アルヴィン、お願い、嘘だと言って。

物陰に隠れ、アルヴィンと数名との密談を隠れて聞いていた僕は心臓を刺されたように痛かった。
僕の願いは届く訳もなく、アルヴィンは僕を最悪な形で裏切った。


『夢ならばここで終わらせて』


「ねえ、アルヴィン。なんでアルヴィンはこんなに僕に優しくしてくれるの?」
「あぁそれ聞いちゃう?」
「だって気になるから...それに」
「それに?」
「僕、アルヴィンの事が好きだから....!」
「これだからモテる男は辛いな...ってそんな泣きそうな顔をするなよ、優等生」
「...アルヴィン?」

そう言って、アルヴィンは僕の腰に手を廻してキスをした。
自分の恋愛未経験が恥ずかしくなる程、アルヴィンは僕の何枚も上手だった。
嫌がられると思ったけれど、開いた僕の体をドロドロになるまで性行為を繰り返した。

「アルヴィン..好きだよ」
「あぁ、優等生」

そう僕の頭を撫でてくれるアルヴィンが好きだった。
アルヴィンも僕を愛してくれているかのように思えた。
だからこの後自分の身に何が起きるかなんて想像もしなかった。

「なあ、ジュード。ジュードは大切なものってどうする?」
「え?突然なに?」
「なんでもないよ、例え、だよ。」
「僕は大事に身につけるか、鍵を付けてしまうかな。」
「へー。ミラだったらどうすると思う?」
「ミラ?...わからないけれど、大切なものはイバルに渡してたからそういうのもあるんじゃない?」
「そういうのもあるんだな。」
「アルヴィンはどうなの?」
「俺は大事なものは保たない主義なんだよ」

この会話がこの後の事を招くなんて思いもしなかった。
それからアルヴィンは僕とだんだん距離を置くようになって行き、別行動も多くなった。
それを不安に思い、僕はアルヴィンの後を付けてしまった。

『後は巫女を唆せば余裕だな』
『以外とすんなり任務ができてよかったな』
『あぁ、そうだな』
『しかしそのターゲット、可哀想だな』
『いいんだよ、そもそもあいつの事嫌いだし遊びだし、本気にしててマジ笑えるわ』
『ひっでえ男だな』
『いいんだよ』

全て、聞いてしまった。
僕の話だった。
アルヴィンが僕の事を嫌いだった。
遊びだった、嘘だった、裏切られた、嘘でしょ?嘘だよね?
ア ル ヴィン.....?


これが、僕が記憶を失う前の話。そして、僕が綺麗に忘れた過去の話。
あの後パニックを起こした僕は彼に関わる全ての記憶を失ってしまった。
それはつまり、この旅に関する全ての記憶を。
朝起きて、登校しようと思ったら何故か遠い異国に居た 自分の脳内ではそういう状況。
何故自分がア・ジュールに居るのかまったくわからない状況。
そして海停に着けば、警備員に捕まり城に送られる羽目になった。

「指名手配されている者が堂々と船舶を利用するとはな。」
「指名手配....?」
「お前国際手配されているSランク犯罪人だ。」
「Sランク...犯罪人...?」
「ほっとけば良かったのだが、今お前をみすみすラ・シュガルに渡す訳にはいかない」
「...犯罪人...?うっ...」
「お前、まさか」

この時僕は自分の記憶が欠落している事に気づいた。
そして、困惑する僕と不安そうに僕を見るア・ジュールの王ガイアス。
何故僕が一国の王と顔見知りなのかすらわからないけれど、自国に帰る事はできない事だけは理解できた。

「俺はお前をよく知っている..、面倒ぐらい見てやってもいい」
「...あの、ありがとうございます...本当に..」
「気にする事はない」

ガイアスがそう言った瞬間、何故か涙が出て来た。
謁見の間で泣き出す僕を気遣って、警備兵を全て下がらせてくれた。
それでも泣き止まない僕をガイアスは抱き、大丈夫だと耳元で囁いてくれた。
やっと、安心する事ができた。

「部屋の空きがなくてな、俺の部屋でいいか」
「そ、そんな...これ以上迷惑なんて僕...」
「俺がいいかと、聞いているのだ。何回も同じ事を言わすな」
「ガイアス..」

