レティシャさんとディラックとの間にアルヴィンが産まれた話。
レティシャさんは旅客機事故でジュードが産まれる前に亡くなっている。
その少し後にディラックとエリンが出会ってジュードが生まれ、10年過ぎた話。



僕には年が11離れたお兄ちゃんが居ます。
そのお兄ちゃんと僕との関係は複雑で、お兄ちゃんだけどお兄ちゃんじゃない。
そんな気もしていた。

お兄ちゃんの部屋を少し覗けば、淋しそうに写真立てを眺めていた。
きっとそれはお兄ちゃんの母さんで、でもそれは僕の母さんじゃなくて。
お兄ちゃんの母さんは僕が産まれる数年前に不慮の旅客機事故で居なくなってしまったそうだ。
それで父さんが僕の母さんと出会って僕が産まれて...。

「さみしいのかなあ」

僕はまだ10歳で子供で、でもお兄ちゃんは21歳。
その開きすぎた年の差とお兄ちゃんの深い悲しみで僕らの溝埋まる事はなかった。

「誰だ?」
「ご、ごめんなさい。ジュードです。」
「...何か用があったんじゃないのか?」
「ごめんなさい...」
「もう夜遅いから、寝とけよ。」
「はい...」

パタンと写真立てを伏せて、横目で僕を見るお兄ちゃん。
その目が僕を叱責する父さんに似ていて、震える体は一歩一歩後ろに下がって行く。
そして静かにドアを締め自室に籠った。

「もっと、お話したいな。父さんと、母さん、今日も忙しかった。」
「...」
「お兄ちゃんとお話したいな...。」


『寂しがりやのHONEY KISS』


それから少し経って、僕に異変が起こった。
最初は夜中にふと目覚めるようになった。
その次は息苦しさを感じ、目覚めるようになった。
最近は体に降り掛かる重力に痛みを感じ、目覚めるようになった。

「ん、、く、、、いた、、」

そしてまた今夜も僕は目覚めた。
体の痛み、不調で目覚めるなんて事は幼い自分には無縁の事だと思っていた。
寝付きがそこまで良くなかったからかもしれないと、考えたけれど、ここ数ヶ月の僕の寝付きは母さんが驚く程良いみたいだ。
母さんが本を持って僕を寝かせようと来るのだけれど、母さんを待たずに寝てしまうようになっていた。

「........?」

目を開ければ闇で、僕の髪を揺らす風が通る程度。...?
締めたはずのドアが空いている事に僕は気づいた。
母さんが締め忘れたのだろうか。
ドアを締めに出口に向かえば、隣の部屋から...お兄ちゃんの部屋は明かりがまだ点いていた。

「おにいちゃん?」

と、疑問を頭に浮かべたが口には出さずに部屋に戻る。
そして目を瞑れば今度は朝までの深い眠りについた。


そして朝、目を覚まし学校へ登校する。
隣の席でもあり、幼なじみのレイアが僕に近づいて喋り出す。

「ねえ、ジュード!今日版ご飯食べに来てよ!私の誕生日だからお父さんが料理沢山作ってくれるの!」
「わかったよ、レイア。」
「約束だからね!」
「うん。」

僕はその日の授業を受け、レイアと共にレイアの家に行ってご飯をごちそうになり家路に付く事にした。
父さんと母さんには連絡していないけれど2人共仕事で忙しいはずだ。
ただ、問題なのは母さんが僕の為に用意した夜ご飯の事だ。
明日の朝食べれば良いか、と考え家のドアを静かに開けた。
そして台所に入り手を付けていない料理を包み涼しい場所へ保管した。

「怒られるかな...」

そう頭の片隅で思いながら、自室への階段を昇る。
お兄ちゃんは既に帰宅しているようで部屋の明かりが少し漏れていた。
それを尻目に見て僕は部屋に入った。

「まだ、眠くないな...」
「...ド、ジュード。もう寝たの?ジュード」
「...」

それからしばらく経って母さんが僕の部屋をノックして、そう呼んだ。
僕はどうにも返事する気はなく、母さんが「寝たのね」とドアの前から去るのを待った。
一息吐き、すっと目を閉じるもまだ眠くはない。
僅かに点いている豆球を見つめ、眠れるのを待つだけ。

""

それから数分経った頃、ドアノブを廻す音と共に光が若干差し込んだ。
母さんだろうと思い、ぎゅっと目を瞑り、引き返すのを待つとドアは閉まった。
しかし僕の顔に影が降り掛かる異様な気配。それでも僕は目を開けなかった。

"...!!"

