あれだけ、散々犯して泣かせた。
それなのに最後に言った言葉は「アルヴィン、病気、治った?」本当に、笑えて来る。


『溺れて、溶けた。』


殴られた方がマシだった。
罵声を浴びせられた方が楽だった。
こんな汚い俺に対して、一番の仕打ちはその汚さを受け入れられる事。
何より、その後の俺との関係が一切変わらない事が何よりも辛かった。

「アルヴィン、また調子悪いの?」

ドアを開ければ、先輩は居た。
ここの保健医は何処をほっつき回っているのだろうか。
そう疑問さえ湧いて来る。
そしてあの出来事なんて無かったかの言葉が心に刺さる。

「あぁ。」
「あんまり悪いのが続くようなら、医者に見て貰った方が...」
「いいんだよ。つか、あんたが居るせいで治りそうにない。」
「...そっか、...ごめんね。」

何を考えてそう言ったのだろうか。
俺の思いを読んでそう言ったのか。
はたまた、先輩自身の存在が邪魔だとでも思ってそう言ったのだろうか。

「俺、行くわ。」
「え、体調悪いんでしょ?休んでいけばいいよ?」
「...そんな事言うと先輩の事また襲うよ?...あの事は虫にでも刺されたと思って忘れてくれよ。」

保健室のドアを開けてそう言い残し去っていく。
俺は先輩を傷つけたくない。
散々傷物にした癖になんて都合が良いのだろうか。
ただ、俺が居るだけで先輩はきっと辛いにきまってる。
あんな事をしたのだから。

それから俺は保健室には近寄らなくなった、
怪我をしたら、適当にタオルで拭いたり冷やして終わり。
体調が悪くなったら帰る。
そうすれば先輩に合わなくて済むし、辛い思いをしなくて良いから。
忘れたかった。
彼に恋した事を。
彼を欲望のままに押し倒し、犯した事を。

「...忘れられるわけ、ねーよ...」

そう、自覚した頃には保健室のドアを勢い良く開けていた。
先輩はいつも変わらずそこにいた。
ったく、ここの保険医はどこをほっつき回ってんだか。

「アルヴィン、最近見なかったけど体調は大丈夫?」
「...御陰様で全然よくない。」
「だから、病院行った方がいいんじゃない?」
「医者じゃ治せない。」
「ア..アルヴィン?そんな大きな病だったの..?」
「違ぇよ。」

あまりにも鈍感すぎて、怒鳴りそうにもなる。
遊びじゃなくて、本当に先輩が好きだからと射切りそうになる喉元を押さえる。
そして、先輩にポケットからお菓子を取り出し渡す。

「これ、」
「何?キャンディー?くれるの?僕に」
「購買で買ったけどど、飽きたからやる。」
「アルヴィン、ありがとう」

そう言って、先輩はニコニコと笑って受け取った。
「はい、治療できたよ」と同じぐらいの笑顔を久しぶりに見たような気がした。
それから俺は毎日、ポケット菓子を持って保健室に行く事が多くなった。
先輩が見たいから、という理由と。
口下手すぎて上手く言えない代弁としてお菓子を渡す、という理由と。

それからしばらく経ったある日だった。
いつものようにお菓子を持っていって先輩に渡した時だった。

「アルヴィン、もういいよ?」
「え?」
「あの事なら許してるから、そんな毎日僕に会いにこなくていいんだよ?」

「??」と頭の中に浮かんだ。
あぁ、この人は鈍感だったと改めて認識した。
俺は贖罪をする為に保健室に通っていると思い込んでるんだ。

「もう気にしてないよ。それにほら、毎日いっぱい貰ったからもうポケットの中入らない。」
「違ぇよ。」
「え?」
「俺は、別に許されたくて、そうしたんじゃない!...許しては貰いたい、だけど、違う。」
「ごめん、..違ったんだね。」
「...言葉にできない...。」

そう言うと、沈黙が訪れた。
俺はただたんに何て言えば良いのかわからなかった。
先輩は先輩で、意味の食い違いに悩んでいるのだろう。

「..僕、鈍感らしくて。多分、何かしらアルヴィンも不快になった事があったのかな?」
「へ..?」
「僕、振られたんだ。..こんなに想ってるのに私の気持ち少しは届いてるのって。」
「...」
「..僕なりに気づいて大切に想ってたと思うんだけど、違うみたい。だから、僕のせいでアルヴィンを傷つけてたら..ごめんね。」

そう、先輩は言った。
先輩は何にも優しい、だから"自分だけへの優しさ"を判別できない。
ましてやあんな事をした俺を嫌がる事なく、普通に接して来る。

「ほんっと、先輩って...」
「僕?」
「...お菓子を持って来たのは、謝りたいからじゃなくて気を引きたいから。」
「...そうだったんだ。」
「だから...許しを請うんじゃなくて、振り向かせたかったんだ...先輩を。」
「僕、全然合ってなかったんだね。..ごめんね、アルヴィン。」
「...好きなんだよ。あんな事をした俺に言う資格はねーかもしれないけど..。」
「...そっ、か。」

その反応に言わなければ良かったと、少し後悔しそうになった。
でももう後には引き返せなくて、沈黙がまた流れる。

「やっぱり、知らず知らずのうちにアルヴィンの事、傷つけてたんだね...」
「...そう思うなら。振り向いて欲しい、もう急に襲ったりなんか しない。だから、返事が欲しい..。」
「...今じゃなきゃ、駄目?」
「...先輩が、ジュード先輩が、決めるまで待つ...それまで毎日来るから。」

それから、毎日同じように保健室に通った。
先輩の掌に沢山のポケット菓子を落とした。
毎日毎日、沢山落とした。
俺が言わない、言えない分の好きを込めて落とした。

「アルヴィン、もういいよ?」

デジャブを感じた。
前にもこんな会話をしたような気がする。

「え?」
「沢山貰って虫歯になりそうだから。」
「..どう解釈したらいいんだよ、それ。」
「お菓子はいいから、アルヴィンから沢山聞きたくなっちゃって。」
「...それって。」
「うん、だから。直接、ちょうだい?」

先輩はそう言って、笑った。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -