「アルフレドさん今日はよろしくお願いします。」
「本名で呼ぶなよ、今日はあんたの雑誌のホスト特集なんだろ。源氏名で呼んでくれよ。」
「すみません。では、アルヴィンさんいいですか?」

カチッと音がなってICレコーダーが回り出す。
これは果たして名誉なのかよくわからないが、雑誌記者が俺をインタビューに来た。
仕事がないから、と持って産まれた美顔を理由にホストを始めた俺も店のトップだ。

「アルヴィンさんはどんな風に女性を口説かれるんですか?」
「口説かれてみたい?嘘嘘。なーんもねーよ。普通に会話するだけ。」
「ふふ。そうなんですか。アルヴィンさんの私物とか見せて貰えます?」
「悪いけど俺そんなに荷物ないんだよね、タバコとライターぐらい。」
「お財布とか鞄とかないんですか?」
「ないから、出し用がないんだよな。あったらいいと思ってるんだけど。」
「お金とか持ち歩かないんですね。ナンバーワンは違いますね。」
「俺がそんな女になんでも貢がせるように見える?ちゃんとそれぐらい持ってるって」

くしゃくしゃになった高名な思想家の顔が模された札をポケットから出す。
自分のお金の訳なんてもちろんない、女と店先で別れる時に胸元に詰め込まれたのだ。

「じゃあ、女性の方でプレゼントとか持ってくる方とかいないんですか?」
「そんな訳じゃねーけど、もちろんくれたものは大切にするぜ。」

それから会話が繰り返されてカチッと再びなる頃には日はすっかり暮れていた。
記者の女は満足そうにして店を出て行くのを見送り、ニヤリと笑う。

「また嘘ばっかり答えやがって」
「俺は嘘なんかつかねーよ」
「貢がれたもん全部換金する奴が大切にとか言うか?」
「大切にしてんだぜ、何せ金が一番大事だからな」
「あーはいはい。この雑誌でまた金が増えそうで何よりだな」

そう言って俺のインタビューを粗方聞いていた男がカウンター越しに笑う。
金が大事、間違った事なんてなんも言ってない。
ただ女の機嫌をとってれば夢のような大金さえ手に入る。
金、金、金、金が全て。
酒も女もなんでも手にはいる、楽な人生。
俺を美顔に産んでくれて本当にありがとう。


雑誌が世に回って俺の元に更に金が舞い込むようになった。
財布あげる、鞄あげる、時計あげる、車あげる、なんて楽なんだろうか。

「おい、次個室で相手待ってるから」
「個室?VIPか何かか?」
「いーじゃねーかよ、随分チップ詰んでくれてるし。さっさと行け。」

オーナーがニヤニヤと笑って俺を個室へと誘導する。
嫌な予感しかしない、だいたいこういう場合碌な客が居る事がないからだ。
疲労するよりも、下でもっと楽に適当にやって金が手に入ればそれでいいのだ。

「入るぜ」
「はい」
「いらっしゃい。(ほら、やっぱり)」

ドアを開けて待っていたのは、ギリ20歳に見える中性的な顔付きの男だ。
ニヤニヤと笑うオーナーの顔を思い出して苛立ちも募る。
でも仕事だ。相手をしなければならない。
それに男が入っては行けない、そんなルールはないんだから。

「アルヴィンだ。指名ありがとな。」
「僕、ジュードって言うんだ。雑誌でアルヴィン見て、一目見て好きになったんだ」
「そりゃどうも。なんか飲むか?」
「アルヴィンの飲みたいものでいいよ」
「んじゃー、シャンパン開けてもいいか?」
「うん」

個室の為、室内の電話で厨房に連絡しデュック・ド・パリをオーダーする。
これが払えないようならそうそう帰ってもらおう。
疲労と気疲れの対価に合わなすぎる。

「デュック・ド・パリ好きなの?」
「まぁな。おたく、酒飲めるのか?」
「ちゃんと身分証明書提示したよ?だけど新規だし男だから断られそうになったから。詰んでアルヴィンに会いに来たんだよ」

そうジュードという男は、身分証を出して20歳だという事を表現する。
身分証をちらっと見たが、今日が誕生日の日付になっていた。
この男はここで酒が飲める年齢になるまで、待っていたのかもしれない。
さらに身分証に目を凝らすとこの男は医者らしいという事まで把握した。

「何処が好きなんだよ?俺の事」
「うーん、顔?かな。あと記者に対して高慢そうな所も好き。」
「みーんな同じ事言うんだな、でも嬉しいけどな」

会話の切れ目にちょうど来たシャンパンを開け2人のグラスにそっと注ぐ。
ジュードといえば、顔を赤らめてニコリと笑って上機嫌そうだ。
20歳と言えど医者だ。金は随分と持っているに違いない。吐き出すだけ吐き出させよう。

「僕ね、アルヴィンが独り占めできるならどんなにお金詰んでもいいと思ってるんだ」
「それはまた言うなあ」
「本当だよ?いくら詰んだら僕のものになってくれるの?」

酒に酔っている訳でもなく、真面目に男はそう言う。
正直気持ち悪ささえ感じる。
もっと若かった頃は同性で俺よりずっと年が上な人にはよく言われた気がする。
さりげなく太ももをなぞる手が酷く気持ち悪く感じた事もあった。
でも年を増して、高慢な性格を売りにしだした頃にはそんな客はこなくなったが。
バイセクシャル。ありえない。

「俺は全てのお客様の"もの"だからな」
「ありがちな返しはいいよ。じゃあ、いくら詰んだらアルヴィンの夜をくれる?」
「男相手はやったことないからな。それにおたくと俺初対面だろ?」
「でも僕は前からアルヴィンの事が好きだった。だからいいでしょ?」

