皿が割れる音がした。
あと、男の荒い吐息。それも涙混じりで、怒るような。
僕は、何がいけなかったのだろうか。

「アルヴィンは、なんで、そんなに怒ってるの?」
「わかんねー。」
「じゃあ、お皿割らないでよ。アルヴィン、動いたら怪我するよ。」

彼は僕に依存している。
けれど、僕は彼に愛情とかそういうものはあまりない。と思う。
ただ、アルヴィンの心の暗い部分を覗いてしまったから。
同情とか湧いたんだと思う。
それに漬け込んでアルヴィンは僕に依存する。

「ジュード君がいないと淋しい。ずっと一緒に居たい。」
「でも、僕もアルヴィンも生活があるよね?外に出ないとご飯食べれないよ。」
「そうやって、ジュードは俺から離れるのかよ」

話にならなくて、最近は困っている。
ただ、彼が唯一愛した母親と偶然会い、その母親が死に、泣いている所を慰めただけだった。
初めはふと、母親の事を思い出して僕の所に泣きにくるだけだった。
それがエスカレートして、淋しさを感じると来るようになり。
今では、常に僕の側に居ないとだめらしい。
彼の唯一神、支えともいえる母が亡くなったのだから仕方ない。同情。それだけだったのに。

「アルヴィン、人は僕だけじゃないから、もっと外に出てみたらいいんじゃない。」

そう、軽いつもりで言ってみた。
世界は急激に反転した。
僕は床に倒れ、その上に乗りかかるアルヴィン。

「ジュード君は俺の事が疎ましいか?嫌いか?」
「く、くるし から  しゃ  べ な   いっ」

そう言うと、すぐ手を首から離してくれた。
頬に、額に、水滴が落ちて来た。彼はまた、泣いているのだ。

「俺はジュードの事大好きなのに。好きで好きでたまらないのに。そうやって外とか、他の人とか言って、俺を見捨てようとするのかよ!」
「ち、ちがうんだよ、アルヴィン」
「じゃあ、何だよ、他に好きな奴がいるから俺なんかいらないのかよ!優しくするだけ優しくして捨てるなんてやめろよ!」
「ち..ちがうから、ね..」
「こんなに、こんなに好きなのに。ジュードがいないと生きていけない、ジュードが居ない1秒さえ耐えられない、こんな風にしたのはジュードの癖に今更捨てるなんて許さない。」

僕は、何をしたのだろうか。
同情なんてもつべきではなかった。
そうしたい訳じゃなかった、ただ、少しでも気が楽になればと..思っただけだったのに。

「ジュード、好きだ。ジュードもそうだよな?」

そう言って、彼は僕の服に手を伸ばし快楽を貪った。
どろどろと溶けるような愛撫や、脳内麻痺しそうなねっとりとしたキス。
達しても達してもそれは止まる事がなく、抵抗しようとした手は包まれ舐められた。
行為の最中は耳元でずっと愛してるとか好きとかずっと一緒とかそんな言葉だけ。

「ジュードがいないと、生きていけないんだよ..だから、一緒に居てくれよ...」

全身は疲労困憊で、意識さえも飛びそうな最中に耳元で呟かれた言葉。
首に巻き付いた手を彼は離してくれる訳もないだろう。

あの頃の、君に戻る事なんてもうないんだ。

諦めと同時に、脱力感。
もう、僕は―。


『もう直らない壊れものの話』


「アル、ヴィン...」
「この頃、ジュードがずっと側に居てくれて嬉しい」
「...ん...」
「俺、そろそろもう限界かも...っ、玉切れ」
「やだ、..だめ」
「起たないんだよ。」
「だめ、やだ..ほら、いつもみたいに。ね。」
「...幸せだな」
「...うん、僕も...」

アルヴィンに催促すると、耳元で好きと囁く。
それが麻薬のように脳に染み渡り、アルヴィンの腰に抱きつく。

あれから、随分部屋の外には出ていない気がする。
そうするとアルヴィンが怒るから、泣くから。
その度に限界になるまで性行為を求められ、耳元で好きと呟かれる。
最近ではそれがとても心地よくなって。
求められれば求められる程体も色欲に満ちて、アルヴィンを求める。
それを毎日、毎日繰り返しているうちにお互いが共依存し合ってこれが崩れるのが怖くなった。
時間が更に起てば、これが普通と思えるようになり昔の暮らし方を忘れた。

深い深い闇の中で、快楽を貪り合い呼吸しているだけ。
自分が堕ちたという事に気づいた時には、全てもう、手遅れ。


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Thanks//確かに恋だった

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