家に遊び行っていい?って、尋ねられたら非常に困る


「いいじゃん、別にお前んちがボロくても気にしねえから!」

ケラケラ笑う切原君は付き合って半年の彼氏。名字を聞いた時もしかしたらと想像はしていたが、クラスの集合写真をお母さんに見せたところ間違いない私のお父さんと同様中学時代テニスの全国大会に出場していた切原赤也さんの息子らしい。

お母さんは切原君の写真を眺め髪や顔付きがそっくりと笑うけど私にとって笑い事で済まされない。非常事態だ。


「気にすることないんじゃない?」
「無理!学生時代の俺様っぷりや恥ずかしいキメ台詞、最後は試合に負けて坊主になった氷帝部長が父親だなんて、知られたら絶対振られちゃう!」

お母さんは別にいいじゃないとクスクス笑う。どうしてお父さんをそんなに余裕を持って笑えるのかわからない。私は考えただけで冷や汗が出るのに




「なあ、いいじゃんかよー」
「…切原君、最近そればっかり」
「うん。お前んち見てみたいもん」
「やだってば」

切原君は私が跡部景吾の娘だと知らない。母親似だし、私も傲慢な父親の存在をちらつかせるような事は言わない。


「お願い!な?大好きな彼女の部屋が見たいって、男として普通じゃねえ?」
「う…」

ああだめその上目遣いは反則だよ切原君、そんな顔されたら私頭のなか真っ白になって心が今にも溶けちゃいそうだからだから…


「う…ん」


思わず首を頷けてしまうよ



「どうしようどうしようどうしよう」

玄関を何往復もしていると私の描いた下手な地図片手に切原君がやってきた。あ、ほら、インターホンが鳴る。


「切原君!」
「ちーす、つかびっっくりしたあー。お前んち豪邸なのな!」

いつもと変わらない笑顔でにこにこ笑う彼にいくらか心が晴れた。


「お、紅茶サンキューな」
「ダージリンでよかった?」

アッサムもあるけど、と付け加えるとまるで呪文を聴いたような顔をしたもんだからあわてて「どれも似たようなものだから!」と笑った。どうしよう今の引かれてないよね…?なんだかこわくて顔が見れない。


「…俺、家じゃ麦茶かジュースしか飲まねえから、こういうのすげー嬉しい!」

ずきゅーん
切原君、優しすぎだよ。そういえば前に猫舌って言ってたのに私熱々の紅茶出すとか…ほんと馬鹿。でもごくごく飲んでるよ?…きゅん。惚れ直してしまった。



「あーん、誰だ?」


赤くなった頬が一瞬でさめざめと青くなる。来たついに来たとうとう来た


「あ…お父さん…。えっとこちら…」
「お邪魔してます!切原っす」
「切原?」
「はい!」
「おおおお父さん早く出てってよ、二人で話したんだから!」
「うるせー。お前の父親、テニス経験は?」
「え、なんで知ってるんすか?親父はテニス大好きっすよ」
「やっぱりな」
「お父さんほんとにもういいから」
「やっぱりって、何がすか?」
「お前の父親と知り合いだぜ。聞いてみな、跡部景吾だ。」
「あ…それってもしかして氷帝部長の?」
「そうだ、それだ。」


!!
頑張って隠してたのにどうして自分から言っちゃうの?信じられない…

ぽろぽろと涙が出た。大丈夫かよって、頭を撫でてこようとした手を全力ではたいて出てけと言い放つ。大人しくその通りにする父の姿は珍しかった。
熱々だった紅茶はいつの間にか冷えきっていた。


「もしかして、隠してた?」
「…うん…引いたよね」
「ははは、全然。」


親なんてどうでもよくねー?って、切原君にキスされた。初めて…だと思う。ああなんだか頭がうまく働かない。まだ愛されているんだと希望を感じた。私大丈夫?嫌われてない?

その後私たちはなんだか甘い時間を過ごした。家に来てもらってよかったな。ますます仲良くなれた気がする。じゃあまた明日学校でねって、切原君を玄関で見送った後お父さんの部屋に行った。

「さっきは言い過ぎた…かな。ごめんなさい」
「あーんなんのことだ?それよりも今晩は焼肉だ。」
「本当?やった!」


お父さんなんて偉そうで口煩くて大嫌い。だけど、私と喧嘩した日は必ず私の好きな夕御飯にするんだよ。あとね、お腹もぽっちゃりじゃないし、臭くもないよ。偉そうだけど、私の一言で時々泣いちゃうことも知ってるよ。


へ:平穏が難しい
20110731

ぱちこ






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