「寒い...し、痛い...なんで、こんな所で雪崩が...僕、もう...死ぬの..かな......た..け..て、ア.......」

目覚めたこの部屋はとても広い部屋。
キングサイズのベットと机があるぐらい、それと妙に豪華な装飾の付いた部屋。
ベッドから起きてただ一つあるドアに向かえばそのドアは開いていた。
裸足でペタペタと開かれた長い廊下を歩くも一向に人の居る気配は薄い。

「どこ...ここ、どこ」
「...どこ、どこ、こわい、ひとり、いや」
「ぼく、どこ、だれ、ここ、なに」

空っぽの頭。
広さが逆に圧迫感を与える敷居の高い廊下。
決まった寸法毎に置かれたドア、無限の迷路に迷い込んだ間隔に陥った。

「...!ジュード!」
「...」
「おい、聞いているのか。...!何故、泣いている」
「...?」
「何故、そんな顔をする。体調はもう大丈夫なのか」
「貴方、誰?僕は誰?ここは何処?僕、怖い..嫌..」
「ジュード...?」

そのまま僕に問いかけて来た背丈の高い男に泣きついてしまった。
背丈の高い男は呆れたように笑い、僕の体をすっと抱きしめると僕を担いで部屋へ連れて行った。

「きおくそうしつ?」
「...医者を呼んで来るから少し待っていろ」
「何処..行くの?僕、一人、嫌..。」
「...」

男は困ったような表情を浮かべ、「すぐ戻って来る」と部屋を出て行った。
淋しさを堪えて少し待つと背丈の男と白衣の男が僕の部屋に入って来た。
白衣の男は僕の体調を調べつつ、僕にいろいろな質問をしてくる。
僕はどうやら記憶喪失、らしい。

「それでは、私はこれで。突発的に戻る事も多くあります、大丈夫です。」
「...ありがとうございます」
「メンタルが少し弱ってはいるけれど日常生活は普通に遅れます。」
「手間をかけた。もう行ってくれてかまわん。」
「は、陛下。」

白衣の男が出て行くと背丈の高い男は僕の正面に座った。
心配そうに僕を見つめ、僕も彼を見つめると彼は目線を反らした。

「お前の名前はジュード、だ。」
「ジュード..?」
「俺の、恋人だ。」
「...?!貴方は女性なのですか?」
「違う。」
「でも普通は男と女の人が一緒になるのですよね?」
「ジュード、この国は男と男でも結婚する事ができる。」
「そう、なんですか。なんか僕と貴方はとても不釣合いだね。」
「そんな事はない。俺が好きなのは昔からも、これからもお前だけだ。...こんな事を言う日が来るとは思わなかったが」
「...どういう事?」
「...すまない、最期の事は忘れてくれ。」
「はい」
「今日はゆっくり休む事だ。職務が終わればすぐ来る。」
「..!待って」
「..なんだ?」
「貴方は、誰?」
「俺はガイアスだ。お前が居るこの部屋の、この領土の、この国の王だ。」
「...!」

そう言ってガイアスは部屋から去っていた。
去り際の彼の顔が不自然に笑っていた事を僕は永久に知る事はないのだろう。


『永遠の眠り姫』


「おい、久しぶりじゃないか」
「あぁ、お前か。どうしたんだ、こんな所で珍しい。」
「仕事をクビになったからこっちで新しい職を見つけたんだ。」
「お前ってカンバルク城で働いていなかったか?」
「あぁ、そうだよ。全員だよ、四象刃以外な。」
「そんな事があったのか。...俺がこっちに居る間に..」
「あと、同性婚を認める法令を定めたり、いろいろだよ」
「...そうなのか。」
「まあ、こっちもいろいろあった訳だよ。」

一つの大きな仕事を成し遂げて、決まった酒場で酒で喉を潤した。
明日は久々にイルファンに戻って、あいつの、ジュードの顔がようやく見れる。
そんな浮ついた事ばかりを頭の中が締めていた。
ポケットの中に入っているぐしゃぐしゃの札で勘定し古い知人に別れを告げて店を出る。

「暢気なものね」
「...プレザか。」
「酒臭いわね、...仕事は順調そうでよかったわね」
「あぁ、そうだな。」
「それより、貴方の恋人元気かしら?」
「ジュードか?ジュードなら今頃トウライ冷原で調査してるんじゃないのか」
「ふうん、そうなの。」
「...なんだよ」
「なんでもないわよ」

それじゃあね、とプレザは俺の前から去って行った。
その背中が不自然だと感じたのはそれからもっともっと先の話。

「ジュード、いるか」

その翌日、俺はイルファンに戻りジュードの自室を訪ねた。
が、ジュードの自室は数週間前にジュードが調査へ旅立ったまま何も変わってはいなかった。
昨日のプレザとの会話で少しの不安を覚えシルフモドキを送ったがそれも帰ってはこない。

「...ジュード...?」

ジュードは、何処へ消えてしまったのだろうか。



"!!"

僕の部屋の唯一のガラス窓を叩く白い小さな鳥。
僕は捕まえようとその鳥を手に取った瞬間、ガイアスがその鳥の首を掴み部屋の外へ投げ捨てた。
鳥は地面へ落ちてそのまま動こうとはしなかった。

「ガイアス、なんで殺すの..?」
「...不吉だからだ。」
「何?どういう事」
「お前が知る必要はない。」

そう言ってガイアスは愛おしそうに僕の体に触れる。
僕はこの城に来てから長い時間をこの部屋で過ごしている。
城の外へ出る事は許されてない変わりに城の中であれば何処でも自由に行ける。

「ねえ、ガイアス」
「なんで僕は外へはいってはいけないの?」
「お前はこの街の外のトウライ冷原で事故に合って怪我をし記憶まで失った。命まで失って貰っては困る」
「そう、なんだ。でも、僕...何も思い出せないんです。」
「何も思い出さなくてもいい。ここにいれば"危険なもの"は来ない」
「もの...?」

ガイアスは意味深な事を言い、公務があるからと部屋を出て行った。
すっかり退屈になってしまった僕は図書室へ行こうと部屋を出る事にした。

「今日は何を読もうかな」

そう呟いた瞬間、ドアが僅かに開いた。
ドアを開けた当人はとても拙そうな顔をしたのち何かを決めたように部屋に入って来た。

「貴方は..?」
「...本当に何も覚えていないのね。」
「はい。」
「...狡い人ね。」
「どういう事ですか?」
「なんでもないわ。何も思い出さなかったようで安心したわ。ここで貴方が思い出したのなら私は罪人ね。」
「...さっきから言ってる意味がわからないよ」
「わからなくていいのよ。もう何も知る必要ないじゃない。」

そうして彼女は部屋にある魔導書を何冊か持つと部屋から出て行ってしまった。
僕は彼女を知らない。多分、正確に言えば覚えていないんだ。
何故こんな僕が王の恋人で、城に暮らしてるかはまったく覚えていない。
僕も数冊本を持ち出して自室に戻る事にした。

「ジュード、今日は何を読んでいるんだ」
「今日は自伝を読む事にしました。二・アケリアの人が書いた精霊マクスウェルの話です。」
「...そうか。きっと、読んでも面白くないと思うが」
「...この本を見て、少し読んだ時。ほんの少し懐かしく感じたんです。」
「精霊学はどこの学校でも習うからではないのか」
「...そうかもしれません。」

ガイアスは不満そうに、僕から書籍を取り上げてキングサイズのベッドに僕を押し倒した。
僕達は恋人同士なのだから、以前もそういう事をしていたのだろう。
証拠に、行為をしても痛みはさほど感じない。だからそうなのだろう。

「ガ..イアス..」
「ジュード..」

前戯を済ませ下半身にガイアス自身が出入りを繰り返す。
一昨日は先の部分を入れて痛みが生じて泣きそうにもなったが今はもう痛みは感じない。
ただ、あと、もう少し...

「ガ...イアス....!も、と、奥...奥がいいっ」
「...!奥か」
「もっ、と、!!」
「ここか!」
「そ、こがいいっ!!!ひゃっ、あ、突いて...っぁ」
「...ッ」
「ひゃぁっ、そこ、いい、、、ア――――!!」
「?!」
「あぁっ、なんで、激し...あぁっ!!」

僕の中にどろりとガイアスの精液が流れ込んだ。
ガイアスは途中、怒ったように僕の腰を突き上げて来た。
何故怒ったのか、そして今でもまだ怒っているようで顔つきが怖い。

「ガ..イ、ア...ス...?」
「お前はさっき、なんて言った」
「僕..?覚えてない...です。」
「...ならいい。俺はまた公務に戻る。後始末はこれで大丈夫か」
「大丈夫、です。」

ガイアスが出て行った部屋で僕は残りの後始末を一人でした。
その後また本を読み老けていたが退屈になりまた図書室に行こうと部屋を出たら謁見室で騒ぎが聴こえた。
少し気になり、近くまで行ってみると背の高い茶色のコートを纏った男が守衛と揉めていた。

"街医者に聞いたらジュードは倒れてここに運ばれたって聞いたんだ、面会したいだけだ!"
"陛下から貴方の面会は禁止されているんだ。お引き取り願おう。"
"ジュードは、ジュードは生きているのか?!"
"...生きているが、貴方と合わす事はできない。"
"どうして....ジュードはここに居るんだろう"

僕は一歩一歩その男に近づいた。
その男は僕の姿を見ると走ってこちらに向かって来た、けれど僕と男の間にすかさずガイアスが入った。

「どういう事だ、ガイアス」
「ジュードは俺の妻になった。お前とは関係もない他人のはずだ。」
「おい、ジュード。どういう..」
「ガイアス...この人は誰ですか?」
「ジュ...ド...?」
「あぁ、この男はアルフレド・ヴィント・スヴェント..裏切り者の傭兵だ。」
「...」
「ジュード、嘘、だよな?お前はミラとじーさんと、姫様と、レイアと俺とで旅をして...世界を一つにして...」
「ジュードが困惑してるからやめてくれないか。」
「僕も、貴方を...知りません。だから、帰ってくれませんか?ガイアスも困ってます。」
「.......ジュード.....」

ガイアスが僕の背中を押して部屋に戻ろうと催促した。
僕も押されてそのまま歩き出した。
男はいつまでも僕の背中を見ていたが、僕の記憶は戻る事はなかった。

「ガイアス、本当に僕とあの人は知り合いじゃないですよね」
「どうした、自分で言っておきながら」
「あの人の最期の目がガイアスととってもよく似ていたから....」
「...そうかもしれんな。」

そうして、僕は思い出に蓋をした。
でも、どこか、何かを忘れているような気がする。
窓から見える、空に浮かぶ遠い大地の空飛ぶ船を見てそう思った。

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