その影は僕にキスをした。
キスをした影は僕の頬をなぞり、前髪を指先で遊ぶと静かに部屋から去って行った。
帰り際に残した影の香りはたしか、あの人の、お兄ちゃんの、香水の臭い。
頭の中は混乱して、布団の中で足をじたばたとさせた。
そしていつしか眠りの中に入った。

「あれ、母さん。」
「あぁ、ジュード..?」
「どうしたの?母さん、体悪いの?」
「ちょっと眠くてね、それより今日はご飯準備できそうにないから自分で買える?」
「うん。」

次の日、母さんはソファの上で横になっていた。
酷く眠そうでウトウトとしている。
夕ご飯の準備ができそうにないからとお金を貰ったけれど、昨日食べなかったものがあると言おうと思った。
だが、僕が昨日包んだご飯は母さんが食べたようで机の上に移動してすっかり空になっていた。

「いってきます。」

母さんの静かな寝息が聴こえる部屋を後にして学校へ向かう。
授業を受けるがどこか上の空で、昨日自分に起った事ばかりが頭の中を右往左往する。
今日もまたお兄ちゃんは僕の部屋に来るのだろうか。
そして、僕の顔を大事そうに包んでキスをするのだろうか。

その後、僕はいつも通り淡々と授業を受け夕ご飯を買って帰宅する。
お兄ちゃんの部屋の明かりはまだ点いていなかった。
ご飯を食べ、学校の課題をして、寝る前に少し本を読んでベッドに入る。
昨日お兄ちゃんが来た時間まであと少し。

"~"

ドアが少しづつ開き、パタン、パタンと足音が僕の方に近寄って来る。
足音と共に僕の心臓がドキドキと音をたてる。
入って来た主は僕の顔を優しく撫でるとそっとキスをした。
あまり近くで直視した事がないお兄ちゃんの顔が見たくて、そっと目を開ける。

「おに...いちゃん」
「!!」
「おに、いちゃんだよね?」
「ジュード...気づいていたのか」
「昨日から、かな」
「...ごめんな、もうしないから、忘れてくれ。」

そう言って、お兄ちゃんは僕から離れて行こうとした。
その目と背中が淋しそうで、お兄ちゃんの服の長い裾を掴んだら振り返った。

「おに、いちゃん」
「....どうした?」
「母さんが、いつも寝る前に頬にしてくれるけど。唇は大切な人の為に取っておかなきゃいけないって」
「...ジュード、悪い。」
「でも、僕、お兄ちゃん好き。大切だから、いいよ。」
「いや、多分エリンさんは...」
「ね、ほら、いいでしょ?」
「じゃあ目、瞑れ」
「それじゃあ、お兄ちゃんが見えない。」
「こんな間近で見てどうするんだよ..」
「だって、お兄ちゃんとこんなに近くに居た事なかったから」
「それでも、閉じような」
「じゃあ、約束して?ずっと、僕の側に居るって!」
「..わかったよ、だから。な。」
「うん。」

そしてお兄ちゃんはまた僕の唇にそっとキスをした。
ベッドがギシリと音を立てて、僕の体に体重がのしかかる。
キスが終われば、また僕の顔を撫でて"おやすみ"と言って僕の部屋から出て行った。
僕もその後を静かに付いて行ってみれば、お兄ちゃんはまた写真立てを見ていた。

「お兄ちゃん、淋しいの?」
「...まあな。」
「僕もね、父さんと母さんずっと居なくて淋しい。」
「そっか、そうだよな。」
「だから、今日からお兄ちゃんと寝る。」
「...!」
「僕もお兄ちゃんも淋しくて、僕もお兄ちゃん好きだからいいよね?」

その僕の問いに、お兄ちゃんは困ったように笑った。


寂しがりやのアルヴィンとジュード。
年が離れすぎてて、親も違うしでなかなか歩み寄れない2人。
偶然アルヴィンがジュードの寝顔を見て可愛いと思い、思わずキスをしてしまった。
それからジュードに対する思いが我慢できなくなったアルヴィン。
キスをした時、ジュードが少し起きそうにしてて気づかれたらやばいと思い食事に睡眠作用のあるハーブを混入。
レイアの誕生日会に行ったジュード君はエリンのご飯を食べず就寝、気づかれてしまう。
そしてそのジュードが食べなかったハーブ入りのご飯をエリンが誤って食べた為に睡眠。
次の日、今日ぐらいは大丈夫だろうと思い日課のキスをしにいったら気づかれちゃったアルヴィン。
2人共歩み寄るきっかけがようやく出来たアルヴィンとジュードの話。

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