「テツヤ、服をぬいでごらん。」
「はい......え?」

放課後、俺の部屋に来い。と、赤司君に呼ばれた。
俺の部屋、というのは廃部の元将棋部の部屋を赤司君が勝手に陣取った部屋の事だ。
バスケ部の部室、自分が主に使う体育館と程近いと彼は満足そうに言っていた記憶がある。

「テツ、練習行こうぜ」

僕が一番始めにバスケ部でまともな会話をした青峰君。
第四体育館で出会ってから、彼はこうやって授業終わりにいつも僕を迎えに来る。
それは僕達のささやかな日課。
しかし、今日は赤司君に呼ばれている。断りをいれる他ないようだ。

「あぁ、青峰君。すみません、赤司君に呼ばれているんです。」
「そうか、なら先に行ってる」
「すみません。」

教室から去る後ろ姿が少し元気がないように感じた。
でも、きっと体育館でボールを持って、バッシュを履けば元気が出るだろう。
しかし、この僕の憂鬱な気持ちは大好きなバスケを持ってしてもぬぐい去る事は難しいだろう。

正直、赤司君が苦手だと思う。
割と人間観察に長けてると思う僕が、彼だけはよくわからないからだ。

「赤司君、来ました。」
「どうぞ。早く、部活が始まってしまうから。」
「用って、なんですか。」

パチっと、将棋の駒が盤
に当たる音が部屋に響く。
彼は一人で、こんな部屋で何をしているのだろうか。やはりさっぱりわからない。

「テツヤ、服をぬいでごらん。」
「はい......え?」

ますますこの人が何を考えているのかわからなくなった。
でも彼は冗談を言ってる訳でもなく、僕を見てそう言っている。

「ただ、体の様子がみたいだけだよ。新しい技も教えたし、体に負担がかかってないか、ね。それとも、テツヤは僕に脱がしてもらいたいの?それとも皆の前で脱ぎたい?」
「そういうのなら、桃井さんがよくわかってると思うのですが」
「じゃあ彼女の前で脱ぐ?服の上からの予想って結構無理があると思うんだけどね。」
「..わかりました。」

理にかなってると思い、僕はネクタイを解き、カッターのボタンを外し、体操服を脱いだ。
そうすると赤司君が僕に近寄って来て、見始めた。
なんだか、恥ずかしいと思うのは僕だけだろうか。

「テツヤの体の限界値って結構浅いと思うんだ。だから、出来るだけ限界まで伸ばしたいだろう?」
「そう、ですね。」

肉の薄い体、鍛えても皆のように付かない筋肉、すぐに限界がやってくる胃袋。
僕にだって、彼等のような体にはなりたいが、なれないと思う。
なら、やはり彼の言うように限界まで伸ばしたい。

「んっ、く、くすぐったいです..赤司君..。」
「テツヤって以外と忍耐力ないよね。」
「..結構、自分では忍耐強いと思うのですが。」
「メンタルはね。」
「あ、赤、司君」
「あぁ、悪い。テツヤ、あの技は割と筋力を使うから、ここ、しっかり鍛えるまで連投するのは止そう。」
「..は、い。」

そう言って、赤司君は僕の体から手を離して僕に服を着るように促した。
なんだかんだ言ってもこの人はキャプテンだ、間違った事は言ってはいない。
それが頼もしくあり、時に怖いとも思う。

「そういえば、今日は来るのが遅かったね。図書当番の日じゃないだろう。」
「青峰君が迎えに来てくれたので、少しお話していましたから。」
「そう、大輝が―ね。」
「赤司君?」
「なんでもないよ、そうそう、これから授業終わりは毎日来て欲しい。」
「..はい、わかりました。」
「じゃあ、部活に行こう。僕はここを締めて行くからテツヤは先に行って」」

そう言われ、僕は荷物を持ってこの部屋から出て行った。
あぁ、毎日、ですか。
青峰君にお迎えは良いと言わなければいけないですね。
また、淋しそうにしなければいいのですがと思い、廊下を歩いていれば、別れたはずの彼の姿があった。

「あ、青峰君。まだ居たんですか」
「あぁテツか。赤司の所はいいのか?」
「もう用事も終わったので。青峰君、部活行きましょう」
「そうだな。」
「早く行かないと練習始まってしまいますよ」
「あぁ。それよりテツ」
「なんですか」
「今日もマジバ行くのか?」
「はい。好きですから。」
「俺も行く。」
「珍しいですね。今までお金がないから行かないって散々言ってたのに。」
「今でもねーよ。でもいいだろ。」
「欲しいって言ってもあげませんからね。」

青峰君からの珍しい、お誘いだった。
いつもはお金がねーし、と言いながら去って行った癖にと笑みが溢れる。
淋しそうだった彼の背中は、元気そう、に変わっていた。

青峰君は、今どんな顔をしているのでしょうか。
バスケをしている時みたいに笑っていてくれたら僕も少し、嬉しいです。

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