「ねえ、ジュード。本当にいいの?」
「うん、いいんだよ。レイア。」
「せっかく綺麗にここまで伸ばしたのに。」
「僕は父さんの病院を継ぐ為にイルファンに勉強に行く。女性差別が酷すぎるって訳じゃないけど、ない訳じゃないし。それに、父さん。ずっと後を継いで家を守る男が欲しかったって言ってた。」
「でも!ジュードがいらない訳じゃなくて、きっと何気なく言っただけだよ?」
「わかってる。だけど、きっとこうした方が楽だから。」
「...わかった。切るよ。」

こんな会話をしたのは僕がル・ロンドを出る数日前の話。
それから時間が随分と経って、ハウス教授の一番弟子になった。
学生証には性別の欄はないし、短く髪を切り男物の服を来た僕を女性と思う人はいなかった。

それから更に時間が経ったあの日ミラと出会って僕を取り巻く環境が変わった。
それ自体はまったく後悔はしていない。
だって僕は―。


「ったく、ワイバーンのせいで不時着して服が汚れちまったな。」
「そうだね、洗わないといけないね。」
「脱げよ。洗って来てやるから。」
「ふ、服くらい自分で洗うから。アルヴィンのも僕が洗って来てあげるよ。」
「そうか、悪いな。」

出会いから更に日が過ぎて、旅でいろんな人に出会った。
でも学校と同じで誰も僕が女だと気づく人はいなかった。
ただ、宿で同室になるアルヴィンの目を盗んで着替えたり入浴する日が続いた。
今だってそうだ。ワイバーンがカラハ・シャールに落ちて、汚れた服をアルヴィンが貸せと言う。
今さら彼の前で脱ぐ事もできないし、別の意味で僕も彼を裏切っていたと思われるのも嫌だった。
だって僕は―アルヴィンが―。
だから、僕はアルヴィンの服を手に部屋をそそくさと出るのだ。

「ジュード!」
「なに、レイア」
「ワイバーン治るの時間かかるし、街案内してよ!」
「いいけど、僕、服汚れてるし。替えの服持ってないから」
「それなら大丈夫!ドロッセルが貸してくれるから!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!僕」
「たまにはいいでしょ!胸、キツいのスッキリするよ?」
「僕、この街で知り合った人が多いから、だから」
「と、思って。ほら、ウィッグ持って来たから。」
「ちょっと、レイア!」
「うん、髪切る前のジュードに戻ったみたい。」

背中ではたはたと揺れる髪の感触が懐かしい。
これならまぁいいかと、レイアから服を受け取り着替えて領主邸を後にした。

「ジュードとこんな風に出かけるのって久しぶりだね」
「そうだね。随分昔を思い出すよ。」
「また、できるよね?だって、女の子同士なんだから」
「...できないと、思う。だって、僕は」
「そんなに暗くならないでよ?ほら、案内して」
「レイア..」

ひらひらと揺れるスカートに入って来る風を久々に感じて不自然ささえ感じる。
渓谷が近いせいか髪が風になびく。ここって、こんなに風が強かったんだ。
僕の前をきょろきょろと視線を動かしながら歩くレイアに苦笑して僕はその後を歩く。

「あ、いけない。私、お財布忘れて来ちゃった!取りに帰って来るから!」
「ちょっと、レイア!お金なら僕がかすか― 行っちゃった。」

独りになり急に不安になる。
もしかしたら知り合いに会うかもしれない。
レイアのお陰で忘れていたけれど、僕は今、女の子の格好をしているのだ。
けれど、急に帰ったらレイアと行き違いになるかもしれない。
ただ、僕は知り合いが来ない事を必死に願うだけだった。

「ねえ、お嬢さん、こんなアクセサリーいらない?今なら紋も入ってるけど安くするよ!」
「いえ、いいです。(商売熱心な押し売りだ...)」
「君みたいなお嬢さんにはよく似合うと思うけどな」
「いらない、です。(どうしよう...)」
「ほら、ちょっと手に取ってみてもいいから。ね?」
「この子は、そんなパチものいらないらしーぜ?」
「んな、パチものだなんて失礼な!」
「ほら、帰んな。」
「...」
「...あ....」

僕の目の前に現れたのはアルヴィンだった。
ただ、いつもの服を洗っている為服が違って雰囲気も違うけどアルヴィンだ。

「危なかったな、もう少しでパチものを強引に押し付けられる所だったぜ?」
「あ...りがとうございます...」
「そんな怯えるなよ。まぁ、ちょっと、今チャラい格好してるけど。」
「...いえ..ありがとうございます」
「感謝してるなら目、見て言って欲しかったけど...―」

アルヴィンが屈んで、俯いた僕の顔を覗いて来る。
途中で途切れる言葉に僕の心臓はドクドクと音を立てる。

「...おたく」
「...っ」
「悪い、そんな嫌がられるとは思ってなかったから。ただ、知人に似ていて。顔は良く似てるけど、髪長くないし、そんなヒラヒラの履くわけないからな。それに―」
「...そう、なんですか(どうしよう、ごまかして、場を離れないと、でもレイアが)」
「そんな顔赤くするなよ、惚れられても困るぜ?」
「...違います..。」
「冗談だって。だけど、本当に良く似てるな。でも、あいつ兄弟とか居ないはずだしな。」
「そう..。」
「俺そいつの事好きなんだけど、どうしても嘘つかないといけなくて。嫌われてるんだけどな。」
「....好き、なんですか。」
「そんな所食いつくなよ。嘘つかなくてもいい所に産まれてたらきっと傷つけずにやれるのに。気持ち悪いとか、..あいつは言わないか。好きだって言える所に時にあいつと出会いたかったな。」
「......ア、・・・」

目の前のアルヴィンは僕を僕だと思わずに切なそうに僕に喋る。
アルヴィンは間違いなく僕の事を"好き"と言ってくれているのだろう。
だけど、僕がここで本当の事を言うのは彼を裏切るんじゃないかと怖くて言えない。

「僕...も、好きな人が...居るんです。」
「そうなのか。」
「でも、その人嘘ばっかり吐くんです。でもその癖寂しがりやなんです。大切な人を守りたくて必死なだけだってもう皆気づいてるのに。馬鹿なんです。でも、そんな人が僕は...好きなんです..。」

だって僕は―アルヴィンが―好きなんだ。

「僕も、どうしても...嘘をつかないといけなかったんだ...ごめんね。アルヴィン。」

ウィッグを外してアルヴィンを見上げる。
そうすれば唖然とした表情をしたアルヴィンが居た。
僕を嫌いになってしまうのだろうか。

「ジュード...?」
「アルヴィン...ごめんね。僕、ずっと隠してたんだ。」
「そう、だったのか。」
「これで、僕の事嫌いになるかもしれない..。だけど、僕は、アルヴィンの事好きなんだ」
「はは、そうか。俺もジュードの事が好きだぜ。だから、そんなにポロポロ涙出さないでくれ。」
「あ、うんっ。だって、ずっと、嘘吐いてたから、なんか。」
「お互い様だろ。...それに、イルファン海停でジュード抱えた時なんか柔らかかったし。」
「...アルヴィン?!」
「そう怒るなよ。後ろで馬車に隠れてるお嬢さんが棍持って殴りに掛かろうとするだろ」
「うん、そうだね。」


『嘘つきシンドローム』

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