わり、俺達は別々の道を歩む為にそれぞれ歩き出した。
そして俺はユルゲンスと共にリーゼ・マクシアとエレンピオスを渡る毎日を送った。
毎日は多忙ながらも、旅の中で実らせたジュードとの関係は少しずつ育んで行った。
ジュードを迎えに行くその日まで歩き続けようと思った。

けれども、こんなに障害が多いとは思わなかった。
さすが、生まれついての世話女房はその障害を大きく拡大してくれた。


『しあわせの代償は』


「そういえば、アルフレド。先日ジュード君が僕の研究所に来てくれたよ」
「そんな事言ってたな、そういえば。」
「本当にアルフレドには勿体ないよ。本当に勿体ないよ。」
「それは俺が一番わかってるから、同じ事を二回も言わないでくれないか」
「傷心しているジュード君に銃向けちゃったけど返り討ちにあってボコボコにされるアルフレドには勿体ないよね」
「なんでそうやって古傷抉るんだよ、というか何で知ってるんだよ?!」
「この前、酔っぱらって帰ってしまいには泣き上戸になって勝手に喋ったんじゃないか」
「...バラン、言うなよ?」
「あーこの情報誰か高く買ってくれたらいいのに。研究費も少ないからね」
「誰が買うんだよ」

たまに顔を見せれば、たった一回の酒の失態をこうも言って来る。
これだからバランと喋ると碌な事にならないと、溜息を吐くが産まれてからの関係性がずっとこうなのでこれからもそうなのだと諦めすら湧いて来る。

「ジュード君はいい子だからねー、本当にアルフレドには勿体ない。」
「今日で四回目だぞ。」
「ああ、そんなに言ったんだね。すまないね。」
「悪いとすら思っていないだろう、まぁいい。俺はリーゼ・マクシアに行くからもう行くよ。」
「待ってくれ。行くならこの資料をガイアス国王に手渡してくれるかい。本当ならジュード君に頼むつもりだったんだけど忙しそうだったからね」
「俺だって忙しいよ」

そう言うと、まるで聞こえないとでも言わんばかりに「いってらっしゃい」と言われてしまった。
ガイアスに会うとなるとローエンにも会うという事になる。
あの小言じいさんの事だ。嫌み一つどころか沢山降って来そうだ。
諦めつつ、ユンゲルスから借用したワイバーンに股がり海を超えてリーゼ・マクシアに渡る。
カンバルクに着陸し、王宮備え付けの檻にワイバーンを繋ぎ入城する。

「おや、アルヴィンさんじゃないですか」
「元気そうだなじいさん」
「まだ元気ですよ、ただ老眼か物が霞んで見えてきましたが」
「しばらく見ない間に老け込んだものだな」
「アルヴィンさんもそのうちそうなりますよ、アルヴィンさんの場合...」
「額を見るな、俺は大丈夫だ」
「そういえばこの前ジュードさんがいらしましたよ」
「そうか」
「随分服装と髪型が変わってましたけど、アルヴィンさんの所為ですかね」
「あぁ、そうだな」
「くれぐれもジュードさんに髭を生やす発想はさせないでくださいよ」
「しねえよ!」
「あの年頃は多感だからじじいは心配なんですよ、悪い男に誑かされないか!」
「俺を悪い男みたいに言うなよ!」

カンバルクを訪れる度にこうも、いちゃもんを付けて来るじいさん。
だからここに来るのは気が進まなかったのに、バランの奴めと恨みたくもなる。

「いいじゃないか、ジュードが俺の影響を受けるって事は俺が好きだって事じゃないか」
「じじいは鈍感でよくわかりませんがこれが俗にいう惚気という奴ですかな」
「わかってるじゃねえかよ、というか惚気じゃない反論だ」
「はぁ..じじいはジュードさんが心配です、これじゃお迎えが来てくれないですよ」
「あんた無駄に長生きしそうだからな」

そう言うと、じいさんはそうですねと笑い謁見の間へと案内してくれた。
以前から圧迫感で満たされていたこの部屋は、相変わらず圧迫感を放っている。

「今日は何の様だ」
「バランからの研究資料だ、今度の議会で提出する予定らしい。一応目を通してくれとの事だ。」
「ならば無関係なお前よりジュードが届ければいいだろう」
「ジュードか?この前来たんじゃないのか。ローエンが言っていたぞ」
「..俺の元には来ていないぞ」
「じゃあローエンに用があったんだな、まあ資料ぐらい俺でいいだろう」
「...ジュードとはもう2節と4旬は会っていないぞ」
「細けえよ、ジュードも忙しいんだ仕方ないだろう」
「それよりお前、そのふしだらな髭はなんだ。ジュードが真似でもしたら切るぞ。」
「お前まで言うのか!というか一国の王が切るって言うなよ!」
「妬みだ」
「一国の王が妬みで剣向けていいのかよ!」
「職権乱用だ」
「堂々と言うな!」

本当にあの優等生は障害物を大きく、大きくしてくれる。
あぁ、俺がこうだからそうなったのか。
それとも優等生がそうだからこうなったのか。
悩ませつつも城を出てワイバーンに乗り、ジュードの居るイル・ファンへ向かう。
今日もきっと研究所に居るだろう。

「ジュード、居るか」
「アルヴィン?ちょっと待ってて、開けるから」
「おお、頼む。」

少ししたらドアが開き、ジュードがにこやかに出迎えてくれた。
ただ少し疲れているようで、眠そうだった。

「悪ぃな。仕事詰まってたか。」
「いいよ、仕事詰まってるのはいつもの事だから。」
「そうだったな、無理してないか」
「無理ぐらいするよ、だってこれが僕の責任なんだから」

あぁ、こりゃああのお三方にもあぁ言われるな。と察知した。
きっとジュードがジュードである限り、それは変わらないと思った。
余程疲れているのかソファに並んで座ったのだが、ジュードの頭が腕に寄りかかっている。

「疲れてるなら、部屋で休もうぜ」
「少しだけだから」
「この手紙、ディラックからか」
「そうだよ、特に用はないみたいだったけど」

ふーん、と言い手紙を広げてみる事にした。
そこにはまるで娘に初めて彼氏ができた父親さながらの文面が綴られていて思わず閉じた。
その行動にジュードがふふふ、と鼻で笑う。

「父さんも心配しすぎだよね、母さんは応援してくれるのに」
「これを心配で片付けるのか」
「大丈夫だって、ちょっと喧嘩したってすぐ治療できるから」
「むしろその治療が怖いよ俺は」
「そう?父さんはル・ロンドじゃ名医って呼ばれてるのに」
「そりゃあそこに病院はおたく一件しかないからな」
「そうだったね。でももし止められなくてもソニアさんが居るから大丈夫!」
「全然大丈夫に見えない、むしろ留めを刺しに来るよなそれ」
「大丈夫だよ」

禍々しい手紙を机の上に戻し、ジュードの頭の上に自分の頭を乗せる。
このまま二人で朝まで一緒に居たいと思うのに、そうはいかなかった。
二人とも歩き出してしまったのだから止まる事は今はできなかった。

「ジュード、俺、エレンピオスに戻るから」
「うん..わかった」
「..俺、成功したらイル・ファンでジュードと暮らしたい」
「わかった、待ってる。」
「だから、あと少し離れててもなんとかなるよな。」
「大丈夫だよ。」

そう言って俺はジュードの部屋を後にした。
ジュードを迎えに行くために仕事を頑張ろう、そう再び誓った。
そして、そろそろ実戦に向けたトレーニングを始めようと決意した。


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Thanks//確かに恋だった

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