アルヴィンが好き。
漠然と頭に思い浮かぶ、この言葉。

「アルヴィン、元気で頑張って。」
「ジュードも、な。」

そう言って手を取り合い、別れた僕たち。
彼には無い、僕にあるこの感情。
彼がその思いに気づく事は永遠になかった。

彼、アルヴィンと結ばれたい。
そう考えていても、同性の僕達が結ばれる事なんかない。
いつもいつも、年老いて死ぬ間際になって考えるのは彼に対しての後悔だけだった。

魂は巡る。
僕が15歳の時に必ず彼と出会う。そして僕は叶わぬ恋をする。
彼と出会うと必然的に、漠然と『アルヴィンが好き』とそう思うのだ。
そして最後は手を取り合って別れ、結ばれる事のないまま生涯を閉じる。
何千年、何万年この魂は輪廻し、彼を思って来たのだろうか。
我ながらこの執念深さにはゾッとする。

でも、アルヴィンが好き。
積み重なった魂が、記憶が、体が、彼を求めて仕方ないのだ。
はやく、はやく、アルヴィンに会いたい。


そんな僕に、またあの季節がやってきたのだ。
彼の事は知らなくても、漠然と思う"彼と出会う"15歳のあの日だ。
今までの輪廻と、ただ一つ違う事があるけれど、"また彼と出会う"漠然とある記憶。
ただ一つ違うのは、僕の性別が女性だという事だ。
今まではただそれだけの理由で踏み切れなかったのだ。
だけど、今度なら。今度なら、と会っても居ない彼に心が踊る。

『軍はお固いねぇ。女と子供相手に大人げないったら。』

彼は、そう僕がピンチの時に決まってそう現れるのだ。
僕が記憶として残しているのは出会った時の事。そして別れる時、手を取り合う事だけ。
過程の記憶が薄いのはきっと何回輪廻しても過程が異なったりする事だろう、と思う。
あの記憶だけ残っているのはきっと彼を覚えてて欲しいから。
そして、手を取り合って別れる未来を変えて欲しいから。

「なあ、ジュード。」
「なに、アルヴィン。」
「たまーに、夢を見るんだけどさ。ジュードと出会う日の事。ジュードに銃を向けてしまった日の事。ジュードと別れる日の事。」
「アルヴィンでも夢、見るんだね。別に銃を向けられたのはもう怒ってないよ。」
「..違うんだよ。夢の中のジュードは..男だった気がするんだ。それにこれはもっと昔から見てる。」
「...男?僕が?」
「っと、悪いな。力強くても"女の子"だもんな。」
「アルヴィンの、夢聞かせてよ。もっと。」

そうエレンピオスの公園でアルヴィンと話す。
彼は夢だと言っていた。だけど、僕は僕と同じように輪廻した"記憶の断片"だと思う。
夢、と思うのはきっと今の僕と今までの僕が違うからなんだと思う。
アルヴィンの夢はとある所からスパイの依頼を請け負う所から始まる。
その過程で僕と出会う。
そしてとある女の指示で僕に銃を向ける。
最後はいつも、僕と手を握り『アルヴィン、元気で頑張って。』で終わるそうだ。
気がついたら涙が出ているらしい。

「アルヴィンはこの後どうするの?」
「商売をしようかなと思ってるんだ、宛が無い訳じゃないからな。」
「そっか。アルヴィンならできるよ。」
「ありがとな、ジュードは研究するんだろ?」
「うん。世界の為に頑張らないと、ね。」
「そっか、頑張れよ。」
「アルヴィン、元気で頑張って。」
「ジュードも、な。」

まだまだ、先の話かと思っていた。
僕は気づけば彼と永遠の別れになる言葉を言っていたのだ。
ここで、彼と別れてしまったら僕の魂はまた後悔に包まれ輪廻するのだろう。
そんなのは嫌だ。嫌だ。
僕は女で、彼は男で、これは普通の感情だから言ってもいいのだ。
同性だから、異常だからと、手を離さなくてもいいのだ。

「ア..アルヴィン、待って」
「どうした?」
「アルヴィンに、言わなきゃいけない事が、あるんだ..」
「あ、その前に、一つ前の話で忘れてた事があるんだよ」
「え?何?」
「さよならって夢の中のジュードと別れて、心の中が凄いもやもやして、深海に落ちていくような感覚で。苦しくて、苦しくて、起きるんだ。」
「え、」

そんなの、僕の"記憶"にはないのだ。
ただ、言えなくて別れてその場を離れる。それが永遠の別れになる。
アルヴィンにそんな事を言っても困るから言えないのだ。
僕は男で、彼も男だったから。異常だ思うからだ。

「...僕は、知らないよ...?」
「でも、俺は夢でなんども見てた。」
「僕は、..最後はいつも、悲しかった。言いたくても言えなかった。」
「俺も、おたくを、ジュードの後ろ姿を見送るしかできなかった。その先が言えなかったんだ。」
『僕とアルヴィンは同性だから!』
『ジュードを一瞬でも殺そうと思ってしまったからだ!』
「...あ」
「...え」

お互いの記憶の最後の言い訳が公園に響く。
言ってしまえば、お互いにとっては下らない言い訳だったと落胆した。

「銃を向けたのは気にしてないって言ったよ」
「同性とかそんなの今さら気にしねーよ」
「...アルヴィンは、そういうの気にするかと思っていたから」
「一瞬でもおたくを殺そうと考えた俺におたくを幸せにできる訳ないと諦めていたんだ」
「くだらないね」
「くだらないな」

きっと、昔の僕達は今の僕達が思う以上に繊細だったのかもしれない。
些細な理由で一歩踏み込めなかったから。
でもきっと、僕が引き止めなかったらきっと僕達の魂はあと何週でも巡ったのだろう。
僕が引き止める事ができたのは僕がいつも最後に思い残す"同性だから"という後ろめたさが無くなったからだろう。

「アルヴィン、僕ね、ずっと、ずっと、ずっと、言いたい事があったんだ。」
「なんだ?」
「アルヴィンが好き。」
「...なんでおたくがそれ言うんだよ」
「ずっと、言いたかったから」
「..俺かっこわるいじゃねーかよ。」
「いいよ、かっこわるくても。好きだから。」
「お前を、一度は殺そうと思ったのにか」
「それはもう許してるよ、ずっと前から」
「ジュード」
「なに?」
「好きだ。」

そう言って、彼は僕を引き寄せ抱きしめた。
僕の思いが、気持ちが、嬉しくて、嬉しくて、涙さえも流れる。

きっと、これはいつまでも踏ん切りがつかない僕を見兼ねた神様が僕に頑張れと、与えてくれたプレゼントなのだろう。

「性別は、変わっても年の差はかわらなかったね」
「まぁ、そうだろうな」
「僕、アルヴィンと同じぐらいの年が良かったな」
「それだと、俺がジュードを守れないだろ?」
「守ってるつもりだったの?」
「これからは、な。」
「ずっと、ね。」
「あぁ」


『いまでもあなたが好きです』


---


Thanks//確かに恋だった

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -