例えば、誕生日に年の数だけの薔薇の花束を渡したり
例えば、綺麗な夜の海で水面に映る星を二人で眺めたり
例えば、初めての記念日にお揃いの物をプレゼントしたり

「そんなの、アルフレドには一生無縁だね。」
「酷いなバラン。」
「少なくとも君の過去から考察した結果に基づいた事を言っただけだと思うんだ」
「建前っつーもんがあるだろ」
「君に言う建前なんてこの世に存在するのかな」

目の前で紅茶を啜るバランは厳しくそう言った。
御縁のある公家の人間が出る公演だ、行きなさいと手渡されたチケット。
しぶしぶ従兄にあたるバランと見に行けば、俺からすれば身の毛もよだつ純愛ストーリー。
無縁すぎて立席してずらかろうと思えばバランに叱責され結局最期まで見てしまった。

「まずアルフレドは薔薇の花なんて買いに花屋に行かないし、何より似合わない」
「うるせーよ」
「そして夜の海に招けば、暗殺でもされるのかと怯えられる」
「しねーよ」
「二人で同じ物を付けるという神秘的ロマンにちっとも心焦がれない。まったく可哀想だ。」
「...」
「まぁ、そんなに機嫌悪くしないでくれよ。」

人の事をこれだけボロカスに言っておいて機嫌を悪くしないなんて無理だ。
むしろせっかくのオフをある意味接待に使われたようで父親に憤慨すら覚える。
そんな姿に何が面白いのかバランはククっと笑っている。
まったくもって不愉快だ。

「でもね、従兄の僕からすればアルフレドにも一度ぐらいそんな恋が訪れればいいなと思うよ」
「余計なお世話だ。」
「そんな事ばかり言ってるから、性欲ばかり持て余した清楚の欠片も無い女に捕まるんだよ」
「研究ばかりでまともに恋ひとつしないお前に言われる筋合いはない」

バランの言葉を頭の中で回想する、バランの言う事はあながち間違ってはいない。
仕事で忙しい俺に少し構ってもらえないだけですぐ他の男に股を開く、そんな女ばかりだった。
そんな女には愛しいとは思えない、それにそんな女の為に身の毛もよだつ行為をするのはなんだか癪だ。

「研究ばかり、と言えば..最近僕の研究所に委任して来た女の子を思い出すな」
「バランが居るような趣味の悪い研究所に来る奴もいるんだな」
「君はもっと僕の研究が世の中にどう役立ってるか知るべきだと思うよ」
「それは悪かったな」
「たしかアルフレドと11歳違いくらいだったかな、勉強が好きみたいで、よく働く良い子だよ。」
「お前の口からそんな言葉が出る日が来るとは思わなかったよ」
「失礼だな、僕は思った事しか口に出さないのに」

俺はコーヒーを啜りながら、バランの毒舌に対抗していた。
いとも簡単にそんな事を言うバランが褒めているのだ、それなりに良い子なのだろう。
と、思うと同時にこいつの元で働くなんてと同情すらも覚える。

「あ、バランさん!」
「おや、ジュード君じゃないか」
「バランさんもこの公演を見に来てたんですか」
「そうだよ、従兄がどうしても見たいから着いて来てくれと煩くてね」
「おい」
「貴方はバランさんの従兄の..よくお話を聞いてますよ。ジュード・マティスと言います」
「俺は」
「アルフレドさん、でしたっけ?」
「お前は本当におしゃべりだな」
「いいだろ、..ジュード君もこの公演を見に来たのかい」
「はい、そうです。まさかこんな所で合うなんて思ってもいなかったです」
「はは、酷い言い草だね。..おや、すまない。電話がかかってきたみたいだ。」

そう言うとバランはそそくさと席を離れた。
俺はというと、バランの知り合いのジュードという女の子と二人きり。
なんとなくバランが嘘を言って立席したと思い、複雑な思いになる。
たしかに、バランが言う通りよい子なのだろう。
俺なんかとはまったく合わないような、清楚で綺麗な女の子。

「アルフレドさんの話よく聞くんです、黄色いクローバーのお話とか」
「本当にバランは余計な事ばかりべらべらと喋るんだな」
「でも、アルフレドさんのお話をするバランさんはとても楽しそうですよ」
「そうか。」
「アルフレドさんはこの公演どうでした?」
「良かったと、思うけどな」
「そうですよね!」

そう言う、この女の子の顔はとても嬉しそうだ。
とてもじゃないけれど"身の毛もよだつ話"なんて言ってはいけないような気がした。
もし、俺がこの子と出会って一番始めに好きになったとしたのならば俺の恋愛観は180度変わっていただろう。
少なくともこの子と同じ価値観でこの公演を楽しむ事ができただろう。

「僕も、ああいう事されてみたいです。年の数だけの花を頂いたり、夜の海を二人で眺めたり、お揃いの物を付けてみたり...あ、すみません。アルフレドさんに言っても困りますよね」
「..」
「すみません、なんか初対面なのに」

この子が、願望を言う姿がなんだかとても綺麗に見えて戸惑ってしまった。
できれば、かなえてあげたい
...!?俺は何を言ってるんだろうか、この子も"初対面"だと言っているのに

「アルフレドさん..?すみません、僕ー」
「違うんだ、悪い。ただ、綺麗だとおも」
「ただいま〜、すまない。またせ...?どうしたんだい二人とも」
「!!バランさん、僕、この後用事があるので、失礼します!」
「アルフレドー」
「...なんでもねぇよ」

思わず口から滑り得た言葉が彼女の真っ白で綺麗な顔をピンク色に染めてしまった。
それがまた かわいいと思って......?!

「アルフレド、今の顔は小学生の男子がするような顔をしているよ」
「..ほっといてくれ」
「あの子はとても良い子だよ、君が欲しいものを全て与えてくれる子だと思うよ」

まるでからかうように言われ、わき上がる恥ずかしさをコーヒーを啜って押し堪える。
ああ、なんて、遅い、恋煩い

「...バラン」
「なんだい、アルフレド」
「あの子はいくつだ?」
「15歳だよ」
「誕生日はいつだ」
「僕の研究所に居るんだから、君が訪ねて聞けばいいだろ」
「花屋はどこにあるんだ」
「トリグラフの商業区にあるよ」
「海ってどこにあるんだ」
「海峡に行けばいいだろう」
「お揃いの物ってどうすればいいんだ」
「はぁ、"恋は盲目"なんて言葉を考えた人は本当に素晴らしいと思うよ」


『26歳の恋煩い』

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