こいつはお前のケツに俺のを突っ込んでくれと言っている。
スーツの下の俺の手足は鳥肌がたっているに違いない。

「じゃあ、僕、これ飲みたい。」
「おい、これロマネ・コンティだぞ。払えるのか?」
「うん。だから、いいでしょ?アルヴィン」

そして俺はジュードと同伴で店を出て行く事になった。
あの一瞬で『金を吐き出させるだけ吐き出させて捨てよう』と決めてしまったのだ。
初見でロマネ・コンティを買う馬鹿みたいな奴だ、弄んでしまおう。
気持ちの悪さに耐えかねたら捨ててしまえば良い。

「まさか本当に同伴してくれるとは思わなかったよ」
「それを望んでたんじゃないのか?」
「そうだけど、うん、ありがとう。最高の誕生日プレゼントだよ。」
「そうだったな。じゃあ、ついでに。」

と、手の甲にキスを落とした。
キスをした手を握り、目を瞑ったジュードにもうひとつキスを落とした。
そこからはベッドへ雪崩れ込むように抱いた。
溺れてしまうように、『愛してる』と何度も耳元で呟いた。
男同士のやり方なんてよくわからないけど、ジュードが自ら介してくれたお陰で快感を得る事ができた。
そして『愛してる』と呟く度にその穴は俺のモノを締め付けた。

「また、店来るよな?」
「アルヴィンがいるなら、行くよ」

俺の首に抱きつくジュードの耳元で呟けば、頬を紅潮させそう返した。
これだけで金が手にはいるなんて安い物だ。
けれど、気持ち悪いと思う心は有り家に帰って長い事体を洗い続けた。

それからジュードは度々店に来るようになった。
馬鹿みたいに高い個室の料金と高いお酒、なんでも落としてくれる。
そして、毎回俺に貢ぎ物をくれる。
俺が何か欲しいんだよな、と口にすれば次にはそれを用意する。
大切にすると、喜んだように笑えば顔を赤らめて喜ぶ。

「世の中簡単にお金が手に入るようになったもんだな」
「それはお前だけだよ」

と、閉店後の店で呟けばオーナーがまたカウンター越しに笑う。
楽に手に入るが、そろそろ限界かもしれない。
理解できない性癖を押し付けられる程苦しい事はないのだから。

「結構稼いだからもういいかな。男のケツに突っ込むなんて吐き気がする」
「結構いい客なのにな、お前一回客に刺されてしまえばいいのに」
「冗談言うなよ、稼ぎ頭の俺がいなくなったらどうすんだよ」
「お前の貯金で南の島でも買って暮らすさ」
「あんたもつくづく最低だよな」

次の日、仕事に向かう前にジュードのご機嫌をとるために使っていたジュードからの貢ぎ物を売ろうと町へ出る。
鞄ひとつじゃ収まらなくてなかなか大きな荷物になってしまい、取りにこさせれば良かった後悔した。

「あれ、アルヴィン。そんな大荷物でどうしたの?」
「..?!ジュード?!」

こんな姿を一番見られてはいけない人物に会ってしまった。
そういえば、ジュードの勤めている病院に近かった気がする。
でも逆に言えばこいつを捨てるチャンスでもあるのだ。

「僕も片方もってあげ....」
「...」
「これ、全部、僕があげた奴..だよね?どうしたの?」
「あぁ、売りにいこうと思って」
「お金ないの?」
「違うよ。」
「じゃあ..何?」
「そろそろおたくの性癖につきあうのも気持ち悪いし、適当に金稼げたら捨てようと思っただけ」
「アル...ヴィン..?」
「だから、おたくの事なんかこれっぽっちも愛していないんだよ。」
「...嘘、だよね?だってアルヴィン、愛してるって!」
「ホストは嘘言ってお金稼ぐ商売なんだよ。いい社会勉強になっただろ。」
「..嘘だよね。だって、だって大切にするって、愛してるって...」
「俺が見てるのはおたくじゃなくて、おたくの持ってる金なんだよ。」
「....う...そ...だ、よ、ね?」
「嘘なんかじゃね―」
「.......嘘なんかつかないでよ。」

ジュードは俺に抱きついて来た。
抱きついたふりをしていると俺は殺気で気づいた。
頸動脈に掲げられるのはさっきまで彼の胸ポケットに入っていたボールペン。

「それで、おどしのつもりか?」
「ボールペンって意外と凶器になったりするんだよ?人がたまに死んだりもするし、医者の僕がやったら確実にアルヴィンを殺せると思わない?」
「愛してるのに殺すのか?」
「僕のものにならないなら、今までが全部嘘なら、僕を愛してくれないのならもういらない!だったらアルヴィンを殺して綺麗なままに、僕が好きになった被写体のようなアルヴィンを屍姦する」
「ずーいぶん、悪趣味だな。」
「アルヴィン、好き。」

そう言って俺の唇を奪うと共に、俺の両手を塞いでいた大きな鞄は音を立てて地面に落ちた。
俺の何が悪いというんだ、他人を弄んで何が悪いんだ。
金、金、金、その為に全てを利用してなにが悪い。
俺の叫びは、誰へも伝わる事はなかった。

「さあ、アルヴィン、僕のラボについたよ。待たせてごめんね?だけど、本当にアルヴィンの事が大好きなんだよ。僕。」
「だから、おやすみなさい。アルヴィン。」


『この恋がきみを殺すまで』


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Thanks//確かに恋だった

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