なにをする気にもなれなかった。布団の中で1日が始まって布団の中で1日が終わる。食事とトイレと風呂以外の時間はずっと布団の中にいて、任務も断り続けた。
タダオが死んだ。
それは、十何年も連れ添っていた愛犬の死。変な名前って最初は家族にも友達にも馬鹿にされたけどタダオはきっとこの名前を気に入ってくれていた。私が名前を呼べば嬉しそうに駆け寄ってきて大きく尻尾を振り回す。その瞬間のタダオの表情が好きで好きで、わたしは何度も名前を呼んだ。カボチャと苺が好きだった。生まれつき少し体が弱くて、何度も病院に連れていった。タダオは特に寒さに弱く、外で飼うことは到底不可能だった。暖房のついた部屋でいつも丸くなって、まるで猫みたいだとお母さんがよく笑っていた。
「名前」
「…サイ?」
久しぶりに他人と顔を合わせた気がする。任務を断り続ける私に何人かが心配して来てくれたけど、私は部屋から一歩も出なかったし誰も部屋には入らなかった。
「え?あれ…」
部屋の鍵、かけ忘れてたっけ?
「行こう、名前」
「は?ど、どこに?」
「早く、行こう」
だから、どこに?
こんなに強引なサイは初めて見る。ぐいぐいと腕を引っ張られて半ば無理やり布団から出されると相変わらず早く早くと私を急かす。
一体なんなの?
サイってばどうしちゃったの?
本当はどこかに出かけたりなんかしたくはなかったのだけど、サイが真剣な顔で、こんな事何時までも続けちゃだめだよ。なんて言うから、私は渋々家を出た。
それにしても、私を叱るサイの顔が一瞬とても寂しそうに見えたのはどうしてなんだろう。