気付けば彼はいつだって優しかった。たいして欲しくもないブランド品のバッグも時計もさりげなく頼めば全部プレゼントしてくれたし、部活以外の時間はなるべく一緒にいてくれた。お弁当はいつも二人で食べた。わたしの作った庶民くさいおかずも美味しいと笑って食べてくれた。卵焼きが特にお気に入りのようだった。

わたしはそんな跡部を右手で力強くひっぱたく。「わたしとテニス、どっちが大切なの?」

跡部は困った顔をして黙り込む。わたしは分かってた。本当は分かってた。わたしなんかよりずっとずっとテニスの方が大事だってこと、心の底では分かってた。

得意顔して幸せそうに楽しそうにボールを打つ跡部が大好きだったはずなのにそれを取り上げようとするわたしは跡部を見えない鎖でガチガチに固めるの。

そんな自分にハッとした。跡部、逃げて。わたしの中のわたしが警報を鳴らす。逃げて。



跡部跡部跡部跡部。こんなに頭の中がいっぱいになっているのに彼はいない。次は幸せになってね。うまく愛せなくてごめんね。










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