あの人は不器用で人と向き合って生きるのがとても下手なんだ。
あんな事があった後だけれど、この子もあの人さえも失うなんて考える事はしたくなかった。
そう考えると僕にとってこの子もあの人も大切なのだ、と実感できて安心する事ができた。

あれからの生活は大変だった、と振り返る事しかできない。
厳格な父に報告するのも心が折れるけれど、なんとか許しては貰えた。
ただ、学校は退学ではなくて休学してその後復学する事を約束した。
そこからはごたごたと引っ越しに追われたり準備に追われたりと大変だった。

アルヴィンはアルヴィンでユルゲンスさんと商売をはじめた頃で疲れ切って帰って来る毎日。
それでも毎日ちゃんと家に帰って来るし、少しくらいは家事を手伝ってくれる。
たまにユンゲルスさんと言い合いになった、と眠るまでの間酒に浸る事もあった。
大変だけれども、僕達はこの子の為に頑張っていた。

それから十月十日が経ち、子供が無事産まれた。
あの生活も大変だったけれども、産む時の方がもっと大変だったかもしれない。
わずかに開いた診療室の扉から見えるのはいつかのように手持ち無沙汰に廊下をウロウロするアルヴィンの姿。
その姿を見つつ、痛みにたえつつ、朦朧と痛みと呼吸を繰り返す事数時間で子供は産まれた。

子供が産まれて、アルヴィンが子供を一目見た時アルヴィンはとても嬉しそうだった。
僕にとっても彼にとっても、この子は僕らを繋ぐ存在なのだから大切にすると誓った。
今までが孤独の積み重ねだったアルヴィンにとっては本当に大切な存在になった様だ。
僕もまた、そうだったのだけれど。

子供が産まれるとアルヴィンはまた、仕事を一層頑張るようになった。
夜遅く帰ってくる日も、フラフラで帰宅する事も多くなった。
無理はしないで、なんて僕がいくら言っても大丈夫。なんて言って行ってしまう。
何が大丈夫なものか、そう思うのだけれど彼の思いは強かった。
けれど、アルヴィンの体の方が先に折れてしまった。
アルヴィンの職場の近くの病院からのアルヴィンが倒れたと、連絡が来たのだ。

「アルヴィン...!やっぱり、無茶してたんでしょう?!」
「あいつは...?」
「...夜遅いし、寝てたから母さんに頼んで見ててもらう事にしたんだ」
「悪いな...。こんな事になるつもりなんかなかったのにな。」
「当たり前でしょ!?どんなに心配したと思ってるの?!」

気づかぬ間にやっぱり無理をしていたと、そう思うと涙が止まらなかった。
それにアルヴィンは気づくと僕の頬を撫でて涙を拭いた。

「あいつをちゃんと育てて、ジュードをもう二度と悲しませないって思ってたのに」
「だからってこんなになるまでしてくれなくても良かったのに...!」
「こうでもしないと、ジュードにもあいつにも顔向け出来ねえよ...」
「まだあの事を引きずってるの?!僕はアルヴィンに一緒に育てて欲しいって言ったけど、それはこんな事じゃないよ...わかってよ...」
「俺はそんなに簡単にあの事を都合良く流す事はできなかった...」
「...懺悔の為に生きてるんじゃないでしょう?...その触媒にあの子を使わないで、誰もアルヴィンの事を恨んで何かいないから...ね?」
「....そうだよな、結局ジュードをこうやって泣かせてたら何の意味もないのにな...」
「...そうだよ...!」

アルヴィンはあの事に対して酷く罪悪感を抱いていた。
許した、と言ったはずなのにその事を思い出すと働かずにはいられないと顔を俯ける。
そんなアルヴィンを頑張って説得をした成果があったのか、理解してくれたみたいだ。
僕らは懺悔する為に生きながらえてる訳ではないのに。

「...お願いだよ、アルヴィン。居なくならないで...」
「あぁ...約束するよ...ジュード」
「約束だよ..?」

そして、アルヴィンは病院のベッドで眠りについた。
しばらくしたら退院できて、再び仕事に復帰したが忙しさは相変わらず。
それでも僕との約束も守ろうと、過度な仕事はやめるようにはしたみたいだ。
休みの時は僕とこの子の側で片時も離れず居てくれる。

「たまにさ、俺ジュードの人生めちゃくちゃにしたんじゃないかってやっぱり思う時がある。」
「...そうだね、僕もこうなるとは思ってなかったから」
「それでも、無理矢理奪ったこの席にずっと居続けたいと思うんだよ」
「僕も、そうだといいなってずっと思ってたからいいんだよ」

少ない確率から僕を奪って、運命を変えたアルヴィン。
僕が願う事はただ一つ。この運命の果てが幸福でありますようにと、願うだけ。


『幸福論』

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