「俺、商売を始める事にしたんだ。」
「急な話だね、でもアルヴィンがそう考えてそうするなら僕は反対しないよ」
「...てっきり反対されるかと想ったけどな」
「そんな事ないよ?だってアルヴィンがやりたいと思ったんでしょ?」
「あぁ」

アルヴィンはユルゲンスさんと共にフルーツをエレンピオスとリーゼ・マクシアに行き来し合う商売をすると言った。
アルヴィンらしくないような、アルヴィンらしいような話で少し笑った。
僕とアルヴィンとミラで初めて料理を振る舞った時二人ともとても美味しいと言ってくれた事を思い出した。
ミラが愛する人間が作ったミラの愛するものが、いつか精霊界にも届けば良いのにと 淡く思った。

「だから、成功したら結婚して欲しいんだけど」
「...あんまり待たせないでね」

そんな事を思ってもないのにそう言うとアルヴィンは頭を掻いて笑った。
僕も僕の事をしよう、と僕らは少しの間手を離す事にした。

それから何年か経ってから、アルヴィンは綺麗な指輪を持って僕の元にやってきた。
顎髭なんて生えちゃったりしたけれども、アルヴィンは僕との約束をちゃんと覚えていた。
だから僕もそれを受け取って、僕らは夫婦になった。



「お義父さん、ジュードが凄く辛そうなんだが...」
「お前にお義父さんなんて呼ばれる日が来るとわな」
「そんな事はどうでもいいんだよ、ジュードが呻いてるんだよ」
「...大丈夫だエリンが付いている、それに出産はそういうものだ。わかったか?」

エリンさんから笑顔で部屋から追放され、ディラックとの会話。
ディラックは医者なのか慣れ切ってるらしく、男に仕事はないと落ち着いている。
でも俺は落ち着く事なんてできなくて、治療院の短い廊下を行ったり来たりする。
それから少し経ってエリンさんが俺を呼んだ。

「ほら、ジュードにそっくりの可愛い女の子よ」
「ジュード...!!!」
「ア、ルヴィン...ぼ、く...」
「頑張ったなジュード...、ジュードにそっくりで可愛い」
「アルヴィン...喉乾いた...」
「ほら、行って来い。」

俺が願ったジュードにそっくりの愛娘が産まれて喜びに満ちていて、診療所の短い廊下すら走って水を取りにいく。
ジュードに水を運べばジュードはありがとう言い、産まれたばかりの子を抱きしめていた。

「本当にジュードにそっくりね」
「ううん、母さん。鼻とかね髪はアルヴィンなんだ。」
「そうかもしれないわね」
「でも人相の悪くなくて安心したよ」
「遠回しに俺の事を貶すなよな」
「そうだよ、父さん。」

産まれてからはそんな和やかな日々を過ごしていた。
更に年月が経って愛娘が言葉をようやく流暢に喋れるようになった頃。

「ぱぱ ここ ぱれんじ いっぱい」
「そうだよ、パパはここのフルーツを世界中の人に運んでるんだよ」
「ぱぱ すごいね!」
「そうだよ、パパはすごいんだよ」
「...世界的に凄いママには言われてもな」
「ぱぱ わたしも たべる!」
「パレンジか?すっぱいぞ?」
「たべる!だって ぱぱ はわたしにもくれるよね!」

そう言う娘に、ジュードも少し食べさせてみようか と微笑んでいった。
ジュードがパレンジを食べやすい大きさにしてあげると娘は美味しそうに食べた。

「そんなにいっぱい食べると腹壊すぞ」
「こわさないよ!もっとたべるもん!」
「この食い意地は誰に似たんだろうな」
「そうだね、でもミラもこんな風に美味しそうに食べてたよね」
「あいつには負けるけどな」
「みら?」
「僕達を見守って、愛してくれる優しい精霊だよ」
「わたしもあえる?みらにあいたい」
「いつか会えるよ、まだ会えなくても いつかね」
「じゃあ!みらにあえるように いいこにする!」

そうニコニコと話すジュードと娘を見ていたら何故かこう胸に込み上げて来るものがあった。
仕事が忙しくてろくに面倒も見れなくて情けない父親だけど、こんなにも幸せだなんて。

「ぱぱ?」
「アルヴィン?どうしたの?」
「なんでもねーよ、生理現象」
「あー!ままがね ぱぱがそういうときは きをつけなさいって!」
「ジュードー」
「本当の事でしょ」

昔は魔物が蔓延ったこのパレンジ農園はいつしか魔物がいなくなって
俺達は武器を手に取る事が少なくなった。
殺生をしなくなった、手が綺麗なままだ。
その綺麗な手でジュードと娘を抱きしめる事がこんなに幸せだなんて知らなかった。

涙を拭えばジュードは微笑んでいた。
これが 幸せ なんだよ、って微笑んで囁いた。


『ありふれてる大切なこと』


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Thanks//確かに恋だった

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