目覚めたら僕はどこかの孤児院らしき場所に居た。
名前を聞かれたので、「ジュード」と答えた。
ただ、それ以外は覚えている事がなかった。
幼かったからもあると思うし、今思えば"それ"が印象に残りすぎて"それ"以外を忘れざるを得なかったからかもしれない。


『あの日、"僕"は死にました。3』


孤児院にやって来て1年が経つか経たなかった頃の事だった。
初めて悪夢を見た。悪夢というか、過去の回想とでも言うべきなのだろうか。
父さんと母さん、僕、を取り囲む銃を持つ人。銃声。悲鳴。
ぜいぜいと息を切らして目が覚めた。僕は泣いていた。

「はぁ...はあ..っ...」
「ジュード君?大丈夫?」
「せんせ、僕、思い出した。父さんと母さんが殺された事。」

先生は僕をあやすように抱きしめてくれた。
しかし、頭の中の混乱は収まる事はなかった。

「僕、どうしてここにいるの?なんで生きてるの?」
「悪い夢を見たのね。大丈夫よ怖くないわよ。」
「せんせ教えて、なんで僕はここに居るの?」

先生が話をはぐらかしてもずっと同じ事を聞き続けた。
そうしたらようやく話してくれた。
『誰かが貴方をここの入り口に置いていったの。気づいて追いかけた時にはもう居なかったけど。本当に、私たちが知ってる貴方の事はそれだけなの。』
と、言ってくれた。
あまりにも短い僕に関わる記憶は、僕の記憶を蘇らせてはくれなかった。

初めてその夢を見てから、僕はよくその夢を見るようになった。
何回か見るうちに夢は鮮明になっていったけれど、いつも包囲されてから銃声が鳴るまでの間だけだった。
その短い記憶はやっぱり僕の記憶を蘇らせてはくれなかった。

「..思い出したいよ。父さん、母さん。どんな顔をしてたの。」

それから更に年月が経って、何回も同じ夢を見た。
回数を増す毎に、父親と母親が恋しくなってたまらなかった。
皆が持っているファミリーネームが僕だけなくて、思い出せないのが嫌でたまらなかった。
今生きているのはただのジュードの僕で。
きっと昔はジュード=   という名前がちゃんとあったはずなのに。
思い出せないせいで、僕は僕を失った。
父さんと母さんとの唯一の繋がりを失った僕は過去の"僕"を殺してしまった。

僕はどうしても取り戻したかった。
だから、日々"僕"を取り戻す方法を考えるようになった。

「見るからに大人数だった。つまり組織的犯行にまきこまれた可能性がある。」
「だけど、孤児院では情報が集まらない。行動に限度がある。」
「なら、情報が集まる所に、できるだけお金と地位と知略がある所へ行かなければ。」
「でもどうやっていけばいいんだ。今のままじゃ、無理だ。」

考えを巡らす毎日を送るようになったのは12歳の頃だった。
ちょうどその頃だった、チャンスが訪れたのだ。

「ねえねえ、知ってる?今度六家のバーニャ様がこられるのよ!」
「もしかして僕らの誰かを貰ってくれるの?」
「わからないよ。だけど、もしかしたらそうかもしれないよ!」
「じゃあ良い子にしてないといけないね!」

同じ孤児院の兄弟がそんな事を言っていた。
六家、バーニャ氏。知らない者はいないと思う、賢者クルスニクに従った者の子孫。
僕が望んでいるお金と地位と知略を全て有している。
これに賭けるしかないと思った。

「ちゃんとバーニャ家の事について調べなくちゃ。気に入ってもらえるように。」
「今の当主は妻に先立たれて、世継ぎも居ない。養子を見に来るに違いない。」
「勉強は学年で1番だから大丈夫。僕に必要なのは愛想と愛嬌と引きつける"何か"」

バーニャ氏は、アジメストの瞳。
この孤児院にアジメストの瞳を持つ子供はいない。
何かしら同一の何かを有していれば、記憶に留めていて貰える。
僕は瞳の色をバーニャ氏と同じアジメストへ変える事にした。
先生は不審がったが、成長期に瞳の色が変わる事はまれにあるので深く聞かれる事はなかった。
そして、バーニャ氏が孤児院へと訪れる日がやってきた。

「こんにちは!バーニャ様!」
「君は元気がいいね、名前はなんというのかな」
「ジュードです!誉れあるバーニャ様と会えて光栄に思います!」
「君は幼いのによくそんな言葉を知っているね。」
「ジュード君は学校で一番の成績なんですよ。」
「偉いね。それに、君の瞳は私とよく似ている。」
「バーニャ様の瞳はとても綺麗なので、同じで嬉しいです。」

出来るだけ、愛想良く、愛嬌を持って彼と話した。
全ては父さんと母さんと僕の為に。
そして僕は後日バーニャ家の養子になる事が決まった。

「父さん、母さん、僕、これから僕はジュード・S・バーニャになるけど。僕の名前を探しに行くだけだからね。」

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