火拳のエースが死んだらしい。

船の野郎どもがクスクスと笑いながら話す世間話を聞いてるとまったく海というものは何が起こるかわからないと改めて自覚させられる。


そばかすをつけたその柔らかい頬を大きく動かして楽しそうに笑う彼が誰かに殺される姿なんて想像出来ないししたくもない。ぐちゃぐちゃに絡まる記憶の中で彼だけが鮮明に浮かび上がった。




「本当に行っちゃうの?」
「おうよ」
「私も海賊になる」
「頑張れよ」
「……」
「お前結構向いてると思うぜ」

連れていってはくれないんだね、涙が溢れそうになって急いで下を向いた。上手く誤魔化せたと思ったが零れた粒が地面を濡らした。やばいこれは汗ということにしてしまおうなんならこの際ヨダレでもいい。お腹すいたってことで。

「向いて、ないと思う。」
「…」
「守ってくれる人がいなきゃ…すぐ死んじゃう」
「……お前、見た目によらず結構欲深なのな。全部欲しいって顔してる」

なにもかも、欲しいもんは全部自分のもんにしちまえって、そりゃ無理な話。だって私が本当に欲しいものは、今から消えてしまうんでしょう?


「まったくよお、海ってーのは何が起きても不思議じゃねえよな。」

「じゃあとっととひとりで死んじまえ」

「いいの?俺、そんときゃ海になるぜ。お前を二度と手放さないように」





火拳のエースは死んだ。
今日も旗はひるがえり、海は船を押し進める。










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