それから、僕とガイアスが深い仲になるまではそんなに長くはなかった。
何故か知らないけれど、ガイアスは僕を裏切らないという絶対の自身が僕を何より安心させた。

「ジュード、今日は城の部屋から一歩も出るな。いいか。」
「わかったよ、ガイアス。」

僕は指名手配犯、Sランク犯罪人。そんな僕を匿う訳だからそう言いつけられる日もあった。
しかし、その日は状況が違った。
静まる王宮に鳴り響く破壊音、銃声、怒号、悲鳴。
大変な事が事が起こっているくらい、僕にでも理解する事ができた。
僕の部屋の前を複数の足跡が右から左へと鳴り響く。そして、その足音の一つが部屋の内部に入る。

「っ、上手く兵は山に向かったか。これでミラ達とシャン・ドゥで落ち合えば..」
「だ、誰!?不審者なら、容赦しません..!」
「!!ジュード...!?」
「なんで僕の名前知ってるんですか?!武器を下ろして下さい..!」

見覚えの無い、背の高い、茶髪、茶目の怪しい男。
銃と大剣を持っている、きっと隠れるためにこの部屋に入って来たに違いないと思った。

「おいおい、知ってるもなにも俺達は恋人同士だろ?お前は行方不明になって皆探したんだぞ!」
「そんな話、信用できないよ..!僕の恋人はガイアスだけなんだから!」
「お前は嘘を吐かれているだけだ」
「ガイアスは嘘なんかつかない...!っ...」
「とにかく、ジュード、連れて帰らしてもらうぞ!」
「嫌だ..!僕はガイアスの側から離れない...!」
「この分からず屋..!」

男の銃の銃口が僕を狙っている、それがわかった瞬間とっさに受け身になった。
その瞬間、扉からガイアスが入って来る。それに気づいた男は反対の手の大剣をガイアスに向けた。

「お前...何故ここにいる」
「さあな。それより、何でここに優等生が居るんだ。」
「俺の質問に答えるのが先だ。あと、その銃と剣を下ろしてもらおうか」
「ならこうしようか。」

その男は剣を退けると同時に僕の背後に来て、僕の頭に銃口を向けた。
ガイアスは顔を顰め、僕も不安でさぞ酷い顔をしているのだろう。
よくわからないが、この男に関わると何かが壊れそうな気がしてならなかった。

「ジュードは連れて行く。」
「ガイアス..!!」
「お前、またジュードを何かに利用する気か」
「利用するなんて酷いな、俺はジュードの恋人だぜ?」
「それは過去の話だろう」
「ガ..イ、ア..ス...!!」
「連れていくぜ?着いて来てくれるよな、優等生?」
「行くなジュード!!また裏切られ騙されて記憶を失うぞ!!!」
「っ」

銃声が鳴り響いた。
男が発砲したと思ったが、発砲したのは城の警備兵だった。
それに気づいた男は部屋の窓を破り、城から脱出したのだった。

「ぼ..僕知ってる...あの男が...ああああ"っ」
「ジュード!!無理に思い出そうとするな!!」

そして、僕はいつかのようにパニックを起こしてしまって倒れてしまった。
僕は眠っている間に夢を見た、悪夢だった。
誰かに酷く裏切られる夢だった、夢なら早く冷めて欲しいと泣きながら願った。
目覚めても僕はその悪夢を引きずりたまに現実か夢かわからなくなる程だった。

『お前の事なんか嫌いなんだよ、遊び遊び。本気にしちゃって馬鹿みたい。』
『嘘だよね?!僕、――の事好きだよ?!』
『だから嘘って言ったよな。いつまでも信じて何なんだよ』
『嘘吐かないで、裏切ったりしないで..!!ア――!!』
『俺はお前の恋人なんだよ』
『恋人...僕はア――ンの恋人??』
『お前の事、連れて行くぜ』
『アル――ン....!!』
『嘘だよ、馬鹿だなあ。優等生』

悪夢で目が覚めた。
そして中途半端に思い出された過去は過度に恐怖を植え付けただけだった。
隣で眠るガイアスすらも信用できるのか、そうでないのかわからず不安だった。
僕にできる事はこの泣いている今さえも夢だと思い込む事だけだった。


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Thanks//確かに恋だった

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