「いいな、アルヴィン、ジュード、お前らの任務はマクスウェルを殺す事だ。」
「あぁ、わかってるよ。」
「大丈夫です。」

元の世界へ帰る為に、僕達は僕達だけで生きていかなければならなかった。
アルクノア。それが僕らの集団の名前だ。
物心がついた時から僕はそこに居て、アルヴィンも僕の側に居た。
両親が側に居ない僕を、ずっと見守ってくれている存在。
母親の話は聞いた事がない、父親は僕とは別の所に隔離施設で研究をしている。と聞いている。

「..ジュード」
「そんな心配そうにしないで、アルヴィン。大丈夫だよ。」
「った事言ったって、野外任務は初めてだろ?命だけは落とすなよ」
「わかってる。これが終わったら元の世界に戻れるんでしょ?そしたら」

父さんと一緒に居れるし、きっと母さんにも会えると思うんだ。そう思った。
でもアルヴィンの表情は固い。それはきっと僕を心配しているからだとそう思う事にした。

「行くぞ。ちゃんと必要なものは持ったか?」
「うん、大丈夫。」

アルヴィンの後ろを着いていく。
13歳になった僕にアルヴィンがプレゼントしてくれた大切な服を身にまとって出発した。

「ねえ、アルヴィン。マクスウェルってどんな人なの?」
「...知らない方がいいかもしれないけど、ここまで来ちまったからな」
「知らない方がいい?」
「...子供の、女の子だ。」
「女の子..?」
「情が湧くといけないから言わなかった。だけど、あいつのせいで..俺達はこうなった。」
「...わかった..」

アルヴィンは僕の頭を一撫でして前へ進む。
そのアルヴィンに着いていく。

「ジュード止まれ。情報が確かなら、囮がここでマクスウェルを引きつけるはずだ。」
「...わかってるよ、それで隙を見せた時に殺す。そうでしょ。」
「ジュードは俺の後ろで後方支援だ。俺から離れるなよ。」

そう待機地点についたのは拠点からそう遠くない場所。
ただ、山脈に覆われていていたる所に崖がある危険な場所。
アルヴィンから離れてはいけない、そう頭の中で何度も呟く。

「アルヴィン、なんでこんなに後方から」
「正面からじゃ太刀打ちできねえからだよ、四大を操るあいつの前じゃ俺達は塵同然だ」

玉切れだと、後ろでにマガジンを要求しサブバックから取り出し渡す。
アルヴィンは黒匣じゃないから威力がでないと舌打ちをしていた。
その間にも囮部隊は爆炎に飲み込まれていった。
これが戦場なのだと、背中に冷や汗すらかく。

「囮が全滅だ、俺らも下がらないと死ぬな。退去だ。」
「あ、うん。」
「ここからまっすぐ森を抜けるんだ。いいから俺についてくるんだ。」

とアルヴィンは言い、僕の手を引っ張る。
僕も急いで立ち上がり、その後に続こうと早足でその場を立ち去る。

『...何者か、まだ居るようだ。イフリート。』

何者かの遠いつぶやきが風にのって聴こえたような気がした。
それと同時に爆炎が僕らの周りを焼き尽くす。
繋がれた手は離れまいと強く握られるが僕の軽い肉体は爆炎に巻き上げられアルヴィンの手をすり抜け飛ばされていく。
アルヴィンの真っ青な顔が、最後に一瞬見えたような気がした。


「.....つ...痛い、体、が...」
「目が冷めたのか」
「こ、こは、ど..こ?」
「ここはイル・ファンのタリム医学校だよ。君は、バルナウル街道の崖下で倒れていたんだ。それを警備の者が見つけてここに連れて来たんだ。」
「イル・ファン...?バルナウル...?」
「ん?君..、自分の名前は?」
「な、ま..え...?う...ジュー..ド...?」
「ジュード君というのか、他には?何処から来て崖に落ちたんだ?」
「...う..わからな、い。何..も」

何も思い出せなかった。まるで、僕という人間が大きいまま産まれたような感覚。
ただ、漠然と、誰かが僕を「ジュード」と呼んでいた事だけが微かにうっすらと残っていた。
医者は更に質問を続けるが、質問が全て終わる頃には医者は困りきった顔をしていた。

「んー、身元確認できるような物は何もないし...」
「...すみません...」
「イル・ファンには孤児院のような物もない、とすると...」

医者は机の引き出しの奥深くから、入学案内と奨学金の書類を出し始めた。
そういえば、タリム医学校だと聞いたような気がしていた。

「孤児院を求めて違う場所に行き過ぎると記憶が戻らないかもしれないし、怪我をした君をほっとく事もできない。君が勉強ができるならこうした方がいいかもしれない。」
「...勉強...ですか。」

何も思い出せない僕は、医者の出した案に乗ってみる事にした。
僕が何者であったかわからない以上、誰かに助けて貰うしかないのだから。


それから2年の月日が経った。
僕はすっかり学校生活に慣れ、気づけば医学という学問に没頭する毎日を送っていた。
何故かこういう医学書を眺めたりする事が嫌いではなかった。むしろ好きな方だと思った。
2年の間で多くの事を勉強し、ハウス教授という方の助手になる事もできた。
ただ、13歳以前の記憶は戻らないままだった。

「ちょっと、ラフォート研究所へ行って来るよ。午後の患者さんは任せたよ」
「はい。わかりました。」

ハウス教授は午後の診察を僕にまかせて、研究所へ行ってしまった。
しばらくしてハウス教授がハオ賞に選ばれたと吉報が入り僕は追うようにラフォート研究所へ向かった。
その最中だった、精霊によって灯された明かりが全て消え水の上を歩く女性の姿。
その女性を追う事により、僕の人生は急激に変わる事になった。
そしてその急激に変わった人生で僕は、消えた記憶の中の人物に会う事になった。

「....ジュード...」
「..?貴方は、僕を知ってるんですか?」
「おい、変な冗談はやめてくれ。今まで居なかったのは、怪我してて動けなかったからだよな?」
「...?」
「なんでお前がマクスウェルなんかと一緒に...?!」
「すみません、僕、全然貴方の事が思い出せないんです」
「....ジュード....なんで、俺を...忘れるんだ....」
「ごめんなさい...」

僕の前に急に現れて、僕を抱えて船まで飛び、僕の顔を正面から覗くと血相を抱えたように僕の肩に手をのせ一方的に喋り始めた。
でも、僕は彼の事を何一つ覚えていなかった。
「ごめんなさい」そう言うと、彼は淋しそうに、悲しそうな顔を一瞬させた。

「俺は..アルヴィンだ。フリーの傭兵だ。悪い、人違いだったみたいだ。」
「そう、なんですか」

彼は僕の肩から手を離し僕に背を向けてそう言った。
『生きててよかった』彼がそう、消えるように呟いた気がした。
でも、僕は何一つ思い出せない。きっと、今の呟きだって、気のせいだったかもしれない。

2年前の僕は今の僕を見てどう思うだろうか。
きっと、こんな争いに巻き込まれてしまった僕を笑うのだろうか。
それとも...羨むのだろうか

『今がチャンスだ。僕がマクスウェルを殺すんだ』
『僕がミラを守るんだ』

『アルヴィンがずっと僕の側に居てくれて良かったよ』
『アルヴィンの事はもう信じられない』

脳裏で2人の僕が交互になにかを言い合っている、変な感覚がした。
この僕を僕は知らない。
この僕は誰なんだろう。

誰か、教えて。
僕は誰?


『You have to feel our way in the dark.』


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Thanks//確かに恋だった

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