「何処か行くのか?」
「ちょっと、研究材料集めに、ね。」
「わざわざア・ジュールにか?」
「行ってくるね。」

世界が一つになって、俺は商売を始めた。
ジュードは代用エネルギー、源霊匣の研究の為に西に東へ北から南へ度々出かける。
鼻に付く、臭いを残して。

「ジュード君?来たよ。それが君に関係あるのかい?」
「...ない、けど。知って良いとは思ってる。」
「君はね、業を背負ってるんだよ。」
「...」

商売のついでに訪れたバランの家では、またひとつ悩みが増えた。
俺が背負っている業、数え切れない程の憎しみの数。
ジュードを幾度となく、裏切り、傷つけた。
弄び泣かす事もあったし、浮気して悲しませる事も沢山した。
だけど、時間が経ってジュードの事だけを見るようになった頃からだ。

「だけど、ジュードは俺のものだ。」
「俺のものって言うけれど、彼も昔はそう思ってて君に傷つけられて来たんじゃないのかい。」
「それは反省してる、だから今はジュードを...」
「アルフレド、それは身勝手と思うけどね。僕は。」

コーヒーを啜りながらバランは言った。
あぁ、身勝手だろう。
でも、今更になってとってもジュードが恋しくてたまらない。

「ジュード君の口の中、紅茶の味がする。」
「アルヴィンの味覚って何時間前までさかのぼれるのかなあ、不思議だね。」
「ローエン..いや、クレインの好きそうな味。」
「そうかな。」

帰って来たジュードにキスをせがみ舌を入れれば微かに残る紅茶の香。
ローエンが、ドロッセルが、否。クレインが好みそうな香。
今日はア・ジュールじゃなかったっけ。
昨日はあんなに鼻につく臭いを纏っていた癖に。
カンバルクの王宮の奥から匂って来る香の臭い。
この臭いの元がガイアスなのかウィンガルなのかわからないが、どっちもだろう。

「俺、この味嫌い。」
「僕は好きだよ。」
「あとこの前の悪趣味なお香も嫌いだ。」
「いいでしょ。たまには。」

首を傾げて斜めに見下ろすジュードが可愛いとは思わず、憎たらしく見える。
唇に肌に、こんなにも俺の臭いが残ってなくて嫌気がさす。

「ジュード君、いつからそんなに可愛くなくなっちゃったの?」
「仕返し―かな。あと、アルヴィンみたいに来るものを拒まなかったらこうなっちゃったんだよ。」
「俺みたい、ね。売春婦みたいに股ばっかり開きやがって。」
「だってアルヴィンもそうだったでしょ。だからきっと、アルヴィンもそうされたいのかと思ってた。」
「寝取られても嬉しくねーよ。」

小さい頭を掌で掴んで指の間にジュードのふわりとした髪が揺れる。
ジュードの顔は相変わらずしかめっ面で可愛さのかけらもない。

「俺はおたくの事が好きだから、やめて欲しいんだけど。」
「身勝手な話だよね。旅の間は女とセックスできないからって僕を誘って、押し倒して。で、街に行けばキツい香水付けて帰って来て。で、今、僕が好き?」
「...否定はしない。」
「僕も多分アルヴィンの事好きだと思うよ。多分。」
「多分って。」

俺の手をはらって、コートを脱ぎベッドに座るジュード。
肌着になったジュードから香る、クレインの香り。
あぁ、好きじゃない。この臭いは。

「..俺は、ジュードを手放す気はないからな。」
「..知ってる。」
「知ってるなら、そのクレインの臭いのする服脱いでからベッドに入ってくれよ」
「本当アルヴィンって鋭いよね。まぁ、鼻が溶けそうなぐらいキツい臭いを纏って僕の布団に入って来るアルヴィンよりはマシだよ。」
「...そう、だよな。」

今更考えると本当に酷い事をしたとは思っている。
でも"多分"でもジュードは俺の事が好きだという、じゃあなんでこんなにも可愛らしくないんだ。
何がしたいのかさっぱりわからない、昔は悲しんだり怒ったり手に取るようにわかったのに。

「僕、明日の朝も早いから、寝るね。」
「おい、明日はどこに行くんだ?」
「どこだろうね。アルヴィン。」

検討もつかないのがまた悲しいと思えた。
ベッドに踏み入れて寝ているジュードの上に四つん這いになってジュードの顔を持ち上げれば自然と目線が合う。
ジュードの頬に水滴がポタリと落ちて自分が想像以上の悲しんでいる事を知る。

「アルヴィンに、泣く権利なんてないよ。」
「ああ..」
「アルヴィンの涙が枯渇するまで泣いたら戻って来てあげるよ。」

全ては、俺の業。
その全てが俺に戻るまで、脱出する事の許されないジュードの作った檻。


『愛しているのに愛してくれない』

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -