今日恋人からある重大発表がされた。


「…え?」
「二度は言わないよ。本当は誰にも言っちゃいけないんだから」
「ごめん、ほんとにごめん。もう一回言ってくんね?」
「次はないからね」
「うん」


彼女はゴホンと咳払いをして一呼吸。眼差しは、真剣。

「わたし、神様なの。」

目の前にある瞳は両目とも奥の方にゆらゆらと広い海を持っていて、なるほど確かに彼女は神様かもしれない。


「そっか…うん…まあ、なんていうか、教えてくれてありがと。」

 どういたしましてと笑ったその顔は俺が惚れた時のものと変わらなかった。彼女は一体いつ神様になったというんだろう。俺と出会うずっと前から?生まれたときから?それとももしかして昨日?

「じゃあお前神様なら俺の運命教えろよい。寿命、とかさ。」
「知りたいの?」

半ばからかいだったがやたら彼女が真面目な顔をするから俺の顔までひきつった。


「…明日とかじゃないよな?」
「……。」
「え、なんで黙んの?」
「…」
「嘘だろ…」
「寿命なんて知らないよ。私は死神じゃないんだから。」

え。なんだよ。


 最初はこいつ大丈夫かとか思ってたけど自分でも驚くぐらい俺はこのネタに食いついていた。何かある度俺は彼女に神様なんだからやってくれよと頼んだ。

「天気いいなあ」
「ほんと。」
「こんな日には空飛びたいよな」
「?」
「神様なんだから、飛べるだろい?」

彼女はため息をついて俺の腕を引っ張る。馬鹿なこと言ってないで、早く家に帰ろうの合図。

「神様は魔法使いじゃないんだよ。空なんか飛べない」
「そっか。」

俺はごめんの代わりに引っ張る腕を組み換えて恋人繋ぎで歩いた。


「雨止まねえなあ…」
「ずっと窓見てもなにも変わらないよ。」
「試合中止とか、最悪だろ」
「ブン太頑張ってたもんね」
「…おし!お前神様なんだから今すぐ晴れにしてくれ!!」
「それは駄目だよ。」
「なんで」
「太陽と雲と空がたくさん話し合って決めた天気を私たちの都合で勝手に変えちゃいけないよ。」
「…つまんねーの」

妙に正論言われた気がしてなんだか恥ずかしくなった。彼女は俺の肩に手をかけて微笑む。

「いいじゃない。代わりにこうして二人っきりで過ごせるんだから」

彼女は神様だった。神様の前で人間なんてただの子供だ。俺は彼女に勝てたことがない。


「神様なのに人間に恋していいの?」
「だめなの?」
「俺だけが幸せになるよ」
「みんな幸せに暮らしてる」
「そっか、じゃあ大丈夫だ」
「うん」


雨がザアザア降るなか俺と彼女は身体を重ねた。



「今日は、晴れたな」
「バランスを保っているから。」
「じゃあ明日は雨?」
「それは明日にならないと」
「んー」
「あのね、ブン太」
「ん?」
「そろそろ、死のうと思うの」
「は?」
「眠りたい。」
「寝ればいいじゃんか」
「でもね、そうするともうブン太とは会えないの」
「…」
「さよならをしなくちゃ」
「…神様は、死なねえだろうが」
「…?そんなの誰が言ったの?」
「…」
「…」
「…俺を、ひとりぼっちにすんな」
「神様はいつもみんなといるよ」


次の朝彼女は本当に死んでいた。
俺たちを作ったくせに俺たちを捨てた。
終わりへと近付くこの世界と、微かに残る温かい愛情を置いて




20110515 ぱちこ
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