後悔はない。
退部届けに自分の名前の最期の文字、ヤを書いた。

顧問の先生と言えば、大会が終わった後で引退だけというのに「?」という顔をしたが受理をしてくれた。
そう、ただ卒業アルバムのバスケ部のページに載らないだけ。
今、皆と写真を撮る気にもなれないし、できれば会わないまま終わりにしたい。
逃げるように学校生活を送る僕はきっと、誰の目にも止まらない。これでいいんだ。

その後の季節は流れるようにあっという間に過ぎた。
進路希望の紙には誠凛高校と書いて、僕の一回目の進路調査は難なく終わった。
多分これでいいんだと思う。
鞄を手に取り、賑わう教室を後にする。

「テツヤ。」
「...赤司君....。」

下駄箱に向かう途中の廊下だった。
僕を後ろから呼び止めるのは、キャプテン―赤司君だ。

「テツヤは逃げてるつもりかもしれないけど、僕から逃げられる訳ないよね」
「...別に逃げてるつもりはありません。用がなければ、僕はもう行きます。」
「テツヤが僕に反攻するなんて、どうしたんだい。」
「...もう、関係ありません..。」

逃げようとする手を強引につかみ、僕の行く手を阻む。
僕と然程身長が変わらないはずなのに、彼からくる圧迫感。胸が詰まりそうだ。

「僕は大切な事を聞きにきたんだ。それとも、僕に逆らうのかい?」

そう言って、彼は僕に一歩一歩近づいて僕を壁に追いつめた。
肩に掛かっていた鞄の肩ひもがずり落ちて、鞄の中に入っていたものが乱雑に散らばる。
筆箱、ノート、教科書、読みかけの本、誠凛の入学案内のパンフレット。
誠凛のパンフレットに手を伸ばそうとした瞬間、それは赤司君の足によって阻まれる。

「..やめてください、赤司君。」
「聞かなくてもいいみたいだ、テツヤ、ここは駄目」
「赤司君が決める事ではないです。」

僕の返答が気に食わないらしく、舌打ちひとつして僕を睨んだ。
結局パンフレットが僕の元に帰ってくる事はなく、諦めて他の荷物に手を伸ばす。

「テツヤが一人でやっていける訳ないだろう」
「...そんなの、わかりません。」
「僕がテツヤの才能を見いだしてあげたのに、それを無下にするのかい。」
「それには、感謝しています。」
「テツヤは一人じゃ何もできない、だから僕らと共にあるべきだと思うんだ。大輝でも涼太でも真太郎でも敦でもいい。」

この人は本当に何を考えているのだろうか。
僕の進路なのだから、ほっといて欲しい。とにかくこの状況から脱したい。

「..他のみんなとは、僕はいきません。」
「それじゃあ困るんだ。」
「...意味がわからないです。」
「テツヤがこんな新設校に行って、僕が見いだした才を潰したら僕の勝利の概念に傷が付くんだよ。それに僕が言う事は正しい、それはこれからもずっと。」
「じゃあ、勝手に傷ついて下さい。」

なんで僕がこの人の、赤司君の為にそうしなきゃいけないんでしょうか。
あぁ、そもそもこの人は自分の理念の為なら手段も選ばなそうな人でしたね。

「テツヤ。」
「..」

少し前までは活力の赤い色をしていた瞳の色も、復讐の紅の色に見える。
その目が僕を睨み、見下ろして来る。

「いつからそんなに反抗的になったの?」
「そもそも懐いていたとも思いません。」
「..そこまで言うのなら、いいよ。僕がテツヤを下してコートで絶望に伏さしてあげるよ。全てをへし折ってあげる。」
「..」
「テツヤの可愛い泣き顔が見れるのを楽しみにしておくよ、最もテツヤの才を理解できる人が居れば、の話だと思うけど」

そう言って、赤司君は紙切れ数枚落として僕の元から消えて行った。
その紙切れは洛山高校のパンフレット。
あぁ、これは、とても簡単な話。

「....素直になれない人..ですね。」

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