浮気に気づく第一プロセスは香り、だと思う。
現場を見られる、という事もあるかもしれないけれどこの真っ暗な国は僕を隠してくれるのに丁度良いらしい。
だとしたら、香りだと思えて来て僕の衣類に纏わりつくフレングラスを一掃した。

その香りを僕に付けた男はとても貪欲で気づけば僕の近くに居て、仕舞には体を奪われてしまった。
初めは浮気ではなかった、寧ろ強姦といってもいいと思っている。
それを浮気と認めてしまったのは、満更嫌とも感じなくなってしまったから。
抵抗をやめてしまったから。
ベッドに押し倒そうとするその手を払う事ができなくなってしまったから。

「いつになったら二股やめてくれるんだよ」
「二股って言い方辞めてよ、僕だって好きでこうした訳じゃない」
「そうだよな?全部俺が悪いんだよな、俺がジュード君を誑かしたから?」
「...ちゃんと、言うから...。」
「俺と優等生の女の香水って相性悪いんだよな、臭くてさ」
「...僕もそう思うよ。」

本当に鼻につくよ、この胸焼けしそうな混ざった臭いは。
でも何と言ってあの子に伝えればいいのだろうか。
好きじゃなくなったーアルヴィンが好きだから
言いたくないー僕が男に抱かれたなんて
あの子の元に向かっている途中に、あぁ理由なんて言わなくていいのだと気づくまでは考え続けた。

「別れて欲しい。ごめんね。」
「そう。わかった。」

別れの言葉は僕が思っている以上に少ない言葉で片付ける事が出来た。
少ない言葉の間に染み付いた彼女の臭いはイル・ファンの風ですっかり消えた。
あとは僕の部屋に勝手に居座る男の元へ帰るだけ。

「早かったんだな」
「うん、あと指輪戻って来ちゃった」
「へー。ちょっと貸せよ」

もういらない物とポケットの奥底に捻り込んだ指輪をアルヴィンの手元に渡す。
アルヴィンはその指輪を一望すると、顔を顰めて部屋の片隅にあるアクアリウムに投げ込んだ。

「やっぱこの臭い無理」
「変な物投げ込まないでよ、唯一の発光源なんだから」

すいすいと水槽の中を泳ぐ魚を心配し眺めているといつものように彼の手が僕にまとわりつく。
思えば、初めも彼はこうやって僕の自由を少しずつ奪ったのだ。
そして蹂躙してしまいには、こうして彼女すら手放した。

「計画通りで楽しい?アルヴィン」
「あぁ、楽しいさ。」
「そ。」
「何、被害者面してんだよ。最後に決めたのは全部優等生の癖に。」
「そうだね。だけど、アルヴィンは楽しくてたまらないのでしょ?」
「あぁ、そうだよ。」

そう言ってこの男は喉元を鳴らしながら嗤うのだった。
男の手が僕の頬をなぞれば手首に付けられたフレングラスが喉元を噎せ返らせる。

「さっさと慣れればいいのに」
「そうだね、僕もそう思うよ。」
「せっかく体の相性はいいのにな」
「じゃあ辞めてくれればいいのに」
「そうしたら魔法が解けちゃうから」
「昔の売春婦みたいな事言うんだね」
「掛かったのはおたく、だろ。」


『ぐるりぐるり、逆流する渦の中』


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Thanks//夜風にまたがるニルバーナ

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