○鳥ちあ「お宅の吉野さんが夜中にデレたようです」 風呂からあがるとまだ電気のついたリビングが目に入ってきた。 もしかしたら消すのを忘れたのかもしれないと、ドアを開けてみると 「…」 そこにはかろうじて寝てはいないものの、ソファに座って船をこいでいる恋人が。 先に寝ていろと言っておいたのに、何をしているんだ。 「おい、吉野」 「んー」 「吉野、起きろ。こんなところで寝るな」 体を少々強引に揺さぶるとフラフラとしながらも立ち上がる。 「あれ、トリ?風呂出た?」 「あぁ。出た。ほら寝るぞ」 手を引っ張り寝室まで連れて行くと、限界が近いのか倒れるようにベッドへとダイブし 「トリ」 両腕を伸ばしてきた。 「…吉野、何してんだ」 「何って、見てわかんね?」 「わからん」 するとムっとした顔で 「ほら」 「は?」 「だから、あーもう!抱きしめろって言ってんの!」 それでも少女漫画の編集者かよ、とかなんとかブツブツと赤い顔で呟く恋人に驚きを隠せない。いつも抱きしめるのは俺からで、こうやってねだってくるのは珍しかった。 「お前、熱でもあるのか?」 「なっ、どうしてそうなるんだよ」 「いや、じゃあ俺が夢見てるのか」 痺れをきらしたのか立っていた俺に抱きついてきて、抱きとめたその体は風呂あがりの俺よりも温かい気がする。 「トリ、明日も早いだろ」 「あぁ」 「最近全然こうして一緒に居られないから、寂しいつーか、いつも寝るのは俺が先で起きたらトリはもう居なくて。だから、た、たまにはこうして寝たいような」 言っていて恥ずかしいのか下へと下がる顔と視線を合わせたくてしゃがみこむ。 予想していたよりも可愛い顔に頬が緩んだ。 「何笑ってんだよ」 「可愛いなと思って」 「んなっ、いきなりなんだよ!」 「千秋」 「なに」 「千秋、千秋、ちあき」 「聞こえてるって言ってんだろ」そう言って首に抱きつく小さな体が寂しいなんて感じないように俺は柄にもなく 「千秋の傍にずっと居るよ」 だなんて甘ったるい台詞を囁きながら腕を回した。 (〜2012/01/12掲